EP:\0013\変化.txt
前作から引き続き、いつも誤字報告ありがとうございます。
助かってます!
ロックたちが執務室から戻ってくると、受付フロアは彼がよく行く現場のメンバーで埋まっていた。その中には親方や、昨日から現場入りした人族の五人組もいる。
全員の注目が集まるフロアでまず動いたのは、シエルの代わりに支援課窓口を担当していた偽精体だ。
「あの、ロック様。支部長とのお話はどうなったのでしょうか?」
「みんなのおかげで、シエルを専属にさせてもらうことができたよ。本当にありがとう」
「「「「「わあー」」」」」
ロックの言葉を聞き、固唾をのんでいた偽精体たちが沸き立つ。サムズアップする者。隣の偽精体とハイタッチする者。袖まくりした腕を直角に曲げ、もう片方の手を二の腕に添えて、頼れるお姉ちゃんのポーズをする者までいた。
「うわっ、なんなんっすか、この盛り上がり方」
「えっ!? えっ!? 偽精体ってこんな感じになるの?」
「昨日までとは大違いなんだけど……」
「こんな反応してくれるなら、偽精体と暮らすのも良いのでは」
「僕はラピスちゃん一筋だし」
聞き捨てならない言葉をひとまず無視し、ロックたちは三人で窓口を一つ一つ回る。全員にいい笑顔で頭を撫でられたラピスは、始終ごきげんな声を上げながら愛想を振りまく。
そんな様子を唖然と見つめる来庁者たち。なにせ普段は職務以外のことで、自発的な行動を起こさない偽精体たちが、我先にとラピスへ群がっているのだ。瘴魔で体調を崩した母親の代わりや、孤児になってしまった子供の世話をする姿と比べても、同じ偽精体とは思えないほど様子が違う。
眼の前で繰り広げられる光景に、誰も付いてこられなかった。
「儂も色々な場所を転々としてきたが、本当にこの街は面白いな」
「もしかすると我々は歴史の転換点に居るのかもしれんな」
「赤子一人でここまで変わってしまうとは……」
「それだけ俺たちの娘が可愛いってことですよ」
各部署を回り終えたロックが、シエルをエスコートしながら親方たちの前に立つ。撫でられ疲れしたラピスは、シエルに抱かれながら夢の中だ。
「がっはっは! 一晩ですっかり親バカになりやがって」
「おむつも交換できねー未熟者に、親バカはまだまだ早えーです。もっと精進しやがれです」
「シエルの負担を減らせるように、俺も色々覚えるよ。しばらく苦労をかけちゃうけど、よろしくね」
「徹底的に仕込んでやるですから、安心しやがれです。ゼオーン級の本気に、恐れおののくがいーです」
「本当にお前らはいいコンビだな。それでどうするロック、しばらく現場は休むか?」
「いえ、これまで通り顔を出します。ラピスが安心して暮らせる街にしたいですし、他の子どもたちが移住できるようになれば、一緒に遊べる友達を作れると思うので」
「よし! それなら今日もやるとするか。お前ら、気合い入れていくぞ!!」
「「「「「おぉー!」」」」」
親方を先頭にして、フロアにいた作業員たちが現場へ向かう。
その場にいた偽精体たちは、笑顔で手を振りながら見送る。これも昨日までは見られなかった光景だ。
ロックとラピスの出会いがきっかけになり、何かが変わりつつあった。
◇◆◇
現場から少し離れた場所にシエルは座り、ゆりかごで眠るラピスをあやす。丸いテーブルハウスと、編んだツルで作られたスイングベッド。どちらも二人のために急遽用意された、ドワーフ族謹製の逸品だ。
「おめーのとーちゃん、頑張ってやがるですね」
瘴魔汚染が残る土の入れ替え、残骸の撤去や運搬。建築工事のサポートなど、ロックが関わっている作業は多い。初めて現場の様子を見たシエルは、キビキビ動き回るロックを目で追う。
足場の悪い高所を危なげなく渡り、身体強化スキルでパワーが上がった獣人族と同程度の瓦礫を、一人で運び出す。吸魔体質の影響で魔道具が使えないぶん、体を動かすことに時間を割いている。
ラピスの魔力を暴走させないため、時々抱っこしに来る時間以外は、足を止めている瞬間がほとんどない。これだけ働いていたら、技能持ちの一級職人と同じ評価を得られるわけだ。ロックの人事査定を思い出し、納得顔になるシエルだった。
「終わったよ、シエル」
「怪我もしてねーようで何よりです。あーしが専属になってるですから、復興庁まで無理に行く必要はねーですけど、今日はどうしやがります?」
「買い物に行きたいんだけど、付き合ってくれる?」
「わーったです。こいつらを次元収納に入れちまうですから、ラピスを抱いてやがれです」
ラピスを抱いたロックが作業員たちの所へ挨拶に行くと、専属にそんな特典があったのかと全員から羨ましがられてしまう。偽精体発祥の地である和州諸島連合ならまだしも、ここコンティネント大陸ではまだまだ普及率が低い。
しかも官公庁が管理する部署からの専属化は、ロックが世界で初めてだ。そうした反応が出てしまうのも、ある意味当たり前である。
みんな――主に若い五人組からのやっかみを置き去りにして、ロックたちは商業地区へ向かって歩く。
「ずっと座りっぱなしで暇じゃなかった?」
「窓口にいるのと、大して変わりはねーです。そもそもあーしらに、そういうメンタルはねーですよ」
「そうは言っても放置してるみたいで申し訳なくてさ」
「あーしら偽精体は力仕事に向かねーですから、現場では足手まといにしかなんねーです。でもおめーが気にすんなら、飲み物とか軽食の用意くらいやってやるですよ」
「あっ、それいいね。俺も手伝うし、次から提供してみようか」
「おめーの家に料理のアビリティバブルがあったですから、インストールしとくです。今日から食事も任せておきやがれです」
「ありがとう。楽しみだなー」
ずっと一緒に暮らしていた調査チームで、料理を担当していたのはユイだった。その味に親しんできたロックは、シエルが作ってくれる料理はどんな感じになるんだろうと、ワクワクしながら大通りを進む。
「ところで、なんの店に向かってやがるです?」
「ほら、あそこだよ」
「衣料品店じゃねーですか」
「いつまでも制服だけってのは寂しいから、普段着とか揃えて欲しいんだ。あと部屋着やパジャマもね」
服なんてどうでも良いというシエルを説き伏せ、背中を押しながら衣料品店の中へ連れ込む。この街には偽精体と一緒に運搬されてきた商品が揃っているため、他では見られないものも多い。
「シエルはどんな服を選ぶかな」
目覚めたラピスを連れ、ロックは店の外で買い物が終わるのを待つ。話しかけたり指を握らせながらあやしていると、大きな袋を持ったシエルが店から出てきた。
中で着替えてきたシエルは、Tシャツにセミフレアのロングスカートを合わせ、カジュアルシューズを履いた出で立ちだ。
いつもと違う姿に新鮮さを覚えつつ、どうしても無視できない部分が気になり口を開く――
主人公の目に留まったものとは……
次回をお楽しみに。




