第5話
「でも、それは仕方がないと思っています。それに、住まわせてもらえているだけまだ良いですから」
「……」
ニッコリと笑う商人の表情にはどことなく諦めの色が見える。
ただ、これも「仕方がない」と言われてしまえばそれでまでの話なのだろう。リリーは貴族の出身の為あまり知らないが、商人の兄弟たちはシュタイン共和国でもそれなりに名が通っている。
この「名が通っている」という事が商人にとってはかなり重要で、これによって日々の売り上げなども大きな影響が出るのは間違いない。
その重要性がよく分かっているからこそ、彼も自分が支払っている金額がたとえ倍以上だったとしても何も言えなかったのだろう。
「それに、一人で暮らしていける程の余裕はありません」
「それは金銭的な面で?」
「それももちろんありますが、そもそもそういった経験が全くないので」
「それもそうね」
リリーも半ば強引ではあるもののこれが初めての一人暮らしだ。しかし「普通」と比べると……明らかに違う。
そもそも、彼の話を聞く限り貴族ではないもののシュタイン共和国ではそれなりに裕福な生活をしている様に聞こえる。
そして、彼の口ぶりから察するに使用人たちからは無視をされている様子はなさそうだ。
「ところで……」
「はい」
「ここまで散々話をしておいて今更なんだけど、あなたのお名前は……?」
「あ」
出会いがあまりに急だった事やお茶の準備。そしてそのまま会話に入ってしまった事で完全に自己紹介をするタイミングを見失ってしまっていた。
「申し訳ありません。俺は『アルフ・ダイアー』と申します。先程は助けて頂いて本当にありがとうございました」
「いいえ。あの状況を無視するのはさすがに……」
「夢見が悪くなりそうだったからな」
「ちょっと」
「しかし、事実であろう?」
フェンリルは「フフン」と鼻で笑うが、それは……事実である。
「ハハハ。それは良かった」
「え」
「だってそう思ってくれたから助けて下さったんですよね? それならあのタイミングで良かったと思いまして」
「……」
そういう問題ではないのだが、しかし言われてみれば確かにそうかも知れない。あのタイミング。あの場所だったからこそリリーたちはアルフを助ける事が出来た。
もちろん、大きな声で助けを求められれば……やぶさかでもないが。
「話が逸れてしまったわね。私は『リリー・グランツ』よ。出身は――」
「ブランド王国……ですよね」
リリーは一度仕切り直そうと軽く咳ばらいをして自己紹介がてら出身地を言おうとした瞬間、なぜかアルフに言われてしまい、リリーは思わず「え」と驚きの表情を浮かべてそのまま固まった。




