第10話
「な、なんでしょう」
「フフ、そんなに警戒しないで」
警戒……したつもりはなかったが、どうにも声がうわずってしまった様だ。
「ただ、今の話を聞いてちょっと相談したいと思っただけだから」
「?」
「ふむ。それはあれについてか?」
フェンリルは思い当たる事があるのか外の方に視線を向ける。
「……ええ」
そして、どうやらフェンリルの指摘は当たっているらしく、リリーは頷いた。
「このペンはあなたの出会った人が作っているからこそ、誰からの許可を得る事もなく、販売出来ているのよね?」
「そういう事になりますね」
「それで相談なんだけど」
「はい」
「今、私はここで畑を作っていてね。あなたにここで作った物を売って欲しいと思ったのよ。ああもちろん、利益が出る範囲で調整してもらえばスラム街の方たちに渡してもらってもいいわ」
「そ、それは俺としてはありがたい話ですけど……いいのですか? 俺で」
「ええ。今はまだどうなるか分からないし、最初は上手く行かないでしょうけど」
「それは仕方あるまい。今育てている物も『野菜』ではなく『薬草』だからな」
フェンリルは軽く欠伸をしながら説明する。
「あ、あれ『野菜』じゃないんですね」
「野菜の種がないから……とりあえずこの土地に適している『薬草』から育てようと思って」
「なるほど。では、種さえあれば『野菜』を育てる事も可能になる……と」
「そうなるわね。それに、ここは魔物が多く生息している事もあってか魔素の影響を受けて様々な効果が付くみたいなの」
「な、なるほど。それを売りにすれば……」
「本当は私とフェンリルだけの分で良いと思っていたのだけど、やはり色々と物入りで」
今のところ何とか生活は出来ているが、やはりリリーは元貴族。しかも公爵令嬢だった事もあり、どうしても生活のあらゆる場面で「あれが欲しい」とか思ってしまう事があった。
「魔法でどうにか出来る事であれば全然気にならないけど、道具とかになるとどうしてもお金が必要だから」
「確かにそうですね」
魔法は何も万能ではない。魔法陣にしてもそうだ。ない物を作り出すのはそれだけ大変な事で、買うには『お金』が必要になる。
しかし、リリーはほぼ無一文の状態で家を追い出されてここにいる。つまり、欲しい物を買うだけの『お金』がないのだ。
「どうかしら?」
「――お話はありがたいのですが、それはつまりここを毎回行き来しなければいけないという事ですよね? それに、話を聞く限りそれなりの量になりそうだと」
「あ、それなら転移の魔法陣を設置するのはどうでしょう?」
「転移の魔法陣……ですか? しかし、あれは確か高等魔法の1つのはず……」
「それくらいならすぐに準備出来ます」
「……」
サラリと言ってのけるリリーに対し、アルフは面食らってしまった。なぜなら「転移魔法」自体使える者はそう多くないからだ。
しかも、リリーの話を聞く限り「転移の魔法陣」という事は『常設』つまりいつでも使える物を用意するという事を意味しているのだろう。
ただそれは「転移魔法」よりも難易度が高く、仮にシュタイン共和国でそんな事が出来れば間違いなく高位の魔法士としてスカウトが来るレベルだったのだ。
しかし、リリーはそれを「出来る」と断言した。
そして仮にそれが出来たのであれば……アルフとしても収入源が増えるはずだ。そもそも『薬草』自体希少な物が多く、取引価格はかなり高くなるのでありがたい。
そうなれば検問所を通る為の費用にも充てられる。
「分……かりました。ただ、取引の観点からたまにここに来ても?」
「それはそうね。じゃあ、これを渡しておくわ」
リリーはそう言って小さな「しおり」を手渡した。中に白い毛の様な物が入っている。
「これは?」
「フェンリルの毛の入ったしおりよ。これがあれば余程の魔物じゃなければ近づいてすら来ないから」
「おい、我を魔物除けに使うな」
「でも、現に寄って来ないでしょ?」
ニッコリと笑うリリーにフェンリルは苦虫を噛み潰した様な顔をし、アルフは思わず笑いそうになってしまったのだった。




