第5話
「で、でも毎日食べている私には何も起きていないわ。それに流行り病って?」
「ここ最近の話なので知らないのも無理ありません。ただ、この流行り病は身分など一切関係なく発症している事が確認されています」
「身分関係なく……と言う事は、貴族にも発症された方がいらっしゃるという事ね」
「はい。年齢は免疫力が衰えているご高齢の方や免疫力が弱い小さな子供。もしくは体の弱い方ですね」
それだけを聞くと普通の風邪と変わらない様に感じる。普通の風邪でも免疫力が衰えていたり弱ければかかりやすい。
「ただ、スラム街に住んでいる方の多くは衛生面もそうですが、元々免疫力がそう高くはないのです」
衛生面に関しては元の環境のせい……と言ってしまえばそれまでだろう。しかし、それにしてもここで栽培した『野菜』を食べさせただけでそこまでの効果があるとはリリーとしてはあまりに信じがたい。
「どうやらこの流行り病は進行していくと最初はただの喉の痛みから徐々に咳になり、それがどんどんとひどく夜眠れない程にひどくなり一日中ほぼ毎日咳が出る様になったぐらいのタイミングから咳だけでなくたまに血を吐いてしまうらしいのです」
「血……」
それは明らかに異常事態だ。普通に生活していて「血を吐く」などそうある事ではない。
「はい。そのタイミングで医者に見せても治る可能性はそう高くない状態らしく、そこから一カ月ももたない……と」
「ふむ。それならば咳が止まらなくなったタイミングで医者に見せればいいのではないか? スラム街の者はともかく、貴族の連中であればそれくらい可能であろう?」
フェンリルがそう言うと、アルフは「それが……」と言いにくそうな反応を見せる。
「どうした?」
「いえ、実はこの流行り病は普通の風邪よりも咳が断続的に出ているのでさすがに違う事は分かるのですが、喘息と症状が非常に似ているらしく判断が難しい……と」
「……やけに詳しいのね」
「知り合いに医者をやっているヤツがいて、完全にそいつの受け売りですけど」
アルフはそう言いつつも、どこか嬉しそうに笑った。きっと彼にも「友人」と呼べる存在がいるのだろう。
「そう」
ただ、リリーとしては内心少しだけ複雑だった。自分には「友人」と呼べるほどの存在がいなかったな……と。
「つまり、似た様な症状であれば対処も変わる……と、しかし症状が進行してしまえば手遅れになってしまう。なかなか難題だな」
「はい。ですが、ここで育てられた『野菜』をその流行り病に罹ってしまった方に渡して食べてもらったところ、数日と経たずに症状が治まった……と先日行ったら元気な様子で本人から言われました」
「ちなみにそれってシュタイン共和国での事かしら?」
「はい。ただ流行り病に関してだけ言うと、シュタイン共和国に限りません」
「つまりブランド王国でも広まっているという事ね」
「……はい。特にここ最近は顕著になって来ています」
アルフの言葉を聞き、リリーは「そう」と答えつつも、実はあまり実感が湧いていなかった。




