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チート一家のゆる~り愛されライフ -英雄たちに育てられた少年、赤ん坊を拾う-  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第1章 乳児期編

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EP:\0010\置き土産.txt

本日更新の1話目です。

 メンテナンスポッドから起き上がった939号体は、眼の前に掲げた両手を閉じたり開いたり、上半身を捻ったりして動きを確かめたのち、ゆっくりと床へ降り立つ。



「調子はどうかな?」


「信じられないほど体が軽いです。今まであんな高負荷状態で、よく動けたなと……」


「一般仕様の偽精体(ドール)たちが初期設定を終わらせて、起動した直後くらいの状態に戻ってやがるですよ」


「ある程度は自動的に最適化されるんだけど、徐々に負荷が増えていくから分かりづらいんだよね」


「様々なものをインストールしたあとなのに、その状態にまで回復できるのですか?」


「普通は出来ねーですから、他の整備士に同じことを頼むのは、やめたほーがいーです」


「今の状態だったら、空きスロットに他のアビリティを入れても、極端に負荷が増えたりしないから安心して」


「えっと……何かとんでも無い事をされたのはわかります。でも、ありがとうございました」



 何度もお礼を言い、ラピスの頭を撫でてから、939号体は帰っていく。その後姿を見送りながら、やっぱり偽精体(ドール)たちが喜ぶ姿を見るのは嬉しい。そんな気持ちでロックの心が満たされていった。



「聞きてーことがあるですが、構わねーです?」


「うん、いいよ」


「あーしの実行効率は、どれくれー上げられるです?」


「シエルは官公庁モデルのゼオーン級だから、かなり入念に最適化されてるんだよ。俺の見立てだと、今でも88%から89%あると思う。さっきみたいな軽い調整じゃ、ほとんど上げられないかな」


「ちなみに8号体はどれくれーなんです?」


「ユイ母さんは96%台だね」


「……ありえねーです」



 シエルが起動したのは約二年前。一級エンジニアたちの手で半年近くの調整を受け、この大陸へ運ばれた。その時ですら実行効率は90%に届かなかったのだ。それを知っているシエルは、遠い目をしながら天を仰ぐ。



「ライゼリオン級ってクセが強くてさ、ここまで上げるのにかなり苦労したんだ。多分これ以上は無理だと思う」


「ちなみにゼオーン級だと、どこまで上げられそーです?」


「ゼオーン級はとても素性(すじょう)が良いから、年単位の時間で調整を重ねていけば、98%台まで持っていけると思う」


「現実的じゃねーですね」


「90%から上の数値なんて、ほとんどおまじないみたいなものだからね。とてもじゃないけど、かけるコストと時間に見合わないよ」



 二人がそんな事を話していた時、シエルに抱かれていたラピスがぐずりだす。



「うー、やー」


「おむつが濡れたのかな?」


「そろそろおっぱいをやらねーとダメな時間です」


「もうそんなに経っちゃったのか。ごめんね、メンテに気を取られて、忘れてた。部屋に案内するから、一緒に来て」


「終わったあと、メンテナンスルームにあったアビリティバブルを見てーんですが、構わねーです?」


「あそこに置いてあるものは自由に見ていいよ。もし気になるものがあったら、使っても構わないからね」



 二人をリビングのソファーに案内し、ひとまず自分は今夜の準備をしようと、ラピスの頭を撫でてから席を立つ。



「この家は瘴魔(しょうま)の影響下でも暮らせるように、電気で全てのものが動いてる。だからラピスの魔力が漏れ出しても大丈夫なはず。近くに人は住んでないし」


「もしかして地下に発電設備がありやがるです?」


「地脈の流れでフライホイールを回して、安定的に電気を作り出してるんだ。百年くらいはノーメンテで動くって、カッパーおじさんが言ってたな」


「触媒変換でなく、そんなものを使ってやがるなら、エンタープライズモデルのメンテナンスポッドがあるのも納得できるです」


「あれは電力をバカ喰(ぐ)いするからね」


「とりあえずラピスのことは、任せておきやがれです。おめーは自分の用事を、さっさと済ませてくるがいーです」



 リビングを出たロックは二階へ上がり、物置部屋から使ってないベッドを引っ張り出す。どの部屋に搬入しようかと一瞬だけ考え、自分の寝室へ持っていこうと決める。


 なにせ目を覚ましてからのラピスは、シエルから離れようとしない。時々触って魔力を吸収してあげれば、ずっと機嫌の良いままだ。それにシエルの方も、かなり情が移ってるはず。なにせラピスを世話する時の目が、ユイ母さんと同じだから。


 だったら離れ離れで寝るような選択肢はないよね。ロックはそんな事を考えながら、廊下に出したセミダブルのベッドを、ひょいと持ち上げる。



「マジックバッグが使えたら、こんな運び方しなくてもいいんだけどなぁ……」



 二つのベッドを横に連結しつつ、ロックは思ったことをつい口にしてしまう。なにせ彼は魔力を全く持っておらず、逆に吸い取ってしまう体質だ。魔力がキーになっている魔道具全般と、非常に相性が悪いのである。


 そして手袋では吸魔体質を完全に抑えられない。触るだけで魔道具内にプールされているマナを減らしてしまうし、人の場合は魔力の枯渇を招く。だから誰かと触れ合いながら過ごしたり、同じベッドで眠ったりという行為を無意識に欲していた。


 ロックにとって手袋を外した状態で触(ふ)れられるラピスや、吸魔の影響を受けない偽精体(ドール)――とりわけ波長の合うシエルと関わりを増やしたい。そんな思惑でベッドを二つ並べている。どうやってシエルを丸め込もうかと考えながら……



◇◆◇



 結局適当な言い訳は見つからず、その場のノリと勢いで押し切るしかない、などと結論を先送りにしてリビングにやってきた。しかしそこにシエルとラピスの姿はない。


 ラピスがお腹いっぱいになったから、メンテナンスルームへ向かったんだろう。そう考えて奥の部屋を目指す。解放されていた扉から中を見ると、満足げに眠っているラピスを抱っこして、棚の前に立つシエルを発見。その視線は棚のある一点に向けられていた。



「なにか気になるアビリティはあった?」


「・・・・・」



 シエルは取り出した収納ケースを凝視したまま、ロックの問いかけを無視している。



「えーっと、どうしたの?」


「やっぱりおめーはあーしたちのことを、思うがまま貪り尽くそーと計画してやがったですね」



 振り返ったシエルは、まるでゴミを見るような目つきでロックを睨む。



「ちょっと待って。どうしてそんなことを言われるのか、心当たりがないんだけど」


「じゃあ、なんでこんなものが、ここにありやがるです!」



 ロックの眼前に突きつけられたケースには、見覚えのある筆跡でこう書かれていた。




  【感度3000倍】




 クロおじさぁぁぁぁぁーーんっ!!!

 ロックは心の中で力いっぱい叫ぶ。


 ヤバいアビリティバブルはユイ母さんと協力して、全部処分したつもりだったのに……


 このままだと夕方の二の舞だ、通報される前に説明をしなくては。




 ――ピシャッ! ドォォォォォーーーン!!




 ロックが口を開こうとしたその瞬間、周囲に落雷のような音が鳴り響き、家全体がビリビリと悲鳴を上げた。


対・魔・忍


◇◆◇


轟音の原因は?

午後更新の第11話をお楽しみに!

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