第8話
「――ふむ。確かに造りは悪くなさそうだな」
「え、ええ」
リリーも再度この家屋を確認したのだが、どうにも気になる事があった。
それは外側を見ただけで明らかにこの家屋が想定よりも新しく見えた事に関してである。先程のフェンリルの話の時期にこの家屋が建てられたというのであれば、その年季は相当なものになるはずだ。
「む? どうした?」
しかし、それを感じさせない程この家屋はキレイな外見をしている。
「かなり古い魔術だけど、腐敗等を遅らせる物が施されている様ね」
それは多分……この家屋全体から感じる『魔術』からだろう。
「なるほど、魔術か。我らは魔法しか使わんが故に魔術に関してはサッパリだからな」
「ええ、分かっているわ」
そう、魔物は魔術が使えない。その代わり魔法が使え、しかも呪文など必要としない。
ただ、フェンリル程の伝説級の魔物はともかく、通常の魔物は種族によって使える魔法と使えない魔法があった。
「そうね、そもそも魔術は魔物たちの魔法を真似て作ったものだもの。分からなくても仕方がないわ」
多分。フェンリルが先程話していた頃はまだ魔法が存在しておらず、魔術が主流だったはずだ。
「しかし……いつの間にか人間も魔法を使える様になっていたな」
「ええ」
これにはリリーの生家、グランツ家が大きく関わっている。
そもそもグランツ家は魔法の名家。
それはそもそも「使い手」というよりも新しい魔法の「開発」や「発見」に特化していたが故に付けられた物だったのである。
つまり、その昔。リリーのご先祖が率先して魔術を魔法に変換し、それを急速に普及させていった……という訳だ。
「つまり、お主の先祖が魔法の第一人者……という訳だな」
「そういう事になるわね」
「しかし……我はそれなりに耳の良い方だと思うが、ここ二、三十年はそういった話を聞いた事がないな」
「お、お父様は……魔法があまりお得意ではないみたいだったし、お母様はそもそもご興味がないみたいで……」
いくら魔法の名家とは言え、本人の努力なくして得られる物は多くない。全くないとは言わないが。
それでもグランツ家が今の地位にいれたのは偏に「先祖の功績があったから」に他ならない。
しかし、実はリリーの父親の1つ前。つまりリリーの祖父に当たる人物の頃からその功績に陰りは見え始めていた。
「……ふむ。だが、お主は魔法や魔術の素養だけではなく、知識も相当な物の様だな。この魔術についても分かる者はそう多くないのだろう?」
「買い被りすぎね」
ただ、実際のところ。この家屋に魔法陣が施されている事に気付ける人間はそう多くない。
仮に気付いたとしてもその魔法陣がどういった物かまでは分かる者はいないだろう。それくらい古い物だ。
「さて、今日はもう疲れたであろう」
扉を開けて中に入ろうとしたところでフェンリルは逆の方向を向く。
「え、帰ってしまうの?」
「何、ちょっと野暮用があってな。お主に何かあってはいけないから魔物除けの結界は張るがな」
「それはありがたいけど……」
「お主との従魔契約は切れてはおらん。我らがフェンリルからすれば人間の一生もちょっとした余興よ」
「フフ。そうね」
「それに、今日は疲れたであろうからな気にせず休め」
そう言ってフェンリルは颯爽と去って行き、リリーは見た目こそそこまで古くはないもののそれでもやはり古い家屋へと入って行った――。




