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えすえむっ!  作者: 角竜
その覚醒を、誰が望んだ
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17/92

正しい側なんて、まだ分からない

四人。選抜対象十一人のうち、四人が管理局の保護下から消えた。その数字だけでも十分嫌だった。でも、もっと嫌なのは、四人とも自分の意思で出ていった可能性が高いことだった。


「洗脳とかじゃないんですか」


僕は聞いた。管理局の会議室。白峰主任が首を振る。


「現状、その痕跡はない」


「じゃあ本当に」


「選んだんだ」


四人は、政府よりも自分たちを受け入れてくれる場所として、能力者解放組織を選んだことになる。


――普通じゃね。


Sが言う。


(普通?)


――昨日まで一般人だった奴が、急に政府に囲われて、能力隠せ、外出するな、検査受けろ、家族にも黙れ。


Sは少し間を置いてから続けた。


――逃げたくもなるだろ。


何も言い返せなかった。三枝先輩が僕を見る。


「また会話してる?」


「はい」


「内容は?」


「……管理局、結構嫌われても仕方ないよねって」


「Sが?」


「はい」


少し考える。


「僕も」


三枝先輩の眉が動く。少し考えてから、


「正直ね」


「え」


「私もそう思う」


意外すぎた。


「先輩、管理局の人ですよね?」


「所属してるからって、全部正しいと思ってるわけじゃない」


その言葉に少しだけ安心した。


「ただ、能力者を完全に自由にすれば、それで解決するとも思わない」


そう。そこも分かる。S型は攻撃すればするほどSPを得る。M型は攻撃されるほどMPを得る。能力そのものが、戦いを強くする構造になっている。


無制限に好きに使える社会。それが安全だとは思えない。


「だから」


白峰主任が言う。


「今の問題は単純な政府対反政府じゃない」


画面には、消えた四人の名前が並ぶ。


「彼らが、なぜ能力者を集めているか」


そこだった。人工覚醒、Mass Test、選抜、能力者解放組織――全部、同じ線の上にあるはずだ。


「選抜基準は?」


僕が聞く。


「適合率だけじゃない」


主任が画面を切り替える。年齢、能力、覚醒時の出力、精神安定度、身体耐性。そして。


「SP・MP保持効率」


「保持効率?」


「同じだけ攻撃しても、得られるSP量は人によって違う」


なるほど。


「Mも同じですか」


「同じ」


同じ攻撃を受けても、MPが十しか溜まらない人もいれば、二十、百と溜められる人もいる。能力者にも個人差がある。


「選ばれているのは、極端に保持効率が高い人間だ」


僕は一覧を見る。小日向紗月。M型/Mist。適合率八十七%、MP保持効率はS判定。


「S判定?」


「最上位」


嫌な感じがした。


――選りすぐりってことか。


(うん)


でも何のために。



その日の放課後、僕は紗月さんと学校の屋上にいた。なぜか朝倉も一緒だ。


「……どうして朝倉がいるの?」


「真白君が知らない女子連れてたから」


「言い方!」


「知らない女子です」


紗月さんが平然と言う。


「認めないで!」


――修羅場?


(黙って!)


三枝先輩は少し離れた場所で監視中。この状況、客観的に見ると本当に意味が分からない。


「で」


朝倉が紗月さんを見る。


「何の知り合い?」


僕は言葉に詰まる。能力者のことも、人工覚醒のことも、何一つまともに説明できない。


「事故で」


「事故」


「知り合って」


「事故」


「はい」


「雑」


無理だ。朝倉の目が鋭い。紗月さんはそんな僕を見て少し笑っていた。


「面白いね」


「何が?」


「真白君。学校だと普通なんだ」


「どういう意味!?」


「管理局だと」


紗月さんが少し真似する。


「『僕がやります』『僕が受けます』『僕が――』」


「やめて!」


朝倉が僕を見る。


「何それ」


「違う!」


――違わねぇ。


(黙って!)


その時、屋上の扉が開いた。三枝先輩がすぐに槍へ手をかける。でも入ってきたのは倉田だった。


「真白」


「あ」


倉田は紗月さん、朝倉、三枝先輩、僕を順番に見て。


「……邪魔した?」


「してない!」


なんでみんな、そういう解釈するの!?


「話ある」


倉田が僕へスマホを見せる。画面には送信者不明のメッセージ。僕の胸が冷える。


【能力を隠す必要はない。】


紗月さんに届いたものと同じだ。さらに続きがある。


【君は被害者ではない。】


【力を手に入れた側だ。】


【真白湊に守られる必要もない。】


そこに僕の名前が出た。


「なんで」


「知らねぇよ」


倉田の声も震えている。画面の最後には、もう一文。


【自分が弱いと決めた人間に従うな。】


倉田がスマホを握る。


「これ、俺が昔、お前に言った言葉に似てる」


僕は覚えていた。忘れようとしていたけれど、倉田は僕を殴りながら何度も言っていた。弱い奴が悪い。反抗しない奴が悪い。だから、自分たちが何をしてもいい――そんな勝手な理屈。


