第12話
「――全く。優しいですね、あなたは」
ハンナが去った後。王妃陛下はため息をつき言う。
「そうですか?」
ただ「誰」とは言わなかったものの、会話の流れから自分の事を言っていると察したシュトラールは王妃陛下の言葉とは裏腹にニコニコと笑顔だ。
「ええ。いっその事、エミルを廃嫡にするのでこちらに付くよう強く言えたでしょうに」
「ハハハ、相変わらず手厳しい」
「あなたが優しすぎるだけでしょう」
「ハハハ、僕はそんなに優しい人間ではありませんよ」
そう言いつつシュトラールは苦笑いのままお菓子に手を伸ばす。
「――あら、そうなの?」
「はい。殿下は彼女がこちら側に付かなければ、彼女だけでなく一族もろとも弟に加担し反旗を翻したとして処罰するおつもりなのですよ」
エデルがそう説明すると、シュトラールは自分の目の前に置れたお菓子へフォークを無言で突き立てた。
「これは一応事実ですから」
「でも、あなた。先程は評価していると言っていたでしょう?」
「それとこれとはまた別の話です。お母様。いくら僕が評価していようとも周りから見ればどうしても彼女は婚約破棄に加担した人間です。リリー嬢の自分を悪役に仕立てる計画は魔法学園内では上手くいっていた様ですが、一歩外に出てしまえばそれこそその魔法は解けます」
「確かに、普段魔法学園と関係のない貴族の方たちから見たら彼女こそ婚約者を奪った悪女でしょうね」
つまり、魔法学園を卒業してしまった今の彼女の立ち位置はなんとも微妙な状態なのだ。
「僕たちの話に乗ってくれれば彼女をエミルの悪巧みを暴く為に送り込んだスパイとか何とかと言い訳が出来ますから」
シュトラールはそう言いながらお菓子を一口頬張る。その姿は幼い頃のままの様に王妃陛下の目には映ったのだが……。
「全く。そこまで考えての事であれば私の方から言う事は何もないわ」
子供の成長を感じつつ、王妃陛下はまた小さくため息をついた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……」
帰り道。馬車に揺られながら「なぜあの時。すぐにただ一言「はい」という言葉が出なかったのだろうか」とハンナは考える。
いや、その前にエミル殿下のハンナだけではなく他にも不貞行為があった様な話を聞かされた。
あの時点で本来であればエミル殿下を見限っても良かったはずだ。なにせ彼はリリーだけでなくハンナすら裏切っていたのだから。
「それなのになぜ……」
その事実を自分が口に出した事によってハッと気づいた。
「て……」
どうやら自分も知らない間、エミル殿下に情が湧いていた……と言う事に。
そもそも最初こそ打算で近付いたものの、最終的な結果として婚約破棄に加担している。こうなる事は分かり切ってはいたが、何かしらの情がなければその前に下りているはずだ。
「……」
でも、その事に気が付いたからと言って「あんな浮気者に……」などとショックを受けた訳ではない。
むしろ、この事に気が付いたからこそ、ハンナ嬢の決意は固まったのだった――。




