第6話
「それはそれとして、一体どうしたの? コレ」
話題を変えようとリリーはフェンリルが持っていたペンとインクを指した。
「ああ。それは不注意でゴブリンの群れに入ってしまった商人からもらった物だ」
「もらった? これを? 魔物なのに?」
どう考えても魔物であるフェンリルにペンとインクはいらないはずだ。
「どうしてもお礼がしたかったらしいのだが、手持ちがこれしかなかったらしい」
「そ、それにしたって……」
「言いたい事は分かるがな」
「それに、なんで商人がこの辺り。しかもゴブリンの群れになんていたの? 普通こんなところに来ないと思うわよ?」
そもそも商人であるのならこんな魔物ばかりが出るところではなく、南部の国通しが接している付近にある通行所を通れば良いはずだ。
「ああ、それについてはその商人が自分で話していたな。なんでもシュタイン共和国の方から来たが、冒険者共に金だけ取られた挙句置き去りにされてしまった……と」
「ふーん? なるほどね」
「心当たりがあるのか?」
「ええ、最近そういった事例がシュタイン王国の冒険者ギルドで増えているらしいって聞いた事があるわ」
本来であれば通行所を通れば良いのだが、実はここを通るには「通行料」がかかり、これが意外にかかるのだと言う。
この「通行料」がかからない例外は「国外追放者の移送」などが挙げられるのだが、基本的にはかかる。
そして、商人ギルドに登録はしているものの稼ぎの少ない商人はこの「通行料」を少しでも抑えようと冒険者パーティーに同行させて欲しい依頼をするのだと言う。
「同行するとどうなるのだ?」
「シュタイン共和国の冒険者ギルドに登録してある冒険者はその通行所だけじゃなくてブランド王国にある関所からも入国が許可されているのよ」
「ほぉ? つまり、あやつは何らかの事情でその通行料を払いたくなかったという訳だな?」
「そういう事でしょうね」
しかし、ここ最近。フェンリルが出会った商人の様に関所より前に料金を受け取りそのまま冒険者たちによって置き去りにされたり、元々提示されていた金額よりも多く要求されたりといった事案が増えていた。
その話がシュタイン共和国だけなく、ブランド王国にまで届いているのだからかなり問題になっているのだろう。
「でも、あなたが人助けをするなんてね、意外だわ」
「何、成り行きだ。あんな場面を見てしまっては商人が死んでもゴブリンがやられるのを見るのもどちらにしても目覚めが悪いからな」
「あなたが出ていけばゴブリンたちは退散するでしょうし」
「ああ」
現にフェンリルもそれを狙っていたのだろう。
ゴブリンたちだって敵わないと分かっている相手に向かっていく程頭が悪くはない。そして、フェンリルの思惑通りゴブリンたちは退散したらしいのだが……。
「商人がどうしてもお礼をしたいと聞かなくてな」
「それで……コレ」
「どうやらそれを大量に売るつもりだったらしいぞ」
「た、確かにシュタイン産のペンとインクは良質だけど……」
それでもやはりフェンリルに必要ない物だ。
「しかし、こうして困っているお主の助けにはなったであろう?」
「――そうね。なんだかとんでもない因果を感じるけど……とにかく、ありがたく使わせてもらうわ」
リリーは小さく笑いながら近くの木から葉を一枚取り、早速ペンを走らせササッと魔法陣を書いた――。




