第10話
アルフが立ち上がったのを見ると、フェンリルは耳をピクッと動かし、立ち上がった。
「む? もう帰るのか?」
「はい。そろそろ帰らないと夜更けになってしまいますので」
そう答えると、フェンリルは「ふむ」と辺りをキョロキョロと見渡す。
「どちらに帰るのだ?」
「どちら……? ああ、ブランド王国の方に」
「あら、そうなの」
「はい。いつも御贔屓にしてくださっているところにペンを入荷して欲しいと」
そういえば、以前ブランド王国に事務の仕事の為にペンをまとめて注文してくれる人がいると言っていたのをリリーは思い出した。
「なるほどね」
「ふむ。しかし、大丈夫なのか?」
しかし、フェンリルはアルフの言葉に心配そうな声色で話す。
「何がでしょう?」
「先程のお主の話ではシュタイン共和国だけでなく、ブランド王国にも流行り病が流行していると言う、それも国境間で制限がかかっている程に」
「そうだったわね」
「はい。だからペンを渡したらすぐにシュタイン共和国に戻るつもりです」
「じゃあスラム街の方にも行かないのよね?」
「それは……」
リリーの問いかけに、アルフは思わず言い淀む。多分、アルフの気持ちとしては「行きたい」のだろう。
しかし、ブランド王国に限らずシュタイン共和国の現状からそれはなかなか難しい……それがアルフの様子から見て取れた。
「一応『野菜』は持って行こうか迷って……持っては来ているんです。ただ、数はほんの少しで……果たしてそれをスラム街で渡していいか……正直まだ迷っています」
「ふむ。まぁ、今は状況が状況だからな。最悪自分で処理をすればいいからな」
「こんな状況だからこそ『薬草』も売るべきだと思っているんですけど、今は『薬草』を売るのはシュタイン共和国だけにしていて」
「そうなの?」
「……はい。あちらでは冒険者ギルドだけでなく商人ギルドにも入っています。特に冒険者ギルドに入っているので仮に強奪など何かあった場合でも盗まれた物によっては補償が出るのですが……」
「こちら側にはそれがない……と」
「全くない……という訳ではありません。そもそもブランド王国とは法律に限らず様々な決まりなど違う点も多い。もちろん、何かあれば犯人の逮捕など適切に対処はしてもらえると思います。ただ、その後の話はやはり色々と違いが……。それこそ補償などは全然違うんです」
「……なるほど」
これは商人だからこその話だろう。そもそも「商人ギルド」に関してはそれぞれの国に存在するが、実はそれぞれの国で規則などが違う。
それは「お国柄」というのもあるが、やはり文化などの違いもあるかだとされている。
「とりあえず今回は『薬草』はともかく『野菜』も様子見にします」
「ええ、そうした方が良さそうね」
アルフの言葉を受け、リリーもそれに同意した――。




