第5話
「引き続き『野菜』の効果など調査を続けます」
「ああ、よろしく」
シュトラールがそう言うと、研究者は「失礼します」と一礼して部屋を後にして行った。
「……はぁ」
研究者が出て行ったのを見送った後。シュトラールは小さくため息をついた。
「あら、珍しい」
「ん?」
そんなタイミングでちょうどエデルが入って来たらしく、驚きの表情を浮かべている。
「ああ、エデル」
「ごめんなさい。ノックしたのだけど反応がなかったから」
「いや、気にしなくていい。俺もボーッとしていたから」
「……本当に珍しいわね」
何気なく告げた言葉に、エデルはさらに驚いたのか目を見開きながら言う。
「ハハハ。自分でもそう思う」
「それだけ疲れが溜まっているという事なのでしょう」
「疲れ……か」
「ええ。あなた自身、ずっと働き詰めだもの」
この「ずっと」は文字通りのもので、国王陛下が床に臥せて代理を務める様になってからの話である。
「うーん、僕自身そんなつもりはないなぁ。確かにやらないとって言う気持ちもあるけど、それ以上にやりがいがあって楽しいから」
「そんな趣味みたいに言う事じゃないと思うけど」
「ハハハ」
「でも、あなたが代理でやる様になって色々と良い方に進んでいる気はする」
「それは嬉しいな」
「ええ。だからこそ、ここが踏ん張りどころなのかしら」
エデルの言う「踏ん張りどころ」というのは「流行り病」についてだろう。今のところ治療薬以外で効果的な治療法は見つかっておらず、己の治癒力を信じるしかない状況だ。
ただ、この『治療薬』自体がかなり高価な物で数も少ない。そうなると当然の様に争奪戦が起き、また高価が故に貴族の中でも手に入らない者が出てきているという状況だ。
これでは全員はおろか貴族ですらに行き届かない。
しかし、そうこうしている内に病は瞬く間に広がってしまっている……というのが現状だ。
「なかなか現状を打破するには難しいかな」
「あら、じゃあさっきの研究者と話していたのは?」
「……盗み聞きしていたのかい?」
「人聞き悪いわね。偶然聞こえて来ただけよ?」
エデルはニッコリと笑うが、これは……一体どう取るのが正解なのだろうか。しかし、盗み聞きをしたにせよ偶然聞こえていたにせよエデルは話の内容を多少なりとも聞いていた事には変わりない。
「まぁいい。別に聞かれたところで困る話でもない」
「フフ、ありがとう。それで『野菜』だったわよね」
「ああ。スラム街でもらった物だったが、これが『薬草』に近い効果があると言う結果を受けた」
「……それはすごいわね。それが本当なら――」
今のところ分かっているのはその程度だが「この程度」でも十分な成果だと言える。
「ああ、これが本当ならこの現状を打破する1つのきっかけになるかも知れない」
「……」
それにはまず『野菜』の安全性を確認する方が先だ。いくら効果があろうと人体に悪影響がある物を入れる訳にはいかない。
「本当ならもっと早くに調査するべきだった」
「……そうね。でも、それよりも気になる事があるみたいね?」
シュトラールは調査報告書に軽く目を通していたのだが、その様子をジッと見ていたエデルがサラッと尋ねた。




