↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えすえむっ!  作者: 角竜
その覚醒を、誰が望んだ
PR
13/115

残っているのは、力じゃなくて傷

学校が再開したのは、三日後だった。壊れた窓は新しくなり、割れた床も補修され、教室のロッカーも、倉田が能力でぐちゃぐちゃにした机も、全部が何事もなかったみたいに元へ戻っていた。


「……配管設備の破損による事故、ねえ」


朝倉がスマホを見ながら言った。ニュースの記事には、学校で発生した謎の事故、負傷者数名、原因調査中とだけある。能力者については、当然一文字もない。


「便利だね、配管」


「……そうだね」


「机も飛ぶんだ」


「最近の配管はすごいから」


「真白君」


「はい」


「嘘下手だね」


知ってます。


――バカ正直に答えんな。


(誰のせいで隠し事が増えたと思ってるの)


――俺じゃねぇだろ。


それは、そうだった。僕は席に座る。一つ前の倉田の席はまだ空いている。人工覚醒の影響を見るため、今も管理局の施設で検査中だ。命に別状はなく、能力も安定してきているらしい。


でも、帰ってきた後、僕たちはどういう顔をすればいいんだろう。僕たちは、いじめていた側といじめられていた側で、助けた側と助けられた側にもなった。


たった三日で、関係だけがぐちゃぐちゃになった。


「真白君」


朝倉が僕の机を指差した。


「それ」


「え?」


机の中に一枚の紙が入っていた。いつ入れられたのか分からない。一瞬、嫌な記憶が蘇る。昔なら、ゴミや悪口を書いた紙が入っていてもおかしくなかった。


紙を開くと、そこにはたった一行だけ書かれていた。


『放課後、旧体育館に来てください』


「ラブレター?」


「違うと思う!」


「まだ何も言ってないけど」


言ったよ!


――行こうぜ。


(絶対怪しいよ)


――だからだよ。


(君、危機管理って知ってる?)


――お前にだけは言われたくねぇ。


何も言い返せなかった。


◇


放課後、旧体育館。


「来たわね」


「三枝先輩!?」


待っていたのは、槍を持った三枝先輩だった。ジャージ姿のその後ろには、分厚いマットと金属製の標的、そして白峰主任までいる。帰ろうかな。


「露骨に嫌そうな顔しないでくれる?」


白峰主任が傷ついたように言った。


「自覚あるんですね」


――成長したな。


(何が?)


――嫌な奴に嫌な顔できるようになった。


褒められてるのかな。


「今日は検査じゃない」


三枝先輩が言った。


「訓練よ」


「訓練?」


「あなたたち、自分の能力について勘違いしてるから」


僕とSは同時に止まった。


「勘違い?」


白峰主任が端末を操作すると、画面にMPとSP、二本のゲージが表示された。


「能力者が力を使うには燃料がいる」


主任が言った。


「M型は、攻撃や苦痛を受けてMPを得る」


三枝先輩が槍の石突きで自分の肩を軽く叩く。


「私はM型。Measureを使うにはMPが必要」


「じゃあ先輩が最初から能力を使えてたのは?」


「貯めていたから」


MPは、その場で全部使う必要はない。蓄積できる。だから先輩は、戦闘前から一定量を保持していた。


「一方、S型は他者へ攻撃や損害を与えることでSPを得る」


もう一方のゲージはSP。Sの能力、Speedは、他者へ攻撃や損害を与えて得たSPを速度へ変換する。


「待ってください」


僕は聞いた。


「校門での戦いで、僕もSpeedを」


「使えていない」


「え」


きっぱり言われた。白峰主任が画面に戦闘映像を出す。僕へ交代した直後、確かに僕は少し速く動けていた。


「これはSpeedの発動じゃない。身体に残っていた運動――直前までSが使用していたSpeedによる加速と、人格交代直後に残った身体感覚だ」


Sが盛大に笑った。


――お前、Speed使えたって喜んでたよな。


(うるさい!)


――三歩で。


(うるさいって!)


