第9話
「……確か、このペンを作っているのはスラム街出身の方だったわよね?」
「はい。まぁ、俺としてはそれを言ったところで……と思っているのですが、本人はそれをかなり気にしているみたいなんです」
「そう」
「多分『スラム街出身のヤツが作っているのなら買わない』とでも思っているんでしょうね。俺はいくら気にしないと言っても他の人がそうだとは限らないと本人が言っているので」
実際のところは分からない。
リリー自身もアルフと同じように「製作者がどうであれ、物が良ければ特に気にしない」という人間だ。
「それは……そうかも知れないわね」
「あ、やっぱりそうなんですね」
ただ、コレに関しては本当に「人による」としか答えられないのもまた事実だ。それこそ「貴族」の間でも意見が分かれる。
しかし「貴族」に限って言えば、基本的に貴族は「見栄」を重視する風潮があるので「買わない」と言う人は多いだろう。
「私は気にしないけど、特に『貴族』に限定した場合は……そうね」
「それはそうでしょう。もはや『見栄』が文化を作っているとすら感じるくらいですし。でも、俺の客でも気にする人は気にするんですよね。きっと」
ただ、アルフの販売層は「庶民」が多い。それは多分、その製作者もよく分かっているはずだ。
それを分かった上でその反応という事は……きっと本人が言ってる通りの反応が「庶民」の反応なのだろう。
アルフ自身はその反応にやや不服そうだが、彼は彼で「庶民」とは少し違う。だからこそ、これ以上は何も言えないのだろう。
しかし、他の兄弟たちの様に一芸に秀でている訳でもなかった。それ故に……いや「そうするしかなかった」と言うべきかも知れないが、なかなか柔軟な思考をしている。
そして、アルフ本人が自分の考えを押し付ける……といった事もしない。
そもそも「職人」という人たちはどことなく頑固で人付き合いの苦手な人が多い。それでいて紆余曲折の経緯も相まって二人は相性が良いのだろう。
「こればかりは人それぞれだから何も言えない……と言うのが正直なところね」
「ですね」
「でも、良かったわ」
「何がでしょう?」
ホッと胸をなで下ろすリリーに、アルフは不思議そうな顔で首をかしげる。
「あなたの口が堅くて。正直、ちょっと不安だったのよ」
「それは心外ですね」
「フフ、ごめんなさい」
「ああ、別に怒っている訳じゃないですよ? ただ、このペンを作っているヤツもそうですけど、あなたもなかなかな経歴をお持ちなので、そう他人に色々と口外されたくはないだろうなと俺も思っているので」
「ええ、ありがとう。気を遣ってくれて」
「俺も商売人ですから。お客だけじゃなく、作っている側にも当然配慮はしますよ。そもそも作ってもらわないと俺も成り立たない職業ですから」
アルフはそう言ってニッコリと笑い「それじゃ、そろそろ」とゆっくりと立ち上がったのだった。




