第4話
これはあくまでハンナの予測だ。自分がエミル殿下と出会ったのは三年の時の魔法実習の時。
魔法学園は基本的に四年制なので、最終学年はその次の年になるのだが、実はその一年前から二人は面識があったのだ。
ただ、そこから度々話しかけて来たのは実はエミル殿下の方だった。
話と言っても大体は自分の自慢話……ではなく、どちらかと言うと婚約者に対する愚痴がほとんどだった様に思う。
しかも「可愛げがない」とか「男をもっと立てるべき」だとかそういったものがほとんどだったのだが、ハンナはその話に「可哀そう」と同調し時として「私なら――」と自分をサラッと売り込んだ。
なぜならハンナはその状況を「使える」と判断したからだ。
そこから、よく話したり時には二人で「お茶会」と称して会ったりする事もあった。
ただ、これはあくまで学園内での話で、外でそういった事をしたことはない。
しかし、もちろん、王族の彼とそんな事が続けば当然噂にもなる。それはきっと、リリーの耳にも届いていたに違いない。
それでも本人と接触したのは最終学年になってから。しかも、ハンナ本人からだ。
そのタイミングでの「あなた、本当にならない?」だ。思い付き……と言われてしまえばそうかも知れないが、ひょっとしたらリリー自身もこの状況を「使える」と思っていたのかも知れない。
「その頃にはもう愛想は尽きていたって事ね」
「……はい」
「エミル君たちがお茶会をしている様子を見た事がありますけど、確かにリリー嬢はずっと話すエミル君に笑顔で相槌を打っているだけに見えました。もしかしたら、お茶会はずっとああだったのかも知れませんね」
「エミルなら……あり得るね」
基本的にお茶会で何を話そうがそれは自由だ。しかし、ハンナも実はそんなエミルに対し時折疲れを感じていた事もあった。
「実は君の事は報告を受けていたんだ。だから庶務になったとリリー嬢から紹介された時は驚いたよ」
「……」
ニッコリと笑っているが、そこから真意には窺えない。それ故に何も言えない。
「ああ、君は何も罪には問われないから安心して」
シュトラール殿下はそう言っているものの安心は出来ない。
「あなたをイジメている様な良からぬ噂も学園内には出ていた様ですが……」
「そんな事実はありません」
本来であればこの噂に乗じるべきで、リリーもそれを望んでいたはずだ。しかし、ハンナはそんな状況に嫌気が差していた。
あの頃は、まるで決められたレールを走っている感覚がずっとしていたからだ。
そして、それを敷いたのはエミル殿下ではなく、リリー。
あれよあれよと広がっていく身に覚えのない噂に、ハンナの身を案じるかの様に心配をするクラスメイト。
それ以前は話した事すらなかったのに、刻々と変わっていく状況にハンナは恐怖感を覚えた。
「……そっか」
「お前が言うな……と思われるかも知れませんが、これは事実です」
「だろうね。そこに関しては君も被害者……と言えるのかな」
「……」
種を蒔いたのはリリー。しかし、それを面白おかしく広めていったのは周囲の人間。きっとリリーは社交界の噂が広がる驚異的なスピードを重々承知の上であの状況を放置していたのだろう。
これもまた「使える」と判断して――。




