第3話
「……」
「……」
サラリとアルフは言ったが、リリーも「それが出来ればどれだけ良いだろう」と思ったのも事実だ。
この魔法陣が一般的に流通すれば農作業。もっと言えば「畑作業」の効率は上がるだろう。
しかし、この「魔法陣」というのはとにかく管理が難しい上にそもそも分かる人間が少ない。
それ故に実用化が難しい事はリリー自身もよく分かっているし、アルフも分かっているのだろう。
「――ふむ。どうやらチドグサを使った傷薬やツユクサは解熱効果もあるので風邪薬によく使われるので需要が高い様だな」
そしてフェンリルはそんな会話をする二人には全く目もくれず、アルフの売り上げが書かれた手帳を覗き込んでふと呟いた。
「言われてみれば……」
「た、確かに」
そこに書かれていた内容を見た限り、日常的に使う可能性が高い薬に使われる『薬草』がよく売れている。
「つまり、ポーションなどの回復薬に使われる物よりもこちらの方があなたの客層的には合っているみたいね」
言われてみれば確かに、アルフの客は基本的に庶民が多いと本人が話していた。
そうなると必然的に「ポーション」など決まった場面。もしくは使う人間が限定される使えない物よりも日常生活で使う可能性が高い物を欲しがるのは至極当然な話と言えるだろう。
「冒険者ギルド『薬草採取』の仕事もありますし、採取した薬草は買い取っていますから」
「な、なるほど。そうなのね」
それならば納得だ。
「私がいた国では冒険者ギルドがなかったから知らなかったわ」
「それは仕方がないと思います。それに『薬草採取』とは言っても何もこの辺りを指しているのではない場合が多いですね」
「そうなの?」
「はい。なにせここは様々なレベルの魔物が生息しています。そして『薬草採取』の仕事は大体初心者レベルの冒険者が受ける。仮にこの辺りで『薬草採取』となれば冒険者のレベルもそれ相応に高くなるでしょう」
「な、なるほど」
「しかし、そうしたレベルの冒険者は『薬草採取』」よりもダンジョン攻略や魔物討伐をしたがるので、もしそうした依頼があったとしたら『薬草採取』はその仕事のついでという形になるでしょうね」
それはそうなるのも仕方がないのかも知れない。
「そう言えば前から思っていたのだけど」
「はい」
「私がここに来てあまり期間は経っていないけど、あなたが言う程魔物には会っていないわよ?」
「……」
そう、リリーはここに住んでそう時間は経っていないが、そこまで言う程……全くと言っていいほど魔物には遭遇していない。
「――それはもちろん。ご自身の従魔がどなたかご存じの上でおっしゃられているのですよね?」
「……あ」
リリーは何気ない疑問を口にしたつもりだったが、もはや「当たり前」になっていた為完全に忘れてしまっていた。
「おい、今。何やらものすごく大事な事を忘れていなかったか?」
「いえ? 気のせいよ。気のせい」
今、アルフとリリーの話を「飽きた」と言わんばかりに欠伸をしながら呑気に日向ぼっこしていたのが……伝説の魔物である『フェンリル』だという事を。