「俺、何でこいつらがそれ知ってんのか分かんねぇ」


三枝先輩がスマホを受け取る。


「端末解析に回す」


その瞬間、紗月さんのスマホも一度だけ鳴った。朝倉が「友達?」と聞く。


「違う」


紗月さんの顔色が変わる。画面に表示されたのは、同じ送信者だった。


【今夜十九時。】


【選びたいなら来い。】


続いて地図が表示される。指定されたのは、使われていない地下商業施設。


「罠ですね」


僕が言う。


「罠ね」


「罠だな」


――罠だ。


三枝先輩、倉田、Sまで全員一致だった。そして紗月さんが言った。


「行く」


全員が止まった。


「駄目」


三枝先輩が即答した。


「どうして」


「罠だから」


「分かってる」


紗月さんはスマホを握る。


「でも、私、自分で決めろって言われた」


自分で決めろと言ったのは、能力者解放組織だけじゃない。


「真白君にも、分からないなら分からないままでいいって言われた」


胸が少し痛い。


「でも、分からないままじゃ選べない」


正しい。


――止めんなよ。


Sが言った。


(でも危ない)


――だから俺らも行く。


それ、絶対三枝先輩には怒られる。


「駄目です」


ほら。


「まだ何も言ってないです」


「顔」


「また!?」


三枝先輩はため息。


「管理局が先行する」


「でも」


「真白君」


目が怖い。


「今回はあなたが守る対象じゃない」


その言葉が胸に刺さる。


「小日向さん自身が選ぶために行く」


そう。僕が代わりに答えを出すんじゃない。


「なら」


三枝先輩が言う。


「あなたの役割は、彼女が選べる状態を守ること」


僕は少しだけ意味を考えた。敵を倒すとか、攻撃を受けるとか、そうじゃない。選択肢を奪わせない。


「……分かりました」



十九時。閉鎖された地下商業施設の古いフードコートに、僕、三枝先輩、紗月さんが入った。少し後方には管理局の部隊。


そしてなぜか、勝手についてきた倉田。


「なんでいるの」


「俺にもメッセージ来た」


「帰って」


「お前に言われたくねぇ」


正論だった。


フードコートの中央には、一人だけ待っている。医療区画へ侵入してきた、あのString能力者だ。


「やあ」


笑う。


「来たね」


三枝先輩が槍を向ける。


「動くな」


「怖いな」


男は両手を上げた。攻撃する様子はない。


「今日は戦うつもりはない」


「信用できると思う?」


「なら全員で帰ればいい。彼女以外は」


空気が変わる。


「何を話すつもり」


紗月さんが聞く。


「真実」


「よくある台詞ね」


三枝先輩が冷たく返す。男は笑った。


「じゃあ一つ。S型とM型――なぜ政府が隠していると思う?」


「社会が混乱するから」


僕が答える。


「半分正解」


男は指を一本立てる。


「もう半分」


三枝先輩の顔が少し変わった。


「能力者が増えると、政府が困るからだ」


「何が」


「今は能力者が少数だから管理できる。でも――」


男が笑う。


「もし日本人全員がSかMになったら?」


僕の背中に冷たいものが走る。


「隠せない」


紗月さんが言う。


「そう」


管理もできない。


「だから俺たちは、全員を能力者にする」


静寂。


僕は意味を理解するまで少し時間がかかった。


「……全員?」


「人間には誰にだってSかMの素質がある。覚醒しない人間は条件が足りないだけ」


恐怖、怒り、苦痛、ストレス、生存本能。そこへ人工覚醒技術まで加われば、覚醒条件を人為的に揃えられる。


「Mass Testは」


三枝先輩が低く言う。


「実験」


「そう。学校三十二校なんて、ただの予行演習だ」


僕の拳が震える。


「最終目標は」


紗月さんが聞いた。男は嬉しそうに言った。


「全人類」


――殴っていいか。


(まだ)


――まだ!?


「強制覚醒」


男は言った。


「誰も力を隠さなくていい世界になる」


「それ」


僕が言う。


「選んでないじゃないですか」


男がこちらを見る。


「何が?」


「紗月さんには、自分で選べって言った」


能力者として生きるか、どうするか。


「なのに、全員を無理やり覚醒させる?」


矛盾。


「それは自由じゃない」


男の笑顔が少しだけ消えた。


「違う」


「違わない」


「能力を持たないこと自体が、抑圧なんだよ」


「それを決めるのは」


僕は紗月さんを見て、倉田を見て、最後に自分の胸へ視線を落とす。


「本人だ」


沈黙。Sが静かに笑った。


――いいじゃねぇか。


男が手を下ろす。その瞬間、三枝先輩が槍を構える。


「会話は終わり?」


「そうだね」


Stringの男が笑う。


「でも」


天井から、カチッ、と小さな音がした。僕が見上げると、大量の小型装置が並んでいる。


――湊!


Sが警告を飛ばしたのと同時に、赤いランプが一斉に点灯する。男が言う。


「今日は選択の話をしに来た」


三十、五十――数え切れない装置が、僕たちの周囲で赤く点灯する。


「だから選んでもらおう」


赤い光。


「力を得るか」


「ここで」


一拍。


「無力なまま死ぬか」


人工覚醒装置が全部起動した。地下施設全体から悲鳴が上がった。


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