第7話
ただ、そんな事を表に出そうものならすぐに第一王子の耳に入る。
しかし、当の本人はあまり気にしている素振りは見せず、むしろ「だろうね」と分かり切っている様にも見えた。
でも、彼は「王太子」としてご高齢の国王陛下に代わって国を運営する様になってからは庶民からの王族に対する評価はうなぎ上りになっていたのもまた事実だ。
しかも、そういった貴族たちはなぜか揃いも揃って決して薄くない黒い噂を持っていた。
つまり「第一王子を気に食わない」と言っていたのはそういった噂を抱えている物ばかりだったのである。
ただ、そんな彼らも自身の行いにによって逆に自分の身を滅ぼし、時には家族も巻き込んで没落した事もあった。
だからなのか、今では腹の中には色々と抱えつつも第一王子たちには逆らわない様に貴族たちは気を常に張っていた。
リリーとしては、貴族の領地運営には領民の命がかかっていると言っても過言ではないのだから気を抜かないで欲しいところではあったので、これに関しては特に何も思わない。
それに、そういった事が起きる訳ではないものの、気が付けば……なんて事があったのもまた事実だ。
だからリリーも実は第一王子と話す際には細心の注意を払い、それこそ婚約破棄の計画の際には今まで以上に警戒していた。
「……」
多分。エミル殿下とリリーの婚約破棄の件に関しては一晩経った現在。確実に第一王子の耳に入っているだろう。
そして、きっとリリーが隣国のシュタイン共和国ではなく、この魔物地帯にいる事も耳に入っているはずだ。
「しかし……先程の話では、お主が受けた王妃教育は通常とは随分と違うらしいな」
「ええ。どちらかと言うと、第一王子と現王妃様が監修したらしいわ」
現王妃様は国王陛下よりも十五歳若く、今もお元気で外交の面では豊富な語学力を駆使して第一王子のサポートもしているそうだ。
ちなみに、第一王子は結婚しており、その方は歴代優秀な外交官を輩出している家柄らしく、かなり語学が堪能らしい。
なんでも近い内に現在王妃様が行っているサポートの役割を引き継ぐ形になるのだとか……。
「ほお? つまり、母親とあのぼんくらの兄が自身の弟の婚約者の教育に一役買った……と」
「そうなるわね」
リリーがそう答えると、フェンリルはなぜか「……ふむ」と考え込む様な表情を見せる。
「どうしたのよ」
「いや、これは我の勘違いかも知れぬのだが……」
「?」
「多分。その兄は我がフェンリルである事を分かっていたと思うぞ」
「え。い、いつ? いつ気づかれたの? だって学園で会った事はないはずだし、ましてや王宮でなんて……」
「落ち着け。あくまで我の予想だ。ちなみに、そやつは何度かお忍びで学園に来ておるぞ?」
フェンリルはなんて事ない様子で話しているが、リリーには心当たりがない。そもそも第一王子が学園を訪れるとなればそれなりの準備が必要になる。
しかも、王子が学園を訪れるとすればそれは大体が学園の行事がある時くらいのもので、それこそ卒業式などもそれに当てはまる。
ただ、第一王子は思慮深く疑り深い性格。だからこそ、リリーは彼の前でフェンリルを連れた事はなかった……はずだった。
それがまさかお忍びで来ていた上に気づかれていたとは……。




