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公爵令嬢は悪役になってでも自由になりたい。  作者: 黒い猫
第2章 さて、これからどうしましょうか?
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第4話


「な、なんで……ここに?」

「む? なぜ……とな?」


 リリーが見上げると、そこには狼よりも倍以上に大きく、長く白っぽい毛を持った犬型の魔物がいた。


 しかし、その毛の艶と言い立派な立ち姿はグレートウルフとは似ても似つかない……とリリーは思っている。


 ただ、彼の存在は古代の歴史書に出てくるくらいかなり珍しい。そのため、生涯を通しても彼の姿すら見た事がないという冒険者も多い。


 その為、比較的遭遇しやすい魔物の一種であるグレートウルフと勘違いされてしまう事もあった。


 そんな彼だが、生物学上では『フェンリル』と名付けられており、そして……リリーと従魔契約をしていた。


「ここは我が住んでいるからに他ならないが」


 キョトンした様子で言うフェンリルに、リリーは思わず「そう……だったわね」と苦笑い気味で答えた。


 基本的に従魔契約をしている魔物を呼び出すには「転移の呪文で呼び出す場合」と「転移の魔法陣を書いて呼び出す場合」の2つのパターンがある。


 つまりこの「呼び出す」という時点で従魔は全く別の場所におり、そこから彼らを自分の元に転移させているという訳だ。


 そして、フェンリルの生息地が元々はこの辺りだったという根本的な話をリリーは完全に忘れていた。


「しかし……随分と愉快な事になっているな」

「まさか……聞いていたの?」


 フェンリルの耳の良さは人間の常識を遥かに凌駕する。ここから王宮までの距離は単純に「遠い」だけではないのだが……さすが伝説の魔物だ。


「ああ。阿呆だ阿呆だとは思っていたが……よもや我を従魔とするお主をみすみす国の外に放つとは……普通であればありえん。呆れてものが言えんな」

「……」


 随分と自信ありげな言い草だが、そう言い切れるだけの力を彼は持っている。


 その力はブランド王国の騎士団一小隊分と言われ、リリーも実際にその実力を目の当たりにしている。だから、フェンリルの言葉にも説得力を感じる。


「しかも、国外追放と言いながらこの地帯に放置とは随分な小童よ。仮にも婚約者であっただろうに」

「大方、魔物に襲われて死ぬか魔物に襲われるのを怖がっての垂れ死ぬだろうとでも思ったんでしょ」


「しかし、そんな簡単に屈するつもりは無かろう?」

「もちろん」


 そう言い切ると、フェンリルは「ククク」と笑う。


「だろうな。お主がそんな簡単にやられるとは我も思っとらん。それこそ、我を呼び出す程の実力者だかな」

「それは光栄ね」


「あの頃は色々と面白かったが……。我の事を『グレートウルフ』としたお主の先生とやらの判断には未だに納得はしとらんがな」

「それは仕方ないでしょう。普通、フェンリルなんて伝説上の魔物が一介の生徒の召喚に応じて従魔契約までするとは思わなかったでしょうし、そもそも見た事すらなかったでしょうから、先生たちの中の記憶で合致したのが『グレートウルフ』だったのよ」


 リリーは召喚してすぐに彼がフェンリルだと分かった。しかし、彼を伝説上の魔物だと思い、見た事すらなかった先生方は彼を『グレートウルフ』とした。


 当然彼が不服なのも無理はない。ただ、この事により騒ぎになるのはリリーとしてはどうしても避けたかったのだ。


「それに、あなたがフェンリルだったら大騒ぎになって殿下の機嫌を損ねる事になったでしょうし」

「ああ、あの小童であろう? そんなの気にせずとも良かろうに」


「そんな事、言えないわよ」


 その頃はリリーの成績がずっと主席だった事もあり、殿下の機嫌はすこぶる悪かった。それに加えてフェンリルを召喚して従魔にしたとなればご機嫌が斜めになるどころではなかったのだ。


「全く、面倒な事だ」

「ええ、本当に」


 今でこそそう言えるのだが、それで精いっぱいだったのだ。

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