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チート一家のゆる~り愛されライフ -英雄たちに育てられた少年、赤ん坊を拾う-  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第1章 乳児期編

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4/14

EP:\0004\通報しました.txt

本日更新の1話目です。

ご査収ください。

 ロックの口から飛び出した「おっぱいを飲ませてほしい」という言葉。それを聞いたシエルの思考領域にノイズが走る。


 人工精霊は、なぜか女性の体にしか定着しない。なので偽精体(ドール)が実用化された当時は、様々な誤解と憶測を生み、色欲や好奇の目を向けられてしまう。そうした事例に対処すべく蓄積された知識(データセット)や、対応マニュアルは完璧なはずだった。しかしこの事案に、どう応答すれば……


 数ナノ秒後に復帰したシエルの思考領域が全力処理(フルドライブ)を始める。彼女に与えられたゼオーン級ボディーは、インテグレート社の最高級グレードだ。フルドライブ時の処理能力は段違いに高く、人間の数倍に及ぶ。そして右耳のピアスに埋め込まれた(エンベッドされた)コプロセッサ、推論処理装置(NPU)の演算バックアップをも駆使し、ひとつの答えを導き出す。



「ピー、ヒョロヒョロロロー……。通報したです」


「ちょっ!? 今の擬音ってなに?」


「ダイヤルアップとかいう様式美らしいので気にすんなです」


「それって霊子(りょうし)ネットに公開したってことだよね」


「あったりめーです。いきなりおっぱいを飲ませろなんて言う危険人物、放っておけるわけねーじゃねーですか」



 いつもは二人がやり取りする姿に興味を示さない他の偽精体(ドール)たちも、いきなり流れてきたブロードキャストメッセージを見てざわつく。それを肌で感じたロックはさっきまでの思慮(しりょ)を捨て、誤解を解くための行動に出る。


 ずっと抱えたままだったバックパックをおろし、シエルにそっと差し出した。



「飲ませてほしいのは俺じゃなく、この子なんだ。森の中で見つけたんだけど、きっとお腹をすかせてると思う」


「おめー、なんてところに赤ん坊を入れてやがるですか。こっちによこしやがれです!」


「……あっ」



 シエルがバックパックの中から赤ん坊を抱き上げると、その刺激で目を覚ましてしまう。いきなり知らない人に持ち上げられ、みるみる潤んでいく二つの瞳……



「びえぇぇぇーーーん」



 赤ん坊からあふれ出した魔力が風になり、復興庁の中で吹き荒れる。受付フロアにいた数人の来庁者は、その場でバタバタと倒れてしまう。影響を受けなかったのはロックと赤ん坊、そして偽精体(ドール)たちだけだ。



「なっ、なにが起きやがったです!?」


「急激な魔力濃度の変化で、意識を失ってしまったんだよ。瘴魔(しょうま)と違って悪影響はないから、しばらくしたら回復すると思う」



 手袋を外したロックはシエルに説明しながら、泣きわめく赤ん坊を腕に抱く。すると魔力の暴風がピタッと収まり、赤ん坊も嘘のように泣き止む。


 他の受付窓口に行ったロックは、頭を下げながら騒がせてしまったことを謝罪し、失神者たちへの介助と弁解をお願いしたあと、再びシエルの元へ。



「危険はねーんですか?」


「魔力の専門家には診(み)てもらうつもりだけど、とりあえず俺と一緒なら大丈夫だと思う。それでその……、この子のことなんだけど……」


「しゃーねーですね、あーしが一肌脱いでやるです。アビリティバブルの保管庫に行くから、付いてきやがれです」



 受付カウンターの横にあるバッタリ戸(スイングドア)から出てきたシエルが、庁舎の奥へロックを案内する。それを見送っていた一部の偽精体(ドール)たちは、無意識のうちに羨ましそうな表情を浮かべたのだった。



◇◆◇



 ロックは廊下を並んで歩きながら、シエルが協力してくれて良かったと胸をなでおろす。第三世代の彼女なら、拡張スロット数に余裕があるからだ。受付フロアにいる大多数の偽精体(ドール)は第四世代。拡張スロット数は128しかなく、余分な機能をインストールする空きが少ない。


