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えすえむっ!  作者: 角竜
僕の中にいる、もう一人
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12/120

僕たちは、二人で一人じゃない

黒い箱。三つ目のランプ。


【SM】


そこだけが嫌になるくらい、赤く光っていた。


「完成してやがる」


黒いパーカーの男が笑う。僕の身体を使っているSが低く答えた。


「勝手に完成品扱いすんな」


「そう怒るなよ」


男は黒い箱を持ち上げる。


「こっちは十年以上探してたんだ」


十年以上。その言葉に僕の意識が反応する。


(S)


――分かってる。


僕たちが生まれる前から存在する、SM計画。そして、僕の名前。


「てめぇら」


Sが言う。


「俺たちに何した」


男は楽しそうに首を傾げた。


「俺たち?」


その言い方。笑い方。腹が立った。


「違うな」


男が言う。


「お前らは最初から――」


「喋りすぎだ」


白峰主任の声。次の瞬間、黒いパーカーの男の手から。黒い箱が吹き飛んだ。


「なっ!」


白峰主任が投げた小型端末が箱へ直撃したらしい。三枝先輩が動く。


「Measure!」


槍が地面へ突き刺さる。透明な領域が広がった。


「対象能力、出力制限!」


黒いパーカーの男の赤黒い煙が一気に弱くなる。


「チッ!」


でも問題は高瀬さん。倉田。二人の暴走だ。高瀬さんの拳で床が弾ける。倉田のMetalで医療器具が一斉に浮かぶ。


「真白君!」


三枝先輩が叫ぶ。


「二人を止めて!」


「簡単に言うな!」


Sが返す。


(でも、やるよ)


――分かってる。


飛んでくる金属。避ける。Speed。一つ。二つ。三つ。でも、避ければ。後ろにいる管理局員へ当たる。


――右の三本は任せた!


(え!?)


次の瞬間、身体が僕へ戻った。


「急だって!」


鉄の棒。受ける。痛い。Momentum。溜まる。続けて。金属板。腕で弾く。さらに、Momentum。


「ぐっ……!」


(戻って!)


――早ぇよ!


交代。S。世界が遅くなる。


「だからタイミング考えろ!」


(ごめん!)


「謝る暇あったら次読め!」


高瀬さんの拳。衝撃波。


――これは避ける!


横へSが滑る。衝撃が壁へその瞬間、倉田の金属。背後。


(S!)


――分かってる!


避ける。でも、今度は後ろに倒れている職員。


「クソッ!」


Sが自分から攻撃の前へ出た。金属が背中へ食い込む。


「ぐっ!」


(S!)


――うるせぇ!


痛みは僕にも届く。けれど、さっきまで僕が感じていたMomentumの熱は増えなかった。


(増えてない)


――当たり前だ。今、表にいるのは俺だろ。


白峰主任の検査で反応したのは、能力そのものじゃなく、共通の身体に残った痕跡だったのかもしれない。


(じゃあ、僕もSpeedを使えるって話は――)


――今考えんな。次来るぞ。


金属板が飛ぶ。Sが避ければ、後ろの職員へ当たる。


(代わって!)


――任せた!


身体が僕へ戻る。交代直後、金属板を腕で受けた。


「ぐっ……!」


今度は、はっきりMPが増える。痛い。でも違いも分かった。僕は僕の力を使う。Sの真似をする必要はない。


――怖ぇのは知ってる。


Sが言う。


――俺も怖ぇ。だから、できる方で動け。


(うん)


僕は床を蹴る。Speedじゃない。溜めたMomentumを脚へ流し、受けた運動量をそのまま前進へ変える。床が砕け、一気に距離が縮まった。


「それでいい」


Sの声がした。高瀬さん。倉田。二人を止める。倒すんじゃない。助ける。


「三枝先輩!」


「何!」


「黒い箱!」


床に落ちている。暴走を制御している装置。


「あれ壊したら止まりますか!」


「可能性はある。でも」


白峰主任が答える。


「強制接続中に破壊すれば、能力が逆流する危険がある!」


「じゃあどうするんですか!」


「二人を同時に鎮圧して接続を切る!」


同時。高瀬さん。倉田。距離。約十五メートル。僕一人では無理。


――一人じゃねぇ。


Sが言う。


(でも身体は一つだよ)


――なら。


Sが少し間を置く。


――速く代われ。


意味が分かった。


(できるかな)


――やるしかねぇだろ。


僕はMomentum。溜まった力を足へ今まで拳にしか使っていなかった。でも、運動量なら。前へ出る力にだって。変えられるはず。


「行くよ」


――来い。


僕。一歩。Momentumを解放。床が砕ける。一気に高瀬さんへ拳。でも、殴らない。腕を掴む。


「ごめんなさい!」


溜めた力を地面へ逃がす。高瀬さんの体勢が崩れる。その瞬間。


(S!)


