第1話
「……」
この状況は……なんだろうと、商人は考える。
目の前にはその仕草や身のこなし。話す言葉から明らかに庶民だとは思えないが、貴族にしては素朴な服装の女性。そして、その傍らには以前自分を助けてくれたフェンリル様。
「む? それは野草か?」
「うん。この野草は煎じて飲む事も出来るし食べる事も出来る。それに、気持ちを落ち着かせる効能があるから」
「ふむ。そうか」
「うん」
二人がほぼ対等に話している状況を見るに、二人の間には何かしらの契約関係である事は明白だ。
「あ、あのぉ」
「あ、もうちょっと待ってください! もう少しで出せるので!」
少し声をかけると、女性は慌てた様子でバタバタと何かを準備している。商人は自分が女性よりも明らかに身分が下だというのは分かっているので強くは言えない。
そもそも、お茶を出してもらう事自体おこがましい。
「いえ、あの。お気遣いなく……」
「まぁ、そう言うな」
そんな女性の姿をどこか優しい目つきで見つめるフェンリル様。まるで自身の子供を見ているかの様にも見える。
「はぁ」
自分はシュタイン共和国で昔から商人をしている家の三男坊で、兄弟が五人もいる中のちょうど真ん中。
それ故……なのか家族の中では一番存在感が薄く、また両親からの関心も薄い様に感じる。
しかも、上二人は商人としての才能。下二人の兄弟は魔法の才能があり、自分はちょうど半々……いや、半分もなくこれと言った才能はない。
だからなのか自分は兄弟たちから馬鹿にされる事も多く、以前ここに置いて行かれたのも下の兄弟が率いていたパーティーによるものだった。
それが分かった瞬間「何が兄弟だから安くしといてやるだ」と思ったが、そもそも検問所を通るのすら惜しいと思ってしまう程売り上げがないから悪い。
結局、自業自得だと納得するしかなかった。
「ごめんなさい。お待たせしました!」
「これは?」
目の前に置かれた美味しそうな料理は商人も見た事のあるが、どことなく違う様にも見える。
「野草で作ったキッシュです」
「野草で?」
「はい。この辺りには食べられる野草がたくさんありましたし、野菜が出来るにはまだ時間がかかりそうだったので」
「……」
少し恥ずかしそうな顔で女性は説明するが、そもそも貴族のご令嬢だと思われるこの人がどうしてこんな場所で生活をしているのだろうか。
それに「野菜が出来る」という事は、ここへ来た時に見かけた畑と思しき場所で彼女が野菜を育てているという事を意味しているのだろう。
しかも、先程から辺りを見渡してもこの家には彼女と自分以外に人間がいる様には思えない。
まさか、ここに住んでいる……という事なのだろうか。
色々と疑問は湧くが、それを果たして自己紹介もまだしていない相手にそれを聞くのも野暮としか思えず商人は口をつぐんだ。




