第6話
「それはそれとして腹が減ったな」
「それもそうね。とりあえず今日はシンプルにこのキングトラウトを焼きましょうか」
「うむ。しかし……」
「どうしたの?」
「いや、我の記憶では料理というのは道具が必要なのではないか?」
「ええ。でも、それも追々準備する必要があるわね」
それを考えると、やはり近い内に買い出しをしに行かないといけない。しかし、シュタイン共和国に行くにしてもましてやブランド王国に行くとしてもそう一筋縄に行くとは到底思えない。
なにせリリーは自分で仕向けたとは言え、殿下に婚約破棄された人間だ。
これはブランド王国のみならず隣国であるシュタイン共和国にも話は伝わっているだろう。それだけ貴族間。いや、王族の婚約破棄というのはインパクトがある。
それだけになかなか行動を起こしづらい。
「一応、先住の方が置いて行ったと思われるフライパンとか道具一式もあったけど、これは一旦保留ね。さすがに埃を被っていたし、綺麗にしないと」
「全部は使えそうにないのか?」
「使えそうな物もあったけどね。でも、やっぱり消耗品だから。一応、色々と作り方も教わってはいるのだけどね」
「……それは『王妃教育』とやらの一環でか?」
「ええ」
「ふむ、先程も思ったのだが……随分と変わった事をするのだな」
それはリリー自身が一番思っていた。
「まぁ、そうね」
「しかし、歴代の王妃と言うのは全員通って来た道だというのであれば仕方のない話か」
「あ、それは違うみたい」
「む? 違うのか?」
「ええ。それに、エミル殿下は第二王子だから王妃と言うか……って感じなのよ」
「なるほど」
そう、本当の意味での「王妃」は第一王子の奥様になる。
だから……という訳ではないとは思うが、第二王子の婚約者だったリリーは本来の王妃教育とは大分異なっていた。
ただ、それを主導したのは第一王子とも聞いていたのできっと彼なりに何かしらの思惑があっての事だろうとは思っていた。
しかし、その意図が分かる事はなく現在に至っている。
「それにしても、その教育の成果……賜物。いや、何の因果か……。こうして役立ってはいる様だがな」
「……そうね」
きっとそれらの経験がなければこうして行動を起こす事は出来なかっただろう。いくら「何をどうすればいいか」という知識があろうとも経験がなければ行動するのは難しい。
ただ、こうする事が出来ているのが今までの経験の賜物と言うのもリリーの内心ではどうにも複雑ではあった。
そして、それと同時に疑念も浮かんでいた。
それは「第一王子はこうなる事を予知してあのような王妃教育を自分に課したのではないか……」と。
事実、第一王子はそうした「肝心なところを説明しない」という部分もあり、結果としてそれが功を奏す事もあった。
ただ、人によっては「それがまるでこうなる事が最初から分かっていた」という風に映ってしまい、陰ながら彼を毛嫌いしていた貴族も……実は存在していた。