――交代!


視界が揺れる。S。表へ出た瞬間、近くの金属ラックを蹴り曲げる。物品への損害で得たわずかなSPを、そのままSpeedへ変えた。倒れる高瀬さんの横を抜け、一歩、二歩、三歩。加速して倉田まで一気に詰める。


「寝てろ!」


首ではなく腹へ、必要最低限の一撃。倉田の意識が落ちる。


――戻れ!


僕。高瀬さん。まだ立とうとしている。Momentum。残り全部。床へ衝撃。高瀬さんの足元を崩す。倒れる。


「今です!」


三枝先輩が槍を黒い箱へ突き刺した。


「Measure――遮断!」


赤い光。S。M。最後に、SM。三つ。同時に消えた。静寂。金属が床へ落ちる。


ガラン。


ガラン。


高瀬さんも倉田も動かない。でも、呼吸している。


「……止まった?」


僕は膝をついた。身体中。痛い。頭も痛い。でも、生きている。二人とも。


「成功」


三枝先輩が僕を見る。


「二人とも生きてる」


僕は息を吐いた。


「よかった……」


――お前もな。


Sが言った。


(え?)


――生きてる。


珍しく。優しい声だった。だから、少しだけ。笑った。その時、拍手。一回。二回。黒いパーカーの男。三枝先輩に拘束されながら。笑っている。


「すげぇな」


「黙りなさい」


「高速交代」


男は僕だけを見る。


「やっぱSM-01だ」


僕は立ち上がる。


「違う」


「何が」


「僕たちは」


少し。迷う。昨日まで自分でも分からなかった。一人なのか。二人なのか。どちらが本物なのか。でも、今なら。少しだけ。言える。


「僕は僕」


胸へ手を当てる。


「SはS」


――当然だ。


「二人いる」


男の笑顔が少し消える。


「だから」


僕は言う。


「番号で呼ぶな」


男は数秒。黙った。そして、不気味に笑った。


「いいね」


三枝先輩に引きずられていく。最後に、振り返る。


「そのままでいられるといいな」


扉が閉じる。嫌な言葉だけが残った。


◇


その日の夕方。学校は臨時休校になった。僕は屋上にいた。朝倉が隣にいる。


「最近」


朝倉が言う。


「真白君ってすぐ消えるよね」


「……ごめん」


「謝るんだ」


「癖で」


「それもやめるんじゃなかったの?」


痛いところを突かれた。


「努力します」


朝倉が笑う。


「敬語になってる」


空は夕焼けで、拍子抜けするほど普通だった。世界がこんなに変わったのに、空だけは昨日と何も変わらない。


「真白君」


「何?」


「昨日より、ちょっと明るくなった?」


「そうかな」


「うん」


――気のせいだろ。


(黙って)


でも、少しだけそうかもしれない。


最初はSを邪魔だと思っていた。身体を奪う、暴力的で口が悪くて、すぐ人を殴ろうとする怖い奴だと。でも今日、Sも怖がるし、痛がるし、それでも僕を助けようとしていることを知った。


そして多分、僕もSを助けられる。


「二人で一人」なんて綺麗な言葉にまとめるつもりはない。僕は僕で、SはS。違うままだからこそ、互いにできないことを補える。


――なぁ。


(何?)


――今日の最後。


(うん)


――お前、最後の踏み込み遅かったな。


(……)


雰囲気を返せ。


(Speedじゃないんだから仕方ないでしょ!)


――Momentumで走る奴、初めて見たわ。


(褒めてる?)


――調子乗んな。


(やっぱり褒めてないよね!?)


朝倉が僕を見る。


「また百面相してる」


「え」


「やっぱり何か隠してるでしょ」


「……いつか」


僕は言った。


「話せる時が来たら」


朝倉が少し笑う。


「うん」


その時、スマホが震えた。三枝先輩からのメッセージだ。


添付されていたのは、管理局が回収した黒い箱の解析結果。製造番号と製造施設、その下に計画名が表示されていた。


【PROJECT LIBERATION】


【PHASE 1:人工覚醒】


その下に、暗号化された第二段階がある。詳細は読めない。見える文字は一つだけだった。


【ALL】


全て。あるいは、全員。


――嫌な予感するな。


(うん)


画面の冷たい文字を見ても、前みたいに「僕が何とかしなきゃ」とは思わなかった。僕にはSがいる。三枝先輩もいる。僕だけで抱える必要はない。


(S)


――あ?


(これからもよろしく)


少し間があって。


――キモい。


(台無しだよ!)


――でもまぁ、死なねぇ程度にな。


夕焼けの下で、僕も笑った。


僕たちは、二人で一人なんかじゃない。


一つの身体に、二人いる。


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