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チート一家のゆる~り愛されライフ -英雄たちに育てられた少年、赤ん坊を拾う-  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第1章 乳児期編

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EP:\0003\領主館.txt

本日更新の3話目は少し時間が戻り、前話とは違うシーンからお送りします。

(終盤に追いつきますので!)

 ロックたちが働く街の西側から少し離れた、領都ハーフェンの東側に広がる沿岸部。かつて港があったこの地区は、真っ先に復興が開始された場所だ。


 崩れ落ちた岸壁は補修が進み、高波にのまれて大破した船の残骸も全て撤去された。海上の異変も徐々に収束へ向かっているため、貨物船の建造が急ピッチで行われている。


 ここから海を渡った先にあり、八つの島々で構成された国の名を、和州諸島連合国《わしゅうしょとうれんごうこく》という。独自のカルチャーとテクノロジーを持ち、偽精体(ドール)の開発に成功した技術大国だ。


 和州諸島連合との交易再開は、多くの人々に恩恵をもたらす。

 そのため復興の旗印である、領主の役目は重大だった。



「あー、くそー、仕事したくねぇー。俺のスローライフ、どこに行った」


「次はこの書類にサインしてください」


「なぁユイ、もうお前がやっといてくれよ。筆跡を模倣できるアビリティバブルとかあったよな?」


「クロコアイト様が偶成(ぐうせい)してしまった違法な機能拡張モジュールは、そのレシピも含め全て廃棄しています」


「げっ、マジか」


「そもそも私たち偽精体(ドール)は三原則に縛られているので、人類に不利益をもたらす行為はできません」


「クロのやつなら、そのブラックボックスを突破できそうなんだがなぁ……」


「さあ、この話はもう終わりにしましょう。のんびりしていたら、いつまで経っても終わりませんよ」


「あいつはそのあたりに頓着しない奴だし、そもそも何を言ってるのか俺には理解できん。しゃーねぇ、諦めるか」



 文句を言いながら書類にサインしているのは、人族が統治するケーニッヒ王国で生まれた王族の一人。問題児ばかりが集まった調査チームの一員で、今では英雄として人々から称賛されている、第八王子のアンバーだ。魔力強度が低く、成人男性でも二百あれば上位に入れる人族で、その倍ほどある四百二十という破格の数値を持つ。


 そして彼の隣に立っているのは、毛先に向かって森のように深い緑(フォレストグリーン)から、明るい黄緑色(ライムグリーン)へ変わるグラデーションの髪をした偽精体(ドール)。深緑(ダークグリーン)の瞳には、マイクロ文字(ルーン)が刻まれた星型の魔法陣。英雄たちとともに行動し、第一世代の8号体である彼女は、チームメンバーからユイと呼ばれている。



「王族としての義務に縛られるのが嫌で、国王様から報酬として領主の地位をもぎ取ったのでしょ? しっかり結果を残さないと、なにを言われるかわかりません」


「あと面倒くさい勉強やマナーとかからも逃げてるぞ! 第八王子なんて出がらし、自由に生きさせろよ。派閥や継承争いなんて、まっぴらごめんだぜ」


「理由はさておき、そんな事を言うのは、アンバー様だけと思います」


「領主の座はいずれ息子に譲るとして、道筋だけは付けとかないとな。俺たちに手柄を立てさせてくれたロックのため、今は我慢するとするか」


「あの子が何不自由なく暮らしていける環境作り、それが私たちの使命です」



 王都ヒューゲルから遠いここハーフェンは地政学的な要因があり、王国の直轄地だったにも関わらず様々な問題を抱えていた。政府の対応が後手に回った結果、不正や横領そして密輸などが横行し、非合法な地下組織の暗躍まで許してしまう。


 上層部の頭を悩ませていた問題だったが、意外な形で解決する。人々が避難を余儀なくされた魔力災害だ。


 王家のしがらみから逃れたかったアンバーは、ハーフェンの自治権をよこせと迫り、領地として王国からの独立を強引に認めさせた。そして調査チーム時代のコネを使い、大量の偽精体(ドール)を発注。最初の復興メンバーとともに、街中へ配備した。


