第3話
だからこうして呼ばれた事に対しても特に疑問はない。むしろ遅い位だ。下手をすればパーティーが終わった瞬間に呼ばれていてもおかしくないくらいだったのだから。
それでも一晩経った後になったのは、多分。シュトラール殿下と奥様がいなかったからで、王妃陛下からの連絡を受けて急いで帰って来たからだろう。
ただ、先程から辺りを気にしているが、どうやらここにエミル殿下の姿はない様だ。
「呼ばれた理由は……分かる?」
「……はい。婚約破棄……の件ですよね」
今朝、目ざとい記者が既に新聞で婚約破棄に関する事を記事にしてしまっているので これはさすがに身分など関係なくこの国に住んでいれば誰でも知っている状態なので素直に答える。
「はぁ、全く。とんでもない事をしでかしてくれましたね。あの子は」
「ええ。私も聞いた時は驚きました」
頭は抱えていないものの、ため息交じりに言う王妃陛下とシュトーラル殿下の妻である『エアデ様』は同意するかの様に頷く。
「本来すぐさま問いただすところなのですが、この子に止められてしまってね」
「うん、僕もお母様から今回の一件について聞いたけど、とてもエミルだけに出来る芸当だとは思えなくて。しかも、グランツ嬢との婚約を破棄して君と婚約を結ぶと来た。あまりにも用意周到過ぎるなって」
そう言いながらシュトーラル殿下は優雅にお茶を飲む。
「それに、あなたは学園では生徒会の庶務を務めていたわよね?」
「だから何かしらの事情を知っているのではないか……と考えた次第よ」
「……」
ここでハンナ嬢の事を「二人が婚約関係を結んでいるにも関わらず、二人の仲を引き裂いた泥棒猫」と言わない辺り、この方たちは二人の仲が良好ではなかった事を知っていたのかも知れない。
「私はね。あの二人があまり仲良くないという事は分かっていたわ。いつもリリーがあの子の会話に合わせてあげているなって思っていたから。それでも決められた婚約。きっと言い出せないのだろうって」
「そんな中で突然あなたを生徒会の庶務。しかも自分の補佐として任命したと聞いたから……何かあったのではないかと思っていたのよ」
初めてお三方をリリーから紹介された事は覚えている。鋭い眼差しでまるで品定めをされている様な感覚だった。
あれはハンナを警戒していたからだったのだろう。
でも、それも仕方ないかも知れない。それくらい突然の出来事だったのだから。
「君の事はリリーが庶務に任命する前から聞いていたけどね。エミルに近付いている女子生徒がいるって。でも、まさかそんな子を自分の手元に置いて自分の後釜に据えるとは思ってもいなかったよ」
「……」
これが普通の反応だろう。
普通に考えて自分の婚約者に近付く敵を自分の後釜に据えるなんて真似はそうしない。むしろ嫌がらせなどをして何とか排除しようとするのではないだろうか。
「君は……いつ頃からリリー嬢がこの事を準備していたと思う?」
「――多分。最終学年になる前くらいかと」
シュトーラル殿下は少なくとも今回の婚約破棄がエミル殿下の独断で行われた訳ではない事に気が付いている。
そして、それをリリーが仕向けたと言う事にも。それならば自分も素直に話すべきだろう……そう感じた。