 しかしシエルは倍の256あることに加え、実績と信頼性がある官公庁仕様のゼオーン級。体への負荷も最小限で済む。



「忙しいって言ってたのに、変なこと頼んでごめんね」


「別に構わねーですよ。さっきはあー言ったですけど、あーしと積極的に関わろうなんてモノ好き、おめーくらいしか居ねーですし」



 特徴的な喋り方も彼女の魅力なんだけど、どうして他の人にはわからないのかな。ロックはそんなことを思いながら、隣にいるシエルの横顔をそっと窺(うかが)う。誕生ではなく創造で産まれた魂だとしても、そこに感情や個性が宿っていることを、他ならぬロックは誰よりも知っている。



「あっ、そうだ。この子の魔力強度も測(はか)っておきたいんだけど、測定機を使わせてもらえないかな」


「それなら突き当りの部屋へ行くといーです。あーしはアビリティのインストールをしておくから、とっとと済ませてきやがれです」



 廊下の先へ歩いていくロックと別れ、シエルは別の部屋へ向かう。ふとさっき送信したブロードキャストメッセージを思い出し、取り消しておこうと霊子(りょうし)ネットへ意識を繋ぐ。



(……跡形もねーとか、一体どーゆーことです?)



 霊子ネットは人工精霊だけが使えるアストラル空間だ。外部から侵入して情報を書き換えるのは、絶対に不可能なはず。もしそれを実行できる存在がいるとすれば、九体の第一世代を生み出して眠りについた、0号体のマザーだけ。



(マザーが目覚めたら大騒ぎになってやがるでしょーし、いま考えてもしゃーねーですね。とりあえず誤報の通知だけしといてやりますか)



 定型文をさっと送り終えたシエルは、扉の横に埋め込まれたパネルをタッチし、霊体放射(オーラ)認証でドアロックを解除。部屋の奥に向かって進む。そこは壁一面に引き出しのついた棚があり、様々なアビリティバブルが収納されている。


 掃除や洗濯など家事に関する一般用途。飲食店や小売店で役に立つ、接客やパティシエールの技能。他にも特殊な事務用途や介護など、人々の生活や営みをサポーするため、多種多様なオプション機能が開発された。


 更に一部のアビリティを除き、いくつかのバリエーションがあり、ボディーのスペックや空きスロット数によって、最適なものを選ばなければならない。その膨大な組み合わせを見極めるのは、偽精体(ドール)本人であっても困難だ。



(なんであーしは自分でやる、なんて言っちまったんですかね……)



 子育てに必要なアビリティバブルを吟味しながら、シエルの頭に疑問符が浮かぶ。復興庁Z80A支部に勤務している第三世代は、自分を含めて四人だけ。用途に一定の制限がある自分たちでなく、ある程度自由に選べる第四世代へ割り当てるのが、合理的な判断のはず。しかし何故か自分がやらねば、という謎の使命感に駆(か)られてしまった。



(きっとあーしの人工精霊(たましい)がポンコツだから、変な判断しちまったに違いねーです)



 だけど腐っても第三世代で、ボディーは一級品だ。スロット数の空きは十分だし、処理能力と容量にも余裕がある。せっかくだから最高レベルのアビリティを選んでやろう。


 引き出しの中に入っているケースを開け、トレイに乗っているアビリティバブルを一粒取り出す。飴玉状のそれを口に含むとすぐさま溶けていき、新しい知識のインストールと同時に、シエルの身体組成が変わっていく。




 無針注射器《ジェットインジェクター》で人族の乳幼児に必要な栄養を取り込み、シエルは保管庫をあとにする。

 ――その顔はいつもより柔らかい表情をしていた。


―――――・―――――・―――――

[件名:高度なプレイ要求]

投稿者:00000486

UUID:0xBAADF00D

日付:YYYY/MM/DD

時間:HH:MM:SS


復興庁Z80A支部支援課窓口にて対応中の偽精体(ドール)に対し、おっぱいを飲ませろと要求する事案発生。

下手人の識別名はロック[CID:0x00000000000FF1CE(人族14歳♂)]。

各員注意されたし。

―――――・―――――・―――――


8080の改良版と言えるZ80シリーズのCPUは、様々な8bitパソコンに搭載されました。

末尾にAがつくのは高速版(Z80:2.5MHz/Z80A:4MHz/Z80B:6MHz/Z80EorH:8MHz)


◇◆◇


今日も不定期に1・2話投稿します。

次回をお楽しみに!

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