第3話
「俺は……代々家業で商人をしている家で育ちましたが、その才能は正直ありません。それでもこの仕事をしているのは家業がそうだったから。それだけなんです」
基本的に、魔法の才能があればまだ選択肢は広がるのだが、その才能が無ければ家業をする事が多い。彼もそんなどこにでもいる一人だったのだった。
「俺には二人の兄がいますがその二人は才能があり、下の弟たちは魔法の才能がある。そんな中で俺は影が薄い。でも、どれだけ薄かろうが魔法に秀でているあいつらの兄である事実は変わらない。それがあいつらは許せずその腹いせでこんな事を」
「だ、だからって森に置き去りだなんて」
「うむ。しかも、仮に置き去りにされてここで亡くなってしまったところでその事実が変わる事はない」
「……そうですよね」
しかも、下の弟たちは魔法の才能があった為、少なからず自分よりも両親に可愛がられていたはずだ。それなのに一体何が不服だったのだろうか。
「そやつらにどういった事情があったにせよ、お前さんの受けた仕打ちに嘘偽りはない。それであるならばその事実を訴えても良いのではないか? その権利がお主にはあると思うが」
「普通はそうね。たとえ家族だとしても、置き去りにされて死にかけたのは事実だから……ただ」
女性は少し考え込む様な仕草を見せる。どうしてか……それは商人も察しがついている。
「ネームバリュー……ですよね」
「ええ。私はシュタイン共和国の出身ではないから詳しくは知らないけど、そちらの国でそれなりに名前が通っているという事はあなたがいくら置き去り等の事を訴え出たとしても果たして信じてくれるかどうか……」
「そもそも、検問所を通らずに冒険者と『同行』という形でここを通っている時点で通常の規定を無視していますし、こうなる可能性も承知したうえでここを通っているという前提がありますから……」
「――なるほどな、先に規則を破ったのはお主。それに、魔物に遭遇してしまうという事実を承認した上で同行しているのだから何も言えまい……と言う事か」
「そもそも俺が検問所を通る時にかかる金を払えるくらい稼げれば何も問題はないんですけどね」
「でも、それも払えない……という事よね?」
「払えない……という訳ではないのですが、正直払うと稼ぎの大部分を持って行かれてしまいますね」
「そう」
これだけ聞けば「どれだけ稼ぎが少ないんだ」と思われるかも知れないが、実は検問所を通る時にかかる手数料はかなり高額。
それこそ庶民には手が出せない程の金額で「ちょっと隣の国に旅行」などと手軽には言えない程のものだった。
「それならばその国の中で商売をすればいいのではないか?」
「それが出来ればいいんですけど、生活必需品などは貴族が、食料品にはそれぞれ大きい商家が関わっていて俺の家もその大きな商家の1つなのですが、僕の居場所はそこにはなくて……」
「それで自分で何とかしようとブランド王国に?」
「でも、毎回思うような結果は出ていませんけど」
寂しそうに笑う商人に、女性……リリー・グランツは少し前の自分の姿を見ている様に感じた。




