第2話
「うむ、それならば良かった」
「良かった?」
「ああ。おかげでここいらの魔物たちと話をつけた意味もなくならずに済みそうだ」
「話をつけたって……」
そういえば、昨日フェンリルは「野暮用がある」と言っていた。それはつまりこの周辺を縄張りにしている魔物たちに「話をしていた」らしい。
「ちゃんと納得したの?」
「ほとんどのヤツラは特に何もなかったな。まぁ、中には好戦的なヤツもいたのは確かだ。我としてはむしろ戦う事もやぶさかではなかったがな」
「ああそう」
「うむ」
むしろフェンリルとしては話し合いよりも拳で語り合った方が性に合っていたのだろう。
しかし、まさかそこまでしてくれていたとは意外だ。
「昨日も言った通りお主と我の従魔契約は継続中だ。主人の安全を担うのも我の仕事の一環であろう」
「フフ。ありがとう」
どうやらフェンリルのおかげで当面は安全に過ごせそうだ。
「それで、これからどうするのだ」
「どうするって。まずは食べ物の調達が最優先になるでしょうね」
「うーむ、それならば我が獲物を狩ってくるが……我らと違い人間はそのままで食わんのであろう?」
フェンリルは意外と人間について詳しい様で色々と心配してくれている様だ。
「魚はそのまま串刺しにして食べる事は出来るでしょうけど、お肉とかはさすがにそのままとはいかないわね」
「そうであろう?」
確かに、普通の人が魔物を解体するのは難しい。それこそ専門的な知識が必要になる。
「でも、その辺は大丈夫よ」
「む? そうなのか?」
「ええ。なにせ、王妃教育で様々な職業を体験しているもの!」
「……」
「――何よ、その顔は」
「いや?」
自信満々にリリーは言ったのだが、フェンリルはどうにも信じていない様に見えた。
それもそのはず。
こうした「職業体験」くらいのレベルであればちょっとした事でも相手をおだててご機嫌を取るのはよくある話だ。
しかも、リリーは当時王族であるエミル殿下の婚約者という立場。普通に考えて「どうせ体験と言ってもおだてられてちょっとやった程度だろう」と思うのも無理はない。
「まぁ、そう思われても仕方ないとは思う……けど」
さすがにリリーもその辺りはよーく分かっている。しかし、だからと言って「やらない」という選択肢はない。
なにせここには自分を助けてくれるアンナの様な人もおらず、ましてや料理人も解体職人もいないのだから自分でするしかない。
「――まぁ、とりあえず適当に狩ってくる。後は好きにするが良い。我は食えればそれで良いからな」
それだけ言うと、フェンリルは颯爽と森の中へと消えていった。
「一応。私が調理なりするって事は決まりなのね……」
リリーはあの「王妃教育」が全くの無意味だったとは思っていない。ただ、不安が全くないかと言うと、それは違う。
フェンリルはそんなリリーの気持ちを察してくれたからああ言ってくれたのだろうか。それは分からない。ただ、一見するとぶっきらぼうにも聞こえる彼の言葉がリリーにはありがたく感じた。




