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えすえむっ!  作者: 角竜
僕の中にいる、もう一人
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僕が生まれる前の僕

紙には、僕の名前が書かれていた。


【SUBJECT SM-01】


【真白 湊】


その下の日付は僕の誕生日より、十六年も前だった。


「……ありえない」


声が震える。三枝先輩は紙を奪うように受け取ると、何度も裏表を確認した。


「印刷されたのは最近。でも、この管理番号は……」


「知ってるんですか?」


先輩は答えない。代わりに端末を取り出した。


「支部へ戻る。今すぐ」


――白峰のところか。


Sの声が低い。


(……うん)


――俺に代われ。


(今は駄目だよ)


――なんでだ。


(白峰主任が本当に関係してるか、まだ分からない)


――名前出ただろ。


(だからって殴ったら聞けることも聞けなくなる)


舌打ち。でも、Sは引いた。以前なら、こんな簡単に止まらなかった。



管理局第三支部。白峰主任は、研究室にいた。僕たちが入るといつもの笑顔で振り返る。


「学校は大変だったそうだね」


「主任」


三枝先輩が紙を机へ叩きつけた。


「説明してください」


白峰主任の笑顔が消えた。ほんの一瞬。でも、僕は見逃さなかった。


「これは?」


「知らないふりはやめてください」


「玲奈」


「襲撃者があなたの名前を出しました」


沈黙。僕は白峰主任を見る。怖い。でも、今度は目を逸らさなかった。


「僕は」


口が乾く。


「作られたんですか」


白峰主任の目が僕へ向く。


「誰かに」


僕は胸を掴む。Momentum。その奥。S。Speed。


「こうなるように」


長い沈黙。やがて、白峰主任は椅子へ座った。


「真白君」


「はい」


「君は十六年前に生まれている」


「当たり前です」


「なら、その紙の日付とは矛盾する」


「だから聞いてるんです!」


机を叩いた。自分でも驚いた。昔の僕なら。こんなことはできなかった。白峰主任はしばらく僕を見て。


「SM-01は」


言った。


「君自身につけられた番号ではない」


「……え?」


「研究計画の番号だ」


三枝先輩が息を呑む。


「まさか」


「知ってるんですか?」


「名称だけ」


先輩の顔が強張っている。白峰主任が続ける。


「十六年以上前。能力研究の黎明期に、一つの仮説があった」


机上の端末へS。M。二文字が表示される。


「相反する性質の能力を一人の人間が保持した場合、互いの欠点を補完できるのではないか」


僕の背中に冷たい汗が流れた。受けるMomentum。避けるSpeed。


「その検証計画が」


白峰主任が画面を見る。


「SM計画」


――ふざけんな。


Sが呟く。


「じゃあ僕は」


「待って」


主任は遮った。


「計画は成功していない」


「でも!」


「被験者は一人も残っていない」


空気が凍った。


「残って……ない?」


「研究は中止された。資料の大半も封印された」


「じゃあ」


僕の名前はどうして。白峰主任は紙を見る。


「誰かが過去の計画を利用して、君をSM-01と呼んでいる」


「誰かって」


「分からない」


――嘘だ。


S。


(……うん)


僕も同じことを感じた。全部じゃない。この人はまだ何か隠している。


「一つだけ」


白峰主任が僕を見る。


「約束する」


「何を」


「君は研究設備で生まれた人間ではない」


その言葉だけは妙に強かった。


「少なくとも」


そして。余計な一言がつく。


「私が知る限りでは」


――ぶん殴ろうぜ。


(気持ちは分かる)


その時、警報が鳴った。赤いランプ。


『隔離区画で能力反応!』


三枝先輩が端末を見る。


「何……?」


画面。医療区画。ベッドにいる。倉田。昨日、人工覚醒した僕のクラスメイト。その身体の周囲で金属製の医療器具が浮いている。でも、それだけじゃない。隣の部屋。高瀬さん。消えたはずの少年が立っていた。


「高瀬君!?」


三枝先輩が走り出す。僕も続く。


――罠だ。


Sが言う。


(分かってる)


――なら来んな。


(でも倉田がいる)


――またそれかよ!


(違う!)


僕は走りながら。頭の中で叫ぶ。


(僕一人で助けるなんて言ってない!)


Sが黙る。


(危なくなったら代わって)


――……。


(僕が受けたほうがいい時は僕がやる)


息を吸う。


(避けたほうがいい時は君がやって)


少しだけ間があって。


――最初からそう言え。


隔離区画。扉が開く。そこには倉田。高瀬さん。そして、黒いパーカーの男。最初に学校を襲った能力者。三人。


「よう」


黒いパーカーの男が笑う。


「待ってたぜ」


三枝先輩が槍を構える。


「なぜここにいる!」


「迎えに来たんだよ」


男の視線が僕へ。


「SM-01を」


高瀬さんが苦しそうに頭を押さえる。倉田の周囲では金属が震える。二人とも目が普通じゃない。


「何をした!」


僕が叫ぶ。男が小さな装置を見せる。注射器じゃない。黒い箱。そこにはSとM。二つのランプ。


「人工覚醒ってのはな」


男が言う。


「能力を与えるだけじゃ完成しねぇ」


ボタンへ指を置く。


「目覚めた能力を」


押す。


「支配できなきゃ意味がない」


高瀬さんと倉田が同時に叫んだ。能力が暴走する。床が砕け。金属が舞い上がる。三枝先輩の防壁が展開する。


「真白君、下がって!」


僕は下がらなかった。


――右から来る!


S。


(分かった!)


金属。Momentum。受けられる。僕が前へ衝撃。力が溜まる。


――次は無理だ、代われ!


(お願い!)


交代。S。Speed。砕けた床を蹴る。飛来する金属の間を抜ける。今までより。ずっと滑らかにでも、まだ遅い。交代するたび。一瞬、意識が途切れる。それでも、僕たちは初めて。最初から二人で戦っていた。


「へえ」


黒いパーカーの男が笑う。


「切り替えられるようになったか」


Sが睨む。


「てめぇらのためじゃねぇ」


「なら何のためだ?」


「決まってんだろ」


Sの口で僕たちの身体が言った。


「こいつが勝手に死なねぇようにだ」


(S)


――黙ってろ。


でも僕は少しだけ笑った。その瞬間、黒い箱のランプが二つとも赤く光った。


【S】


【M】


そして。今まで動かなかった三つ目のランプが点灯する。


【SM】


黒いパーカーの男の笑顔が消えた。


「……反応した」


三枝先輩も白峰主任も息を呑む。男は僕たちを見て。震える声で言った。


「本当に」


その表情は歓喜だった。


「完成してやがる」


僕とSは同時に同じことを思った。こんな奴らに僕たちが何者なのかを決めさせてたまるか。


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