↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えすえむっ!  作者: 角竜
その覚醒を、誰が望んだ
PR
18/97

選べないなら、選ばせるな

地下商業施設の天井で、人工覚醒装置の赤いランプが一斉に点いた。一個、二個、三十、五十――数え切れない。


「全員伏せて!」


三枝先輩が叫ぶ。その直後、天井から白い針みたいなものが大量に降った。


「っ!」


僕は腕を上げる。


――受けんな!


Sの声に反射的に身体を横へ投げる。針が床へ突き刺さり、その一本が目の前で震えた。細い注射針の中には、透明な液体が入っている。


「こんなの……」


周囲に一般人がいる。買い物客じゃない。閉鎖された施設なのに十人、二十人、いやもっと。拘束されていたらしい。さっきの悲鳴はこの人たち。


「実験体……?」


紗月さんが青ざめる。Stringの男が少し離れた場所で両手を広げた。


「選択肢は公平にした」


「何が公平だ!」


僕は叫ぶ。


「ここにいる全員、能力を得れば生き残れる」


「得られなければ?」


倉田が聞く。


「運が悪かったってことだ」


――殴る。


(待って)


――もう待たねぇ。


(でも今は)


分かってる。男を殴ってる場合じゃない。天井の装置が、次の投射を示すように赤く光る。


「三枝先輩!」


「分かってる!」


三枝先輩がMeasureを発動し、槍を床へ突き立てる。透明な領域が広がり、落ちてくる針の速度と軌道が鈍った。けれど、すべてを覆えるわけじゃない。


「倉田!」


「おう!」


倉田もMetalを発動する。両手を握ると、金属製の針が一斉に軌道を変えた。


「ぐっ……!」


倉田の顔が歪む。


「大丈夫!?」


「これくらい!」


針がまとめて壁へ張り付く。第一波は防げた。


「やるじゃねぇか」


Stringの男が笑う。


「じゃあ二回目」


装置がまた赤くなる。


「何回あるんだよ!」


倉田が叫ぶ。


「装置を壊せ!」


三枝先輩が叫ぶ。けれど装置は天井、それも一台や二台ではない。


「S!」


僕は呼ぶ。


――おう。


「一回だけ」


――分かってる。


交代。



世界が少し薄くなり、Sが表へ出る。足元を確かめると、すぐ近くにStringの男がいる。


「お前」


男が楽しそうに笑う。


「攻撃しないと速くなれないだろ」


「そうだな」


SPはゼロ。


「ならどうする?」


「こうする」


Sは隣の自動販売機へ拳を一発叩き込んだ。ドン、と鈍い音が響く。


「は?」


男が止まる。相手が人間でなくても、損害を与えれば攻撃判定になる。少量のSPが入った。


「他者へ攻撃・損害」


Sが笑う。


「てめぇじゃなくてもいい」


Speedを使うと、一瞬で身体が軽くなる。Sは柱、壁、閉鎖された店舗の看板を次々に蹴り壊し、物品への損害でSPを少しずつ上積みしていく。


――壊しすぎ!


(あとで怒られる!)


「生きてりゃ弁償できんだろ!」


Speedが一段、二段と上がる。壁を蹴って天井へ近づき、一台目を拳で、二台目を蹴りで破壊。そのまま三台目、四台目へ移る。


――右!


(見えてる!)


飛び出す針を回避。五、六、七。でも多すぎる。全部は無理。


「S!」


三枝先輩が叫ぶ。


「西側は私が落とす!」


「東は!」


倉田が応じる。


「金属なら俺!」


「じゃあ真ん中!」


紗月さんが叫ぶ。Mist。白い霧が広がり、空気抵抗が増える。針の落下速度が少し鈍る。


――今!


(交代して!)


予定通り、一度だけ交代する。



僕に身体の主導権が戻ると、Speedの加速は消えた。けれど、落ちてくる針の一部はまだ僕へ向かってくる。これは避ける。


一歩、二歩、三歩。今度はSpeedじゃない。普通に避ける。


――いいぞ。


(褒めるの珍しいね)


――今だけだ。


目の前には、拘束された男性がいる。足には針が刺さっていた。


「大丈夫ですか!」


「抜いてくれ!」


「待って!」


イヤホンから白峰主任の声。


『抜くな! 薬剤が注入済みなら刺激になる!』


男性の身体が震えた。


「う……」


腕の血管が光る。


「覚醒……」


何型か、まだ分からない。男性が頭を抱える。


「痛い……!」


僕が前へ出ようとする。


――違う。


Sの声に、僕は足を止める。


(でも)


