第11話
「それで……どうだろう? もしこの話に乗ってくれたら、君の望む職に就いてもらおうと思ってね」
「え」
まさかの提案にハンナの思考が思わず止まる。
「それはそうでしょう。エミルを裏切るという事はあなたが婚約者ではなくなってしまうという事を意味しているわけなのですから」
王妃陛下は呆れた様子だ。ただ、ハンナももちろんそれに気付いていない……なんて事はない。婚約者で無くなれば当然ハンナに居場所はない。
「フフ。さすがにそれは理解されていると思いますよ」
「あら、そうなの?」
「はい。それに、私たちの呼び出しに応じた時点で……いえ、婚約破棄が終わった時点である程度心は決まっていたのでは?」
「……」
そう、リリーが婚約破棄されたのを見届けた時点で彼女は己の犯した罪を背負う覚悟は出来ている。それ故にシュトラール殿下の言葉には思わず困惑してしまったのだ。
「まぁ、そうだろうね。でも、僕としてはもったいないなぁと思ってね」
「もったいない……ですか」
「うん、学園での成績はもちろん。生徒会に所属していたという実績もある。素晴らしい人材だと僕は評価しているから」
「……」
まさかここまで買ってくれているとは思っておらず、ハンナ嬢は顔を赤らめた。しかし、それでもやはり信じられない。それに、全く懸念がない……という訳でもないが。
「君の懸念はやっぱりエミルを……婚約者を奪ったところかな?」
そう、でもこればかりは事実として受け入れなくてはいけないだろう。
「……はい」
「ああ、そこは気にしなくていいよ」
「え……」
「あの一件は……世間的に見れば前代未聞の出来事だった。でも、それ以上にあいつとリリー嬢は色々と破綻していたから」
「で、ですが……」
「それに、君も最初こそ王族のエミルに近付いたけど、生徒会に入ってからは真面目そのもの。学園の成績も含めてそれは十分評価出来る。むしろ問題なのはやっぱりエミルの方だから」
「問題……ですか?」
「ええ。どうやらエミル君はあなたが生徒会の活動であまり構ってくれないからって色んな女性と関わりを持っていたみたいなの」
申し訳なさそうに言うエデル様の言葉に、ハンナは思わず固まる。
言われてみれば確かに、生徒会に入ってからはエミル殿下に構っている暇はなかった。それでも……。
いや、そもそも自分の時も似た様な状況だった。それを踏まえて考えると……なくはない……か。
「はぁ、全く。どうしてこんな子になってしまったのかしら」
「……」
王妃陛下はもはや「呆れ過ぎてもう何も言うまい」といった様子だったが、ハンナはそれ以上にただ呆然とするしかなかった。
「それで、昨日の今日で申し訳ないと思うけど、ちょっと考えておいてくれないかな。返事は急がないから」
「分かり……ました。失礼致します」
固まってしまったハンナに、シュトラール殿下は優しく声をかけお茶会はお開きとなった――。




