第5話
「でも、本来であれば機密事項の保持などの関連から国外追放が認められていない。それは知っているかな?」
「は、はい」
そう、それはハンナも知っていた。
しかし、リリーが願っていたのが『国外追放』だという事は何となく分かっている。だからこそ、エミル殿下にそれとなく進言していたのだ。
ただ、そうなる可能性は低いと思いつつも。
「それなのにも関わらずあの子はそれを忘れてしまったかの様にリリー嬢を国外追放にしてしまった」
「エミル君がそれを知らないはずないと思うのですけど」
そう、エミル殿下がそれを知らないはずはないのだ。
「いくらあの子の学園の成績が芳しくなくとも、それくらいの事は分かっていると思っていたわ」
「もしくは王妃教育などの機密事項が他国に漏れようとどうという事はないと思った……という事もあるかしら?」
正直。その可能性が否定出来ない。それくらい彼にとって婚約者の存在は自分を惹きたてる存在としか見ていない。
「……」
それはハンナもよく分かっている。そしてそれはきっとリリーも……。
「いや、多分そうじゃないだろうと僕は考えている」
「え」
シュトーラル殿下はそんなハンナの様子を見つつ、サラリとそれを否定した。
「実は隣国のシュタイン共和国にある検問所をグランツ家の馬車が通った痕跡もなければ、リリー嬢に似た容姿の人物が通ったと言った証言がなくてね」
「……え」
多分。報告を受けたシュトーラル殿下がすぐに検問所で調べさせたのだろう。しかし、そこでリリーに関する情報は何も得られなかった。
リリーはハンナの様に「カワイイ」と言われる様な愛くるしい容姿はしていない。だが、それは決して容姿が整っていないという訳ではない。
むしろ「キレイ」と呼ばれる様な分類に当てはまり、彼女が「王族」と呼ばれても何も違和感がない程高貴な雰囲気を身にまとっている。
しかも、国外追放を言い渡てからの猶予は「その日の晩の内」だ。つまり、その日の内に隣国へ繋がる検問所を通っていないとおかしい。
「ちなみに、この国に留まっている様な様子もない。それは騎士たちからの報告ではっきりとしている」
「エ、エミル殿下はなんと……」
「国外追放を言い渡した後の事に関してはグランツ家に一任している……なんてふざけた事を言って来たよ」
「……」
つまり、グランツ家は今回の一件について知っていたという事になる。そして、グランツ家の領地には魔物が多く生息している地帯が存在している。
そこまで考えれば自ずと答えは導き出されてしまう……。
「ま、まさか……」
ここで初めてハンナ嬢はリリーが「国外追放」と言っても他国に送られたのではなく、魔物が蔓延る地帯に送られた事を知ったのだった。