――お前が代わって痛くなる意味ねぇ。


そう。できるのは痛みを引き取ることじゃない。


「主任!」


『鎮静剤を送る!』


「三枝先輩!」


「救護班を入れる!」


人に頼る。周りへ任せる。その上で、僕はこの場で自分がやることを探す。Stringの男が逃げようとしている。


「待て!」


僕は走る。男は振り返って笑った。


「お前」


「助けるのやめたのか?」


足が止まりそうになる。


「向こうで苦しんでるぞ。ほら、行かなくていいのか?」


胸が痛い。行きたい。自分が助けたい。でも、それをこいつは分かっていて利用してる。


「行かない」


僕は言う。男の笑顔が少し消える。


「……何?」


「僕じゃなくていい」


救護班が走ってきて、男性の処置を始める。


「僕より、できる人がいる」


僕は男を見る。


「だから僕は今、あなたを止める」


男が糸を放つ。僕は避ける。Momentumは使えない。受けてない。でもいい。能力がなければ戦えないわけじゃない。


「偉そうに!」


二本、三本と糸が飛び、足に絡む。僕は転倒した。


「っ!」


痛い。


少しMPが溜まる。


――使うな。


Sが言う。


(え?)


――それくらいなら取っとけ。


そうか。MPは貯められる。ここで無駄に使わなくていい。僕は糸を引っ張らない。代わりに床へ手をついて立つ。


男が近づく。


「M型なのに、攻撃されても能力使わないのか?」


「使わせたいんですか」


男の顔が少し変わる。これは挑発だ。相手が攻撃を続ければ僕はMPを得る。なら、こちらがそれを狙っていると思わせればいい。


「……チッ」


男が止まった。攻撃しない――M型への基本的な対策だ。


――いいじゃねぇか。


(うん)


僕は少し笑う。


「攻撃しないんですね」


「何?」


「M型に攻撃しないのが正解なんでしょ?」


男の眉が動く。


「だったら僕にも、攻撃しないっていう選択肢がある」


男が糸を引き、僕の足を拘束した。だが次の瞬間、三枝先輩が動く。


「Measure!」


Measureが糸の動きを制限する。


「なっ!」


男の動きが止まった。


「話しすぎ」


三枝先輩の槍が喉元。


「確保」


Stringの男が舌打ち。


「俺一人止めても意味ないぞ」


「そうかもね」


僕は答える。


「でも」


周囲を見れば、人工覚醒装置の大半は壊れている。救護班が動き、倉田も紗月さんも三枝先輩も、それぞれ自分にできることをしていた。


「今日は、ここを止めた」


男が黙る。



事件後の集計では、人工覚醒させられた人は十二人。そのうち能力が発現したのは七人で、M型が三人、S型が四人。全員生存し、一人は重体。それでも、生きている。


管理局の簡易医療区画で、僕は廊下の椅子に座っていた。隣には倉田がいる。


「なあ」


「何?」


「俺、結構役に立った?」


「うん」


「……そっか」


倉田は少し嬉しそうだった。昔、僕を弱いと言った人が、今は自分が役に立てたかを確認している。人って変わるのかもしれない。少しずつ。


紗月さんが飲み物を三本持ってくる。


「はい」


「ありがとう」


「倉田君も」


「俺も?」


「働いたから」


「……どうも」


妙な空気を切るように、三枝先輩がやってきた。


「三人とも」


「はい」


「怒る?」


僕が聞く。


「怒る」


ですよね。


「施設破壊」


――必要経費。


「勝手な能力使用」


倉田が目を逸らす。


「監視対象の独断行動」


紗月さんは知らん顔をしている。


「そして」


先輩が僕を見る。


「一回だけの人格交代」


「……守りました」


「そう」


「え」と声が漏れる。三枝先輩が少しだけ笑った。


「そこは合格」


嬉しい。かなり。


「ただし、自動販売機七台、看板十二枚、照明四基」


――必要経費。


(後で謝って)


――嫌だ。


僕がため息をついた、その時、白峰主任がやって来た。顔がいつもより険しい。


「装置を解析した」


画面には、この施設に設置されていた人工覚醒装置のログが表示される。


「何か分かったんですか」


「選抜対象だ」


選抜対象は十一名。そこに今日、新たに七名が追加されている。


「また……」


でも白峰主任は首を振る。


「違う」


一番下には、別の欄があった。


【特別対象】


対象は一人だけ。そこにあった名前は、僕だった。


【真白 湊】


「……え」


Sも黙る。その横の評価項目には、S適性とM適性の両方が記されている。


そして一番下には、目的。


【CONTROL TEST】


「コントロール……?」


白峰主任の顔は硬い。


「選抜対象は能力の強い人間を集めてる。でも君は違う」


僕を見る。


「君には、強制覚醒計画そのものを制御する役割を想定している」


背筋が冷える。全人類強制覚醒。その中心。僕たちは単なる実験体じゃない。計画を完成させるための部品として、最初から見られていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。