第9話
「……確かに。後、このペンもそうかしら?」
「あ、それに関してはとくに許可なく販売出来て、主な収入源になっています」
「許可?」
「は、はい」
リリーが聞き返すと、アルフは一瞬「しまった」と焦った様な表情を浮かべたが、すぐに気を取り直して頷いた。
「何を売るのかも許可が必要なのか?」
「え、えと……そうですね。その、やはり売れるという確信がないと売りに出さないと言いますか……」
「それはつまり、あなたではこの布を使ったドレスなど売る事が出来ないと思われている……という事かしら?」
「そう……なりますね」
アルフは少しでも悲しそうな表情を隠す様に「ハハハ」と笑うが、どうにも隠しきれていない。
しかし、リリーもアルフの事は少なからず「可哀そう」だと思ってしまうが、何も言っている事が全て間違っているとは思わない。
そもそも、この布を作るのにも様々な人が関わっている。
そして、その人たちに「給料」として布を作ってもらった側はお金を支払う義務が生じる。
ただ、そもそも布が売れなければその「給料」が払えない。それこそ「無償で渡す」など以ての外だ。
貧しい人たちの為……というのは「良い事」であるのは確かだろう。しかし、世の中なんでも「良い事」だけでまかり通るものではないのもまた事実だった。
ひょっとしたらアルフのご両親はアルフがスラム街の人たちに対して無償で物を渡しているのを知っているのかも知れない。
それならば「許可なしでは売る事すら出来ない」というアルフの言葉に納得が出来る。
「主な収入源って事は結構売れるのかしら?」
「はい! 書き心地が良くて事務仕事に向いていると大量に購入される方もいらっしゃるんです!」
「あら、そうなの」
「はいっ!」
言われてみれば、ブランド王国には「職人」と呼ばれる長年その職業をしている人たちがいるのだが、その中に「ペン」の職人はいなかった。
「そもそもこれは俺がシュタイン共和国のスラム街で出会った手先の器用な人が作った物なんです」
「それはつまり、あなたがその人をスカウトした……という事?」
「スカウト……と言いますか、最初はその人に財布をスラれてしまって……後を追いかけて捕まえたのがきっかけで」
「つまり、スリで生計を立てていた……という事かしら?」
そう尋ねると、アルフは「はい」と頷いた。
置き去りにスリ……この人はこの人でかなり波乱万丈な人生を送っている様に思う。それこそ一冊の本に出来そうなくらいだ。
「スリの常習犯だったんですけど、やけに手先が器用だって気が付いて、本人もこれを機に真っ当な生活をしたいって話していて……それでご高齢でお弟子さんを探していた職人さんに紹介したんです」
「その人はペン職人なの?」
「いえ、ガラス工芸の職人でした。でも、そいつはこれで書き物をしたらきっと綺麗だろうって」
「じゃあコレはその人のオリジナルって事ね」
「はい。だから家の許可もいらないんです。本人と取引しているので」
「なるほどねぇ」
「はい」
「ふーん?」
そこまで聞くと、リリーは今一度そのペンをじっくりと観察した。確かに、このペンはガラスで出来ている。しかし、その書き心地は長時間使っていてもストレスを感じさせない。
これならば確かに事務仕事に向いているだろう。そして何よりこのペンには持ちやすい様に小さな細工が施されている。
「どうかされましたか?」
「ううん。ものすごい物だなって」
「ありがとうございます。作った本人も喜びます」
「フフ。ところで……ちょっと相談なんだけど……」
リリーはペンを横に置きつつ、アルフの様子を窺う様にチラッと視線を向けた。




