第3話
「そうと決まればまず……」
辺りを見渡すと、当時を彷彿とさせる古い調理器具がある。ただ、どれもかなり古いため、このまま使う事は出来そうにない。
それに、このままここに住むという事は衣食住をここで全て完結させないといけないという事になる。
衣食住の内の「住」はかなり丈夫なこの場所で問題はない。ただ、どうも家族で過ごすというより一人暮らしの家に近い様に感じる。
その証拠に「部屋」と思しき区切りなどはなく、中に2つほど扉が会ったのだが開けても先にあるのはトイレと後は物置……といったところだろうか。
もちろん家族で生活が出来ない……なんて事はないが、この広さは一人暮らしするのにちょうど良さそうな大きさに感じられた。
ただ、目下の最大の問題は家具や水場などのライフラインの確保といったところだろうか。
衣に関しても今のところは洗濯さえ出来る手はずが整えば問題はない。贅沢を言うのであれば服を掛けられるクローゼットがあればもっと良い……と言った具合だろう。
そして「食」に関してもフェンリルが野生の魔物を狩って来てくれるので肉や魚は期待出来るのでそこら辺は大丈夫そうだが……。これも贅沢を言っていいのであれば野菜も食べたいところだ。
ただ、そうするためにはまず畑や種を用意し、水の準備もしなければならない。つまり……。
「結局はライフラインの確保に行き着くのよね」
しかし、これに関してはこの家中から魔術が使われていた様な痕跡が見て取れる。ただ、かなり古い物な上に使用期限が過ぎてしまったらしくあくまで痕跡だけだ。
「今でも魔術は日常生活でよく使われているけど……」
それでも魔術を用いた製品はやはり高価な物が多く、庶民には手が出せない。そう考えると、この辺りに住んでいた人たちはそれなりに裕福な生活をしていた……という事になるのだろうか。
「いえ、昔の方が今よりも魔術がもっと身近な存在だと聞いた事があるわ」
もしかしたら、この魔術が多用されている生活が当時の中では「普通」に分類されるのかも知れない。
ただ、リリーからしてみると魔術が大量に使用されていたであろうこの生活は異様にしか見えなかった。
「と、とりあえず色々と見て行くとしましょうか」
まず目に入るのは「コンロ」と思しき物だ。鉄製の足と思われる部分は残っているので後は火さえ起こせれば使えるであろう。
「火もやっぱり魔術の方が良いのかしら? ん?」
すっかり埃を被ってしまっているコンロの下にはつまみがあり、その周辺を軽くこすると、そこには火の魔術の陣が掘られている事に気が付く。
「これって……このつまみを回せば火が付くのよね? この辺りは今とあまり変わらないみたいね」
通常。貴族の令嬢。それこそ公爵家ともなれば「料理は料理人がするもの」という考えから自分たちで料理をするなんて事は考えられない。
その為、どうやって日々運ばれてくる料理が作られているのか……など知らない者も多い。
しかし、リリーは「王妃教育」の一環で様々なジャンルの料理人から直接調理方法を学んでおり、なおかつ学園内の図書館で様々な地方の料理の本も読んでいた。
「本当に……色々と大変だったわね。あの頃は」
リリーが最初に料理を学びに行ったのは貴族直属の料理人……ではなく、商人などがよく利用するレストラン。
そこではまず肉料理を中心に学び、そのまま別のレストランで魚料理を学んだのだが、そもそも調理器具すらまともに触った事がなかったのでまず慣れる事に必死だった。
しかも、リリーが公爵家の令嬢だという事はオーナーがわざわざ言わずとも周囲はすぐに分かったらしく、最初は「貴族令嬢のお遊び場じゃないんだぞ! ここは!」と言う料理人もいた。
これに関してはリリーも彼らと同じ様に疑問に思っていた。
普通に考えて「王妃教育」と言えばマナーやダンス。歴史や諸外国の関りについてなどの勉強をするはずだ。
しかし、リリ―のこれはどう考えても「社会勉強」以外の何物でもない……そう思えてならなかった。




