第10話
「――君、エミルを……弟を裏切られる?」
「……」
唐突に言われた言葉の意味を理解するのにそう時間はかからなかった。
それは、今までのエミル殿下を見ていればいずれはこうなるだろうと予測出来ていたからかも知れない。
「今までの事も含めてあいつを見ていると……将来的に良いようにはならないと思ってね。それに、勝手に婚約破棄をした件もある」
「……」
シュトラール殿下は真剣な眼差しでハンナを見つめる。その顔は先程のまでの弟を思う兄の顔ではない。
しかし、それも仕方がない話だろう。なにせ、これは家族間の話で終わらせていい様な簡単なものではない。
そもそも、あの卒業パーティーに参加していた学園の人たちはリリーを「悪役令嬢」と言っていたが、それはあくまで「学園内」という小さな箱の中での話。
庶民や彼、彼女たちの親たちが見ればどちらの判断が間違っていたのかはすぐに分かる。それくらい単純な話なのだ。
しかも、エミル殿下にはこれまで「王族としての責務の放棄」を始めとした様々な余罪がある。
そもそも、ハンナも不思議に思っていたのだ。
最初こそ「会ってくれて嬉しい」とか「リリーよりも自分を優先してくれている」という事に喜びを感じていたのだが、次第にその頻度が増えていった事に。
これにはさすがに「この方は第二王子なのよね? こんなに遊んでいていいのかしら?」と疑問を抱いてしまった。それくらいの頻度で会っていたのだ。
もちろん、エミル殿下が王族である事に間違いなど決してない。ただ、そうする事が出来たのか……その事実を知ったのは生徒会に入ってからようやく知った。
簡単に言うと「リリーがエミル殿下に代わって生徒会の業務をしていたから」だったのだ。
その事実を知り、ハンナは「なんで気付かなかったのだろう」と思った。いや、気付いてはいてもワザと目を背けていたのだとその時ハッとした。
そして、それと同時に恥じたのだ。リリーに勝ったつもりでいた自分を。
しかし、心を入れ替えて生徒会の仕事や勉強に邁進して行くにつれて徐々に謎の噂が広まり、その結果が今。
キッカケこそエミル殿下ではあったものの、今の彼女に彼を慕う気持ちは……ない。
「実はね。君の事は買っているんだ」
「え」
「君の事は色々と調べさせてもらったよ。あいつに近付いたのも、男爵家という家柄故に将来の可能性が狭まってしまうのを何とかしようとした結果だという事も知っている」
「……」
「リリー嬢は君の事を『野心家』と評していたけど、僕もそう思った。でも、そこまでしないと男爵家ではなかなか良い職業に就けない。しかも君は女性だ」
「そ、それは……」
確かにそうである。
「最初こそ私たちも警戒していたのですが、そういった経緯やあなたと会ってみて印象が変わりました」
「はい。本当はとても真面目な子だと」
王妃陛下とエデルはニッコリと優しく微笑みかける。
「でも、そういった経緯を知った上だからこそ、あいつが裏で色々と画策していたのが分かってね」
「それは……」
呆れているのはきっと婚約破棄に関する事はきっとリリーの計画だけでなく、エミル殿下も何かしら計画をしていた……という事なのだろう。
「まぁ、それはリリー嬢もだけど」
「……」
ただ、この言葉を聞く限りきっとシュトラール殿下は二人の計画を分かっていたのだろう……それが分かった。




