第1話
「――お前との婚約は破棄する!」
『……ああ、やっとなんだ。やっと!』
思い出されるのは昨日の出来事。殿下の大きな声と共に聞こえる内容。自分で望んで計画し、無事に目的は遂行された。
『私、ここまでよく頑張った!』
その瞬間に溢れたのは「達成感」だけで、それこそ「悲しみ」などはない。あったとすれば「虚しさ」だろうか。
それに加えての『国外追放』だ。リリーとしては上々な結果でもある。
『やっとあの人から離れられたし、あの子ならきっとうまくやってくれるでしょう』
今までの殿下の言動は全て「自分がしている事こそが正しい」とか「自分が行っているからこそ成功している」というのが見え隠れしていた。
それらはほとんど殿下の思い付きで、学園時代の行事における急な変更は日常茶飯事で、リリーは毎回殿下の「思い付き」からくる言動に怯えつつ取り仕切っていた。
本来であれば、これこそが殿下の仕事のはずだったのに。
しかし、殿下の無茶な変更や要求に全力で対応し、それによって「素晴らしい」という評価を彼は自分の手柄にしていた。
実際はただ言うだけ言ってそれらの準備をしたのはリリーや他の生徒だと言うのに。
そして、この学園行事の準備をする学生のほとんどは位が下や兄を持つ貴族で、実は彼らや彼女たちのリリーに対する評価は意外と悪くないという事をリリー本人は全く知らない。
それに、実は学園外。しかも庶民の中でのリリーの人気はかなり高い。それは「ある理由」があっての事なのだが……。
「――おい」
気が付くといつの間にか日は上っており、フェンリルがリリーの顔を覗き込んでいた。
「ん? あれ? もう朝?」
「ああ」
突然フェンリルの顔が目の前にあると普通は驚くところなのだが、リリーは寝ぼけた様子で軽く欠伸をしながら呑気にフェンリルに「おはよう」と答える。
「それより、なぜトランクを使って寝ているのだ?」
フェンリルは怪訝そうな顔でリリーの様子をジッと見つめて問う。
「近くにベッドはあっただろうに」
「ああうん。確かにあったのはあったのだけど……その、やっぱり年季が入っているのか寝ても大丈夫か心配で」
いくら腐敗を抑える魔術が施されているとは言え、それでもやはりそれなりに年季は入っている。そうなると耐久性は気になるところだ。
「後、埃も気になったから」
パッと見た感じは何も問題ない様に見えるが、やはりどうしても埃は気になる。
「――なるほど。理解した」
「うん。でも、保存状態はものすごく良いみたい。もしかしたら長い期間結界で守られていたのかも」
「む? それだけ長い期間もつのか?」
「条件にもよるけど、先祖代々継がれる魔術は存在しているから」
「ふむ。つまり家が続く限りずっと続く可能性もあるという訳だな」
「ブランド王国が張っている結界がそれに当たるかな。後はタイムリミットをあらかじめ設定している場合もあるけど」
その場合は魔術を展開する前にタイムリミット分の魔力を消費する。要するに前もって陣が発動し続けれられる分の魔力を入れておくという訳だ。
「ふむ。それで、どうする」
「え?」
「ここに住むのか?」
「……そうね」
探せばもっといい場所があるかも知れないという可能性はある。フェンリルの話を聞く限り、もしかしたら他にも家が残っている可能背は否定出来ない。
しかし、ここまで良い状態で残っているとは限らない。それを踏まえて考えると……。
「当初の予定通り、ここにするわ」
リリーはこの家を改めて見渡し、ここで今後の生活をする事を決めたのだった。