 彼女たちは〝霊子(りょうし)ネット〟という独自の情報基盤を持つ。世界中の偽精体(ドール)たちと瞬時に情報共有できる力を利用し、地域(リージョン)内の監視網を構築するため活動している。そして違法な組織が再興する余地を、徹底的に排除しているのだ。



「その方針に異論はないが、問題は膨らみ続けてる借金だぜ。偽精体(ドール)の仕入れにかかった経費、ちゃんと猶予してもらえるんだろうな?」


「その点は問題ありません。アムダール社は私という成功例があるため協力的ですし、インテグレート社もフィールドテストという名目でレンタルしてくれた個体を含め、返済期間の延長に合意しています。少なくともあと数年間は、なにも言ってこないかと」



 どうしてそこまでして、この土地を手に入れたのか。それはロックのためである。自分たちの都合に付き合わせてしまった彼を、これ以上大人の思惑(おもわく)で振り回したくない。だから彼が夢を叶えるための、安心して暮らせる場所を作ってやろう。


 色々と問題だらけで自己中ぞろいのメンバーだったが、その点では一致団結している。そして英雄と呼ばれる彼らが揃って声を上げ、ハーフェン地方の独立が実現した。



「よっしゃー、終わったぜ! なぁなぁユイ。もう飲んでもいいよな?」


「まだ他の方たちは働いている時間ですよ。もう少し我慢できないのですか?」


「えー、いいだろ。一杯だけ、一杯だけだから!」


「まったく……酔い潰れたら放置して帰りますからね」



 ユイは渋々と言った表情で、次元収納から蒸留酒とグラスを取り出す。

 俺の血はアルコールでできていると嘯(うそぶ)くアンバーは、隙あらば酒を飲もうとする。魔力災害の調査をしていたときも、しょっちゅう二日酔いになっていたくらいだ。



「かーっ! やっぱ仕事上がりの一杯はたまらんなぁ」


「ところでアンバー様、少しお願いがあるのですが」


「なんだよユイ、ツマミはやらんぞ」



 ソファーに移動して酒を飲み始めたアンバーは、ローテーブルの上に置いていたツマミ(あたりめ)をさっと隠す。



「ロックに会いたいので数日休みを下さい」


「突然なにを言い出すんだよ。お前がいないと領地運営ができないだろ。もしかしてロックの身に何かあったのか?」


「おっぱいを飲みたがっているようなので、与えてこようかと」


「――ブハァッ!!」


「汚いですよアンバー様」



 ユイから差し出された布巾(ふきん)を受け取り、アンバーは悲しそうな声で「もったいないことをした」とつぶやきながら、ローテーブルに飛び散った酒を拭く。



「いったい誰から上がってきた情報だよ」


「復興庁にいる486号体からですね」


「なるほど、あいつか。あの個体、ロックと仲が良いもんな」


「ああ愛しいロック。独り立ちしたいという、あなたの背中を見送って早幾月(はやいくつき)。そんなに母の胸が恋しかったのでしょうか」



 窓際に移動したユイは両手を組み、祈るようなポーズで西方向の空を見上げる。



「ロックはもうじき十五か。いつまでも子どもだと思っていたが、授乳プレイに目覚めるとは成長しやがって……」


「それではアンバー様。しばらくのあいだ領地運営を、よろしくお願いします」


「待て待てユイ。行くなら状況を確認してからにしろ」


「むぅ……仕方ありませんね。このメッセージは不可視フラグを立ててから、私のメモリーに保存しておくとして、復興庁には直系の8080号体がいますので、プライベートチャンネルで連絡(チャット)してみましょう」



 普段は沈着冷静で仕事もできるユイだが、ロックが絡むと暴走してしまうのであった。


プライベートチャンネルはルーティングでやり取りされます。

8(ユイ)→80(HOP#1)→808(HOP#2)→8080

ブロードキャストと違い特殊なパケットを使うため、同じ系列同士でしか通信できません。


余談ですがユイはアムダール製のボディーに8号体の人工精霊が組み込まれているので、シエルの言葉を借りると「A8」になります。

これはK10世代のLlano、そしてPiledriver世代のTrinityからExcavator世代のStoney Ridgeまで使われたAPUの型番です。

またIntel8080はパーソナル・コンピュータという存在が生まれるきっかけにもなった、歴史的なCPUです。

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