第6話
「そ、そんな……」
ハンナはその事実に唖然とした。まさか、自分としては良かれと思って国外追放を進言したのだが、まさかそうした事によってリリーがそんな目にあっているとは思ってもいなかったのだ。
「……」
あの地帯にはハンナも学園に在籍していた頃に行った事がある。魔素が濃いせいか辺りは霧がかかった様に見づらく、いつ魔物が出てくるか分からない緊張感。
魔力が高ければ高い程人間の前に出てくる事はあまりないらしいが、それでもあの霧がかかった状況では不意に現れる可能性は否定出来なかった。
実際に危険度の高い魔物に出会ってしまい襲われてしまった先輩もいたと言う。
ただ、その時は魔物が一撃を入れてすぐさまいなくなった為、命に別状はなかったものの、大怪我を負ったのは言うまでもない。
そして、そんな時にハンナはエミル殿下と同じ班になり、出会ったキッカケでもあったのだが……。
今はそんな事よりもリリーの事だ。
最終的にハンナはリリーの成績を上回り、周囲からは「現婚約者であるリリーよりも優秀だ」という評価を得たのだが、実際はリリーがハンナの成績を底上げさせたに過ぎない。
もちろん、リリーが手を抜いていたわけではない。しかし、ハンナの指導に力を入れていたが故に自分の事が疎かになってしまっていた可能性は否定出来ず、その結果があの成績だったのだろう。
そして、それもリリーの計画の1つだという事もハンナは分かっていた。
そんな優秀なリリーだとしても、あれだけ大量の魔物が住み着いている場所に放置されてしまっては……と悪い想像をしてしまう。
「……」
しかし、顔を青ざめさせているハンナとは打って変わって、この事実を既に知っている三人は慌てる様子が一切ない。
「……あの」
「ん?」
「心配では……ないのですか?」
「何が?」
「リリー様の事です」
「ああ。大丈夫だよ」
シュトーラル殿下はハンナの質問にニッコリと笑顔で答える。
「ひょっとしたら……って、あの場所に護衛を出したんだけど、報告では一人で上手くやっているみたいだから」
「え、そう……なんですか?」
これは意外だとハンナはキョトンとした顔を見せる。
「うん。もし魔物に襲われたら助太刀する様に指示していたんだけど、その心配もなさそうだったって引き上げさせた」
「……」
「むしろ、この状況を楽しんでいるかも知れないわね」
「ええ、しがらみもないでしょうし、人目を気にする必要もないでしょうから」
確かに、このままこの国に残っていたとしたら「婚約破棄をされた令嬢」として周囲から冷やかされるか、はたまた同情の目を向けられるか……どちらにしてもいたたまれない気持ちで日々を過ごす事になっていただろう。
そして、それはきっと隣国のシュタイン共和国に行っていたとしても……。
本人がたとえ口にしなかったとしても、どこからその話が湧いて出てくるか分かった物ではない。それだけ人の噂と言うのは広まりやすい。
「多分、リリー嬢はきっと王妃教育で習った事を活かしているだろうから」
「ええ。凛とした見た目に違わず逞しい子よね」
そう談笑をしながらシュトラール殿下と王妃陛下はお茶を飲む。
「王妃……教育ですか?」
「ええ。でも、聞いたところによると私が受けたものとは全く違うらしいわ」
そんな二人を見つつ、ハンナは思わずエデルに尋ねると、どうやらリリーが受けていた王妃教育は普通とは一風変わったものだったらしい事が分かった。