「それから、Sの状態でMomentumが溜まったように感じた件も同じ」


受けた衝撃そのものは身体に残る。でも、MPとして獲得していたのは僕が表に出ていた瞬間だけ。


「能力の器は肉体にある。でも、獲得と使用の権限は人格側にあるらしい」


あの時に感じた手応えは、半分だけ正しかったらしい。僕はMomentum。SはSpeed。まだ、そこは混ざっていない。


――当然だ。


Sが言った。


――俺のSpeedまでヘタクソに使われたら困る。


(誰がヘタクソだ!)


「もう一つ」


三枝先輩が僕の額を指差した。


「校門でやった連続交代は禁止」


「ええ!?」


――はぁ!?


僕たちの声が重なる。


「戦闘中に三回以上交代した後、あなた十二分間記憶が飛んでる」


「……え?」


知らなかった。


「脳波も乱れてた。あれは高速交代なんかじゃない。無理やり主導権を投げ合ってただけ」


背筋が冷えた。あの時は、うまくいったと思っていた。


「だから今日から、一回ずつ正しく交代する訓練をする」


「正しく?」


「Mで受ける。必要な分だけね」


三枝先輩はそこを強調した。


「MPを貯めるために無駄に傷つかない。次にSへ交代。Sは攻撃してSPを得る。でも、必要以上に相手を傷つけない」


今度はSが黙った。


「あなたたちは正反対だけど、問題は同じ。力を得るための行為を、正当化しないこと」


僕は自分の腕を見る。傷跡が残っている。僕は、誰かを守るためなら受ければいいと思ってしまう。Sは、僕を守るためなら殴ればいいと思ってしまう。能力は、その考え方を強くする。Mは傷つくほど強くなる。Sは傷つけるほど強くなる。


だから、危ない。


「……やります」


僕は言った。


――しゃーねぇ。


Sも答える。三枝先輩が少しだけ笑った。


「じゃあ始めるわよ。最初の課題」


僕も構える。


「私の攻撃を、一発だけ受けなさい」


「はい!」


「二発目は避けて」


「え?」


槍が来た。速い。一発目は腕で受ける。


「ぐっ!」


受けた衝撃がMPへ変わり、身体の奥に熱が溜まる。けれど、すぐに二発目の槍が来た。反射的にまた腕を上げようとする。


――避けろ!


Sの声に押されるように、僕は身体を横へ投げた。槍が鼻先を通り抜ける。


「……!」


避けた。僕が、攻撃を避けた。三枝先輩が満足そうに頷く。


「それが今日、一番大事な訓練」


たった一回避けただけなのに、少し変な感じがした。今までの僕なら、受けられるなら受けていた。Momentumがある今なら、なおさら。でも、受けなくていい攻撃は受けなくていい。当たり前のことなのに、僕にはそれが難しい。


――やっと人間らしくなってきたな。


(君に言われたくない)


――何だと。


その時、白峰主任の端末が鳴った。三枝先輩の表情が変わる。


「何?」


主任は画面を見たまま、しばらく黙り込んだ。


「……解析が終わった」


「何のですか?」


僕は聞いた。解析していたのは、黒い箱に残されていた【PROJECT LIBERATION】のデータだ。暗号化された第二段階に残っていた文字は、ALL。


主任が画面をこちらへ向ける。


「ALLは計画名じゃなかった」


表示されたのは東京都内の地図だった。赤い点が、一つ、二つ、十、二十と増えていく。全部、学校。


「対象範囲だ」


僕は言葉を失った。


「PHASE 1は人工覚醒技術の実証。そして第二段階は――」


画面に新しい文字が浮かぶ。


【PHASE 2:MASS TEST】


MASS TEST――大量試験。


「次は一人ずつじゃない」


白峰主任が低い声で言った。


「学校単位で、人工覚醒を試すつもりらしい」


その中に、僕たちの学校もあった。でも、赤く光っているのはここだけじゃない。三十一校。何千人、何万人。僕の頭に最後の文字が浮かぶ。


ALL。


――全部助けようとか考えんなよ。


Sが先に釘を刺した。


(……まだ何も言ってない)


――言わなくても分かる。


僕は赤い点を見た。一人で全部は無理だ。僕が全部受ければいい。そんな規模じゃない。だから今度は、別の方法を探さなきゃいけない。傷つく以外の、誰かを守る方法を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。