第3話
ブランド王国の国境を超えるにも本来であれば、結界が張られているはずなのにそれすらもない。
それも父親の指示……なのかも知れないが、リリーの他に子供が間違って通ってしまったら……など考えないのだろうか。
いや、そもそもあの領地ギリギリの周辺に人はあまり住んではいない。住んでいるとしても大体が独り身の男性だ。
「さて、まずは……」
ひとまず結界を抜け、魔物が多く住む地帯に着き、リリーは早速準備に取り掛かった。
「うーん。やっぱり『灯り』かしら?」
これは最終的にはリリーの為になるのだが、本来リリーは夜目が利く為『灯り』なんて必要ない。
しかし、実は大抵の魔物たちはそもそも臆病なので『灯り』が見えれば襲ってくる事はそうない。
あるとすれば、それは縄張りや群れに攻撃を仕掛けた場合位のものだ。
ただ、それを知っている者は意外と少ない。もちろん学園でも習うのだが、そもそも「夜間に魔物が多く生息しているこの辺りに入るなんて常識がないにも程がある」と言われている事もあり、そもそも人が立ち入らない。
そして、王宮騎士たちは基本的に小隊で動く。
その為、いつの間にかその知識を忘れてしまうのだ。
しかし、魔物の生態に関しての知識はある程度リリーの頭の中に入っている。
もし仮に魔物に遭遇したとしても、この暗闇に限って言えば、縄張り内などでなければ魔物は逃げるだろう。
出来れば自発光する植物があればそれ一番良いが、確かそれが繁殖しているの場所はこの地帯の中心にある湖の周辺だったはずだ。
そして、自発光している魔物も存在はしているのだが、出来れば彼らを捕まえて『灯り』の役割を担わせる……なんて真似は避けたい。
そもそも彼らが自発光しているのはあくまで繁殖の為。つまり「生きる為」であって、そんな彼らの貴重な時間と体力を奪わせる様な事はしたくない。
「そうなると、光の魔法陣を書いてそれを『灯り』の代わりにするところなんだけど……」
残念ながらトランクの中に筆記用具などは入っていなかった。つまり、この辺りで書く物を自分で調達しなければならない。
「全く、嫌がらせの腕は良いのよね」
せめてノートの切れ端とペンさえあれば魔法陣を書く事が出来た。そしてそれを『灯り』の代わりにする事が出来たはずなのだ。
そもそも、この世界では「魔術」と「魔法」が存在する。
この世界での「魔術」と言えば大体が「魔法陣を用いる物」と分類されており、こちらは長期間継続して使用出来、なおかつ魔力の消費が少ない。
そして「魔法」は「呪文を用いた物」とされており、こちらに関してはその場限りで瞬間的に使う物を指す。
瞬間的に威力が強い物を使えるのだが、その分魔力の消費は大きい。
その為、日常的に貴族に限らず庶民の生活の間でも意外と「魔術」は様々なところで使用され、生活に根付いていた。
「はぁ、そこら辺に落ちている葉っぱに石で無理矢理書くしかないかしら」
しかし、それでは綺麗な魔法陣は書けない。ある程度よれたところで問題はないが、最悪発動しない可能性だってある。
「ならばこれを使うか? 以前商人が置いていった物だが」
「あ、ありがとう……って、え?」
リリーが悩んでいた目の前に置かれた公爵家で使っていた最高級品と思われるペンとインク。そして、それを置いた「誰か」の声がリリーの上から降り注いだ……。




