第2話
隣国のシュタイン共和国とブランド王国の北部。そこにあるのがグランツ領なのだが、この辺りには実は魔物が多く生息して誰も近寄ってはならないとされている「地帯」が存在している。
基本的にそこには結界が張られており、魔物はおろか人間すら立ち入る事が出来ない様になっている。
しかし、この馬車はどう考えても真っすぐそちらの方に向かっているとしか思えない進路を突き進んでいた。
「……」
確かにこれも「国外追放」ではある。
ただ、そんな無法地帯とも呼べる場所に一人取り残されれば下手をすると、普通に考えて生き残る事すら大変だ。
何となくあの殿下が普通に「国外追放をするわけがない」とは思っていたが、まさかこんな方法で嫌がらせをしてくるとは――。
多分、ハンナ嬢から国外追放について提案された時に思いついたのだろう。全く、目ざとい人間である。
もちろん、ハンナ嬢はそんなつもりなんて全然なかったのだろう。そして多分、殿下はそれをハンナ嬢に言うつもりもないはずだ。
だからきっとハンナ嬢は「リリー様の願いが叶った」と今頃胸をなで下ろしているかも知れない。
その心遣い自体は嬉しかったし、形式上は確かに叶った。彼女がいなければそもそも国外追放にすらならなかったはずだからそこは感謝している。
「お嬢様、着きました」
「ありがとう。フフ」
「何か?」
「いいえ? 最後まで私の事を『お嬢様』と呼んでくれるのね」
「……確かに、先程貴族籍は抜かれてしまわれましたが、私にとってお嬢様はお嬢様ですよ」
「……ありがとう」
ニッコリと笑って帽子を取った運転手の髪は白髪だった。リリーが知る限り、以前は綺麗な黒髪だったはずなのだが、それだけ長い間仕えてくれていた様だ。
「どうかご無事で」
「ええ、あなたもお元気で」
リリーと運転手は握手をし、リリーはそのまま魔物地帯へと歩く。本来なら人が立ち入らない様に見張りがいるはずなのにそれがいない。
これはきっと父親が指示したからだろう。
別に怖がってなどいない。むしろ――。
それに、魔法学園での授業の一環でこの地帯には何度か足を踏み入れた事はある。しかも、今の時間は夜。通常なら夜行性の魔物たちの活動が活発になる時間帯だ。
だからこそこんな時間にこの辺りへ入るなんて正気の沙汰じゃない。王宮お抱えの騎士たちでさえ躊躇してしまうくらいだろう。
しかし、それでもリリーに残された選択肢はコレしかない。
「フフ」
ただ、この時彼女の心には決して不安などではなく「さて、これからどうしましょうか?」というワクワク感だった。




