第8話
「あ、あの」
「ん?」
「つかぬ事をお聞きしますが、なぜそういった教育をなさったのですか?」
「ああ、それはエミルたちには庶民の為になる政策を打ち出して貰いたいと思っていたからだよ」
サラリとシュトラール殿下は答えた。
「庶民の為に……」
「そう。僕たちの計画では、将来的には今現在お母様が担っている外交の部分をエデルに入ってもらい、内政は大臣たちと共にエミルたちに手伝ってもらおうと思っていたんだよ。もちろん、全部という訳じゃないけど」
つまり当初の計画では、エミル殿下とリリーに国内の職業を体験してもらい、それを得た上で国内の政治を担ってもらうつもりだった……という訳だ。
そして、それはエミル殿下とリリーが魔法学園を卒業した後。正式にその形に移行するつもりだったのだろう。
「……」
「でも、僕が思っていた以上にエミルを過大評価していたみたいだ」
そう思われても仕方がない。
そもそもこれはリリーに対してだけでなく、エミル殿下も含めた「二人」だったのだから、何かしら理由を付けて逃げてしまっていた時点で計画は破綻していたのだろう。
それに、リリーはこの学びを「自分が受けるべき王妃教育」と言っていた事をハンナも知っている。きっと、最初から殿下はこれを受けるつもりはなく、リリーに全て丸投げした。
そして、リリーはその事実を知らずに「これは王妃が受けるもの」とエミル殿下から聞かされていたのではないだろうか。
それならばこれらの話にも筋は通る……が、果たしてリリーがそれを一切知らなかったのだろうか。それが疑問ではある。
「まぁ、そもそもこの学びについてあの子が『リリーには僕の方から伝えておきます』と言った時点でこうなる事はある程度予測出来ていましたが」
「そうでしたね」
当時の様子を思い出す様に王妃陛下はため息をつき、エデルは苦笑いをしている。
「でも、なんだかんだ言いつつあいつはやると思っていた。正直な話。あいつはあまり賢くない。それなのに僕たちを騙すような真似をした。一体誰があいつを唆したのかなぁ?」
そう言いつつ顔がニヤついているところを見るに粗方見当はついているのだろう。ただ、確かにその場で話した事と実際に行った事に相違が生じている。これでは「騙した」と言われても言い逃れは出来ない。
そもそも、この国の国王は基本的に国王自身が「誰に王権を譲渡する」といった宣言をすれば王権はその言われた人物に移る。
しかし、今現在その国王陛下は「床に臥せっている」のだが、実は意識がない。意識が戻りさえすればすぐさま王権の譲渡に移れるのだが、今のところ目が覚める様子は一切ない。
それ故にシュトラール殿下は今も王太子のまま国王陛下に代わって国を運営してきた。そして、この教育はきっとこれまで実際に国を運営してきた結果生まれた計画だったのだろう。
ただ、それ以上に家族であるエミル殿下。いや、弟に「騙された」のはハンナが想像している以上に悲しかったのではないだろうか。
「あいつはなんだかんだ言いつつ面倒見の良いところがあると思っていたけど……どうやらそれは不特定多数ではなく、あくまで自分のカテゴリー内での話だったみたいだね」
顔は笑っているものの、残念そうに言うシュトラール殿下の言葉の端には兄としての思いやりを感じた。




