第2話
「キッシュ……という事は卵もここで?」
「はい。ロックバードの卵を使っています」
「え、ロックバード……ですか?」
「はい!」
ニッコリと笑顔な女性に対し、商人は思わず固まる。なにせ、ロックバードの卵と言えば通常販売されている物の五倍くらいの大きさだからだ。
もちろん、その大きさ故に価格も普通の卵と比べてかなり高価な代物ではあるものの、その味は濃厚で美味しいらしい。
それを目の前にいる華奢な女性が調理したとして食べていたとしても……とても食べきれるとは思えない。
「あ、フェンリルがいるので一個でも十分なんです。むしろ足りないくらいで……」
言いにくそうな様子で女性はチラッとフェンリル様の方を見る。
「あ、ああ。なるほど」
確かに、フェンリル様の体は大きい。しかし、今の言葉をそのまま受け取ると……やはりこの二人はここで一緒に生活をしているという意味で間違いないだろう。
「ところで……」
納得していたところに女性は何やらこちらの様子を窺いつつ今度はこちらをチラッと見ている。
「はい」
「どうしてあんなところにいらっしゃったのですか?」
女性の何気ない問いかけに、商人は思わず食べようとしたキッシュをポロッと落としてしまった。
「あ! もちろん言いたくないのであれば……」
「……いえ、助けて頂いたのにそれはあまりに無責任ですので」
そう言いながら商人はフォークをそっと置く。
「――とは言いましても、実はそちらのフェンリル様に助けて頂いた時と同じ理由なんです」
「同じ?」
「はい。また、騙されたんです」
「騙された……という事は誰かと一緒に行動されていた……と?」
「はい。正確に言うと、一番下の弟ですが」
「その弟さんは冒険者か何かなのですか?」
「はい。国でもそれなりに名の知られている冒険者ギルドのメンバーです」
「名の知られているって……」
女性の反応を見る限り、シュタイン共和国においてこの「それなりに名が知られている」という事がどれほどの事なのかを知っている様だ。
つまり、少なからずこの女性はシュタイン共和国について知っているという事になる。それと同時に、魔法の才能がある庶民か貴族。もしくは同国の出身者……という事になる。
だが、ここに来るにはシュタイン共和国ではまず冒険者ギルドに登録しなければならない。
しかし、今のところ冒険者ギルドの依頼でこの周辺を通る様な物はあまりなかったはずだ。
いや、そもそもそんな依頼は提出すら出来ない。仮に出来たとしてもそれは全く別件に同行させてもらう形になる。今回の自分の様に……。
「でも、それだけ力がある方たちのはずなのにどうして置き去りなんて……しかもご兄弟。ご家族……なんですよね?」
これが普通の反応だろう。普通に考えて弟が兄を騙すとは考えにくい。しかし、現に自分は騙されて魔物の群れに取り残され、命からがら逃げて迷ってまた別の魔物の縄張りに入ってしまった。
絶体絶命だったところをちょうど野草を摘みに来ていた女性とフェンリル様に助けられた……それがここまでの経緯だった。




