第8話
「ふむ。それならば一人でここに来ているのも理解出来る」
「まぁ、ただ俺が他の人にバレたくないって言うのもあるんですけどね」
要するに「ライバルに色々と知られるのが嫌だ」という事なのだろう。
「ほぉ?」
「そういえば、私が栽培している『薬草』について何か聞かれる事ってあるのかしら?」
「効能については聞かれますね。たまに生産者は誰か……みたいな事もありますけど、それは本当に稀ですし、大体そうした事を聞くのなんて同業者くらいですから」
「じゃ、じゃあ……」
リリーは思わずおずおずと尋ねると、アルフは「信じられない」と言わんばかりの表情で……。
「言う訳ないじゃないですか! 大体そうした事を聞いてくる奴なんてろくでもないろくでなしばかりですよ?」
「ろくでなし」
そうした言葉を聞いたのは久しぶりだが、アルフの表情から察するに本当にろくでもない連中なのだろう。
「それに、そういう事を商人である俺に聞いてくる時点で『こいつに便乗して楽して儲けたい』って言っている様なものなんです。そんなヤツに商売の要とも言える生産者について公言するなんて三流以下がする事なんです」
呆れた様子で話すアルフの言葉はなかなかに説得力がある。まるで「被害に遭った事がある」かの様に。
「妙に説得力があるな。実際にやられたのか?」
「……いえ、俺ではなく市場でよく会っていた人がその被害に遭ったんです」
アルフは「はぁ」とため息をつく。
「心優しい人だとは思っていました。ただ、それ故にいつか騙されてしまうのではと思ってしまうくらい危うくて……スラム街の存在を教えてくれたのもその人です」
「そう。その人は今どうなさっているのかしら?」
「……分かりません。ただその人が売っていた物なのですが、今は別の人が販売しています」
「そ、それって……」
「はい。先程言った様に生産者について聞かれた為、素直に教えてしまったんですよ。その人は」
呆れた様子でアルフは吐き捨てるかの様に言った。
「まぁ、生産者側からすれば条件の良い方に移るのはよくある話です」
「え、でも……」
リリーの脳裏には王妃教育で出会った職人の姿があった。その人たちは「金より人情」という考えが強かった為、リリーにとっては信じがたかったのだ。
「もちろんそういう人ばかりではないの事は知っています。それに、それに対してどうこう言える立場でもありません。なにせ生活がかかっていますから。それに、人情どうこう言ってその誘いを断りたくても断れない……そういう生産者の方も大勢いらっしゃるのですよ」
「……」
確かに、本当に毎日食べる物にも困って日々を懸命に生きている人間からすれば……これはむしろ「選択肢そのものがない」と言える。
「だから俺は聞かれても言いません。職業によっては名前を売る事が大事な場合もありますが、少なからず俺が売っている商品に関してはそういった事はないので」
「そのペンも?」
「はい……と言いますか、これは本人から言わないでくれと頼まれているので」
アルフはそう言いながらペンを大事そうに仕舞った。




