第8話
「……そう」
多分。この口ぶりから察するにこれはきっとシュタイン共和国に限った話ではなく、ブランド王国でも行っているのではないだろうか。
「本当は……分かっているんです。こんな事をしたところで焼け石に水だって。俺が食べ物を渡したところで何も変わらないって」
「……」
もちろん、国でもそうした人たちに対して様々な事を行っている。しかし、それでも追い付いていない。またそうした人たちが仕事に就くのも難しいのが現実だ。
ただそれはやはり「その人」を見るのではなく「生まれ」を重視する古くからの風潮のせいでもある。
もちろん、そうした事を気にしない人もいるが……そうした人は現状。ほんの一握りだ。
シュトラール殿下はそうした現状を嘆いて王宮で働く者は「生まれ」以上に「その人物」を重視している。
それでも、なかなか変わらない。いや、変わりたがらないというべきか。
ただ、ハンナ嬢の件を経てリリーは余計に「優秀な人物は生まれだけに限らない」という事を知った。
「でも、苦しんでいる人を見ていると……何かしなくちゃって」
「その気持ちは……痛いほど分かるわ」
しかし「何もかも平等に――」は言葉の響きも傍から見ると一見すると良い事の様に見える。
だが、それは本当に「良い事」と見ていいかは疑問が残るのもまた事実だ。
「でも、確かに物事の全てを『生まれ』で解決するのは……違うと思う。ただ、その家に生まれた事によって背負わされる重圧や環境の違いに関してはやはり考えなくてはいけないでしょうね」
やはり公爵家に生まれた場合と庶民で生まれた場合ではそもそも恋愛に限らず様々な点で「自由度」が違う。
リリーは違ったが、生まれてすぐに婚約者が決まる……なんて事は貴族の家に生まれればよくある話で、むしろそれが「貴族の責務」とも言われている。
親の金で好き勝手に……なんて見られる場合もあるが、その陰にはそうした面も隠されている事も多い。
もちろん、本当に親の金で好き勝手に遊び歩いている人もいるが……。
「なかなか難しい話なのは仕方がないでしょうね。それに、お兄様方の話に関しても商人として考えれば……」
「それも仕方がない……という事は分かっています。ただ……ちょっと露骨すぎるなと俺が勝手に思っているだけなんで」
「……そこまでか」
「近くで見ていると余計に」
ただ、それは相手によって変えているから気付かれていないだけなのだろう。
「でも、いつかは……いいえ。もうバレている可能性もあるでしょうね」
「ハハハ、それはあるかも知れませんね。なにせ、貴族の方たちは噂。いえ、会話が大好物ですから」
「あら、気付いていたのね」
「子供の頃の話ではありますが、そうした傾向がある事は子供ながらに知っていたので」
しかし、そうした中でも購入するのはやはり魅力的な商品を販売しているからなのだろう。
「そうした噂が流れても売れるというのは……やはり商品かしら?」
「そうだと思います。兄さんたちが売っているのは他では手に入らない高級な宝石やドレスなどで使用される布ばかりですから」
「布はシュタイン共和国特品よね」
「はい。その中でも最高級品は我が家でしか取り扱っていません」
そう言いつつアルフは助けた際に汚れてしまったカバンから小さいものの、丁重に包まれたとてもキレイな布を取り出した。




