第1話
一方その頃。リリーが婚約破棄をされ、家を追い出される様にブランド王国を出て一晩が経った日の朝――。
「大変お待たせ致しました。ハンナ・フルート……ただいま参りました」
ハンナ・フルート男爵令嬢は王宮に呼び出されていた。
ただ、こうなる事は貴族であれば……いや、庶民だろうがきっと婚約について考える年齢の誰でもちょっと考えれば誰でも分かる。
それだけ「婚約破棄」というのは普通あり得ないと言えるほどとんでもない事なのだ。
仮に親の許可もなしに勝手に婚約を破棄しようものなら廃嫡。いや、勘当どころではないだろう。場合によっては違約金すら発生する事案だ。
だから婚約破棄をする場合は様々な段取りを得て、両家が納得した上で行われる。
本来であればそれくらいしなければならない程の大事なのにも関わらずあのエミル殿下はそれをあろう事か魔法学園の卒業パーティーでそれを宣言してしまった。
普通であれば「王子の気が狂った」とでも言われてしまう様な内容のはずなのだが、周りの反応は「悪役令嬢なのだから婚約破棄をされても仕方がない」というものがほとんどだった。
そう仕向けたのはエミル殿下の婚約者であるリリーなのだが、普通に考えればあり得ない反応だろう。
しかし、これは「作戦」いや「計画」が上手くいった結果だとリリー本人は内心ほくそ笑んでいた。
ただ、彼女と対峙していたハンナ嬢は違った。なぜなら、彼女はリリーの計画を知り、多少なりとも彼女を事を知っていたからである。
そもそもハンナ嬢は本気でリリーから婚約者の座を奪うつもりはなかった。
確かに「生まれた家の位で将来が決まっているかの様な現状を変えたい!」という野心があったのは事実だ。
当初はその思惑からエミル殿下に近付いた。
それによってあわよくばうまう取り入って良い役職にでも就ければそれで良かったのだ。
だからまさか婚約者本人から「あなた、本当に王妃になる?」などと言われるとは思ってもいなかった。
でも、その申し出はハンナ嬢にとっては願ってもないもので、仮に計画が上手くいかなかったとしても、将来的に十分なアドバンテージが期待出来た。
それこそ何もせず普通に過ごしていたら絶対に入れないであろう生徒会へ所属出来る。それだけでも十分な成果だったからだ。
しかも、生徒会では学園の代表として様々な人たちと出会う。ハンナ嬢は庶務としてリリーの補佐役として付いている事も多かった。
正直、何がキッカケになるか分からない世の中だ。そのちょっとしたキッカケがあるというだけでハンナ嬢には魅力的だったのだ。
しかし、ただボーッとしているだけではない怒涛の日々を過ごし、あっという間にあの運命を日を迎えたのも事実で、気が付けば今に至っている。
「面を上げてよ」
「……はい」
声をかけられ顔を上げると、そこにいるのは第一王子と奥様。
そして……王妃陛下の三人。国王陛下は床に臥せていらっしゃるらしく、この場にはいらっしゃらない。
ハンナ嬢はこの方たちと学園の行事などを通じて一応面識はあるものの、こうして呼ばれるのは……初めてだった。




