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チート一家のゆる~り愛されライフ -英雄たちに育てられた少年、赤ん坊を拾う-  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第1章 乳児期編

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EP:\0005\命名.txt

本日2回目の更新です。

 シエルが廊下に戻ると、ちょうどロックも奥の部屋から出てきたところだった。目を覚ました赤ん坊は泣き出す様子もなく、時折なにかに反応するしぐさを見せながら、ロックの腕に抱かれている。



「測定値はどーだったです?」


「えっと……何回も測ってみたんだけど、メーターの針が振り切れちゃうんだよ」


「測定機が反応しないあーしら偽精体(ドール)は無限大って言われてるですが、メーターが動くってことは最大値を超えてやがるってことですか」


「多分九百九十九(999)以上あると思う」


「ちなみにおめーはいくつなんです?」


「俺の場合は針が逆方向に動こうとして、測定機が壊れちゃうんだ。魔力を吸い取る体質が影響してるらしいんだけど、クロおじさんは〝虚数(きょすう)〟とか言ってたな」


「おめーはそんな面白(おもしれ)ー体質してやがったですか」


「魔道具やマジックバッグを使えないとか色々不便なこともあるんだけど、瘴魔(しょうま)の影響を受けなかったりメリットも多いよ」


「とんでも能力のおめーに触られて、その子は大丈夫なんです?」


「この子は内包する魔力が多すぎるから、俺の力と拮抗できてるんだと思う」



 声のする方へ視線を動かしていた赤ん坊だったが、どんどん大きくなる本能に誘われるまま、シエルに向かって手を伸ばす。



「あー、あー」


「お腹すいた?」


「抱っこしてやるから、こっちに来やがれです」



 シエルは先ほど身に着けた知識や技能を駆使し、最初にバックパックから取り出したときとは別次元の優しさで、赤ん坊を自分の胸に抱く。



「うーあー」


「そこの使ってない会議室で、おっぱいを飲ませてやるです」


「俺は外で待ってるから、よろしくね」


「は? この子が泣き出したら、どーするつもりです。おめーも一緒に来やがれです」


「いや、でも、その……女性の胸を見るのはさすがに……。シエルは恥ずかしくないの?」


「あーしらにそんな感情、あるわけねーじゃねーですか。強要されるのは不快ですけど、おめーに素体の一部を見られるくれー、どーってことねーですよ」



 例え偽精体(ドール)的にそうだったとしても、自分の気持ちに折り合いをつけられない。育ての親たちと一緒に暮らしていた、無邪気で羞恥心に乏しい幼少の頃ならともかく、もうじき成人を迎える今となってはなおさらだ。


 しかし、なんとか説得を試みようというロックの気持ちは、不機嫌になっていく赤ん坊の表情を見てしぼんでいった。



「なるべく見ないようにするから……」


「早く飲ませてやらねーと可哀想です。とっとと始めるですよ」



 椅子に座ったシエルは臆する素振りも見せず、淡々と授乳の準備を始める。赤ん坊が握ったままの指を離さないので、ロックも仕方なく隣に腰を下ろす。


 そっと視線を外してみたものの、どうしても意識してしまう。どうにかして気を紛らわそうと、ロックは思いついたことを口にした。



「あのさ。今日だけでもいいから、うちに来てくれない?」


「せっかくインストールしたアビリティが無駄になっちまうですし、一日くらい構わねーですよ。それよりこの子は、おめーが育てるつもりなんです?」


「森の中でいきなり魔力を放出し始めたこと。周囲に人の気配はなかったこと。その状況から考えられるのは、この子が俺と同じ星の異邦人って可能性だけなんだ。さすがに生まれてすぐ魔法で転移したなんてことは、排除していいはずだからね。見つけた場所も、まったく荒れてなかったし」



 そもそも転移魔法はエルフ族のみが使える、秘術に近い魔法だ。しかも魔力コストがバカみたいに高いため、複数人で協力しないといけない。それを一人で実行できるのは、ロックが知る限り一人だけ。他にも様々な条件や制約があると、使い手のエルフ(シトリン)は言っていた。


 そんな話を交えつつ、領主にも報告して自分で引き取るつもりだと、ロックは告げる。



「さっきの事態を考えると、それしかねーでしょうね」


「この子の個人IDは作っちゃった方がいいかな?」


「IDがあれば領民として支援しやすくなるですから、作っといて損はねーです」


「じゃあお願いしていい?」


「別に構わねーですけど、名前はどーすんです。それを決めねーと、登録できねーですよ」


「一応、ラピスって名前を考えてる。瞳が青い宝石みたいできれいだから、それにあやかってみたんだ」


「あーしらに名前の善し悪しはわからねーですが、似合ってると思うですよ」


「キミの名前はラピスでいいかな?」


「あうー!」



 ロックは本人に確認を取るつもりで、思わず赤ん坊の方を見てしまう。当然目に飛び込んでくる二つの膨らみ。瞬時に耳まで赤く染め、バネじかけのように顔をそらす。



「ごっ、ごめん!!」


「わざとじゃねーって判ってるですから、気にすんなです。なんなら、おめーも一緒に飲むですか?」


「飲まないよっ!」



 今までこれだけ長時間、一緒にいることはなかったけど、やっぱりシエルと話すのは楽しい。熱くなった頬を冷ましながら、ついつい嬉しくなってしまうロックだった。



◇◆◇



 一旦ロックと別れたシエルは、支部長室へ向かって歩く。新規導入された知識によれば、新生児というのは一日に十回以上、おっぱいを与える必要がある。つまり誰かがラピスのそばに居なければ、簡単に飢えてしまうということ。


 先ほど約束してしまったからには、外泊の申請をしなければならない。



(それにしてもさっきのあいつ、すげー面白かったです)



 どうして偽精体(ドール)の自分を、あそこまで意識するのか。今のシエルには、まったく理解できなかった。



(見えちまってラッキーくらいに思っとけばいーのに、難儀なやつですね)



 もし他の人間だったら、どう反応しただろう。先ほどと同じシチュエーションを、別の人物に置き換えようとした途端、シエルの感情領域に負荷がかかる。



(いきなり処理速度が落ちやがったです)



 原因は……?


 喜びとは違う。

 あれは逆に負荷が下がるから。


 怒りとも別物だ。

 その証拠にリミッター機能が働かなかった。


 哀(かな)しいは的外れすぎる。

 空き領域が変なデータで埋まってない。


 楽しいとは真逆のはず。

 慌てるロックを見たときと同じ領域は、スリープ状態だったので……



(どうなっちまったんですかね、あーしのポンコツ人工精霊は)



 その答えが見つからないまま、支部長室に到着してしまう。

 思考を破棄したシエルは、観音開きのドアを開く。






 そこで目にしたのは、魔力酔いでソファに寝かされている、支部長の姿だった。


果たして外泊許可はもらえるのか?


明日も複数話投稿予定ですのでお楽しみに!

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