第5話
「――ふむ。どうやら心配は杞憂だった様だな」
お昼頃。フェンリルは大量に狩りで取って来た物を家の前に置いた。
「うん、やっぱり覚えていたみたい」
肉の解体は業者で、魚の解体は料理人から学んだ事がこうして役に立つとは。
「しかし……」
フェンリルが狩って来たのはオークやロックバード。キングトラウトという魚まであった。
「本命はブラッディホーンブルだったが……。あやつらは群れで行動しているが故に今回は見つけられなかった」
どことなく残念そうにしている。ちなみに「ブラッディホーンブル」とは左右に大きな角を持つウシ型の魔物で、人間であれば突進されたらひとたまりもない。
ただ、かなり残念そうにしているところを見る限り、どうやら牛肉が食べたかったのだろう。
「いや……十分よ。うん」
フェンリルはリリーの五倍は食べると考えても……解体した肉や魚はなかなかの量になる。
「アイテムを保存出来る魔法陣は一応造ったけど……」
しかし、容量だけでなく保存が出来る期間も決まっている。これだけでは正直心許ない。
「何を言う。これぐらい三日もすればなくなるはずだぞ」
「……それ、本当に?」
思わず声が出てしまったが、当のフェンリルは「当たり前だろう?」と言わんばかりの表情だ。
「とりあえず、一度に調理してみてどれだけ消費するか試してみないといけないわね」
「うむ」
フェンリル自身はそう言ってはいるものの、こればかりは実際にやって見ないと分からない。
「ところで留守にしている間何か変わった事などはなかったか?」
すると、フェンリルは思い出した様にリリーに尋ねた。
「え、えーっと」
「む? なんだ、言ってみろ」
「変わった事では……あったと思う。でも、何か危害があったとかではない……けど」
「どういう事だ?」
「じ、実は……つい先程グレートウルフたちが来て……」
「――!」
そう言うと、驚いた様子でフェンリルはリリーの匂いを嗅ぎ回る。
「確かにグレートウルフの匂いがするな。しかしそれだけでもない……」
「う、うん。実は……その、色々と野菜の種を持って来てくれて……」
「む? なぜだ?」
「彼らが言うには『我が縄張りにフェンリル様が来てくださった事に対するお礼』だって」
確かに、フェンリルという伝説級の魔物が住み着いてくれれば普通に考えて他の魔物は近寄らないだろう。
それを考えればお礼をしたくなるのも分からなくはない。
「なるほどな。それはそれとして……」
「?」
なぜかフェンリルがジーッとリリーを見つめる。
「何?」
「いや、我に限らず魔物と会話が出来るのだな」
「た、確かに……」
「なんだ、自分でも気付いていなかったのか?」
「う、うん。でも、言われてみれば……」
「……そうか」
そういえば、周りの人間がリリーの従魔であるフェンリルをグレートウルフだと言っていた時。
彼らの従魔が必死に「違う!」と訴えていた鳴き声をリリーは「言葉」として認識していた。
元々、魔物たちは人間の言葉を理解出来ているのだから後は人間側が魔物の言葉を理解さえ出来れば「会話」は成立する。
「……そっか、そうだったんだ」
「他の者たちは理解出来ていないからな。無理もない」
そう言うフェンリルはどこか飽きた様な……いや、呆れた様子で「はぁ」とため息をついた。




