表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第八章:象武者の出撃
84/230

83話

「フンッ!ハァ……カァア!!」


一歩一歩を強く意識し大槌の振り回す豪牙、今しがた手にいれたばかりの武器にしては上手く扱えている方で立て続けにその打撃が千代女を襲っていく。しかしそれが掠ることは一切無く、向こうは余裕綽々といった感じで躱していた。


それもそのはず、エレファスゾウカブトは動きに特化された鎧ではない。どちらかと言えばその破壊力が要である。それに対し千代女は上杉御庭番衆に所属している忍者という、言わば素早い活動を主体としている。


いくら豪牙が大槌を軽く感じようとも木の棒に自由に振り回せるわけではない。苦無く扱えるというだけで攻撃としては少々鈍いし狙いも完璧に正確とは言えないだろう。

それでも場所とタイミングの影響でたまに避けきれない一撃を放つこともあった。しかしそれも千代女の木葉層によって防がれてしまう。


(ッ――さっきから1発も当てられてねぇ!)


掠りもしない攻撃、今も危険に晒された生徒、それらの要素で豪牙の心情には若干の焦りが生じその動きに粗を作っていく。言うなれば今の彼はただ考えも無しに殴りかかっているだけだ。


するとここでようやく千代女が反撃に入る。大槌の間合いから離れ掌で虚空をなぞるとまるで線のように葉模様が描かれ、そしてその1枚1枚から手裏剣が発射された。


(手裏剣!?)


飛んでくる複数の刃に豪牙は動揺、何も無い場所から手裏剣が飛ばされたら誰だって驚く。慌てて大槌で弾き飛ばそうと振り回し数発を払いのけるも、全てとはいかず肩や腹、致命傷にならない箇所に突き刺さった。


「ぐあぁ!?」


初めて感じる戦いによる激痛、全体の複数から脳へと流れ込み豪牙の脳を一気に覚醒させた。そうすることで今自分がしているのは殺し合いだという当たり前の事実を再確認させると同時に、この千代女がただならぬ強敵であるとも気付く。


幸いエレファスゾウカブトの鎧によってその刃が深く肉に食い込むことはなかったが、それでも威嚇としては十分で大槌による乱打はそこで勢いを止めた。

その様子を見て、千代女は気づいたことをそのまま口にする。


「……貴様、さては先ほど武者として成ったばかりだな?」


「!」


まるで女優のような美しい声だがその喋り方は男気に溢れ気品さを感じられない、気の強い女性――いや雌という言葉をそのまま表してるかのようだ。

兎にも角にもその一言は豪牙をギクリとさせ、自分がまだまだ経験の浅い人間であることを証明してしまう。


「初撃の踏み込み、その大槌の扱い方、武者特有の第六感、全てにおいて浅い。そして手裏剣に刺されただけであの情けない声……戦い慣れていない証拠だ」


その容赦ない指摘に豪牙が悔しさに歯を噛み締めることはない。悔しいも何もそれは紛れもない事実でどうしようもないことだからだ。寧ろ今しがた甲虫武者として覚醒したものに完璧な戦いを求める方が酷だ。虫の知らせも弱いので手裏剣を避けれなくても仕方ない。


「……話が通じるなら聞きたい、何故この学校を襲った!?お前たちの目的は何だ!」


豪牙は苦悶の表情で手裏剣を抜き、目の前の千代女が会話可能の相手と捉えて

その純粋な疑問を投げかける。初めて勝家と会った時の英のように、ある程度の意思疎通ができると信じていた。勿論その間も大槌を強く握りしめていた。


「ガッコウ……寺子屋のことか、簡単な事。若い毛無猿を狩ることでお前たち武者を誘き寄せそして狩る。それが謙信……様から受けた任務だ」


謙信の名を挙げる際一瞬詰まったが、それも意に介さず千代女は淡々と豪牙に話していく。その中で出てきたいくつかの名詞、名前はまだ分からない。しかしそれでも自分とその生徒たちが餌として扱われたことだけは理解できた。

豪牙のこめかみに、血管が浮かび上がる。


「……正直俺にはまだお前らが何を言ってるかは分からなぇよ。だけどこれ以上うちの生徒に手を出すなら……お前をぶっ倒す!!」


「柄を握ったばかりの奴が私を吹っ飛ばす?――笑止!」


そんな一蹴と共に、千代女の背中から葉柄の帯が展開される。まるで数本の触手のように伸びあっという間も与えず豪牙を囲い込み、そして全方位から手裏剣が発射された。


「ぐっ――フンッ!」


当然今の豪牙にそれを避ける力は無い、なので大槌を屋上の床に叩きつけその衝撃波で飛んでくる刃を全て吹き飛ばす。そうして道を開いた後、真っ直ぐ千代女に走り出した。


下から掬い上げるように迫りくる打撃に対し、彼女は木葉層を重ねて張り防御。今度は3枚だけではなくそれ以上形成することで豪牙の一撃を防ぎ切る。


「力を持ったばかりの弱者はよく吠える。猿が、身の程を知れ!」


そうして透かさず葉の帯を目前に出現させ、今度は至近距離から手裏剣の弾幕間を一斉発射する。豪牙の良すぎるガタイが仇となり、千代女の攻撃はほぼ懐の中で行われさっきのように弾くこともできない。大量の手裏剣を再び浴びる羽目になる。


「あがっ……!」


後ろに後ずさる豪牙、大槌をブレーキ代わりにしそれ以上の後退を阻止するもその分力を体に込めた為出血が酷くなってしまう。手裏剣が刺さった隙間から血を垂れ流しその黄土色の鎧を汚していく。

言わば腹部が穴だらけ状態、傷が浅いのが唯一の救いだがそれでも血反吐を吐くには十分な痛手であった。


「ぐぅ……まだまだぁ!!」


それでも豪牙は足を止めず再び突撃、大きく振り回し大槌を叩きつけようとする。千代女はこりもせず挑んでくる姿勢に呆れ、先ほどと同じように木葉層を重ねて展開する。

また受け止められると思いきや、大槌が叩きこまれると同時に亀裂が一気に走りその壁はまとめて粉々に砕け散った。


「なッ――!?」


「しゃあ!もういっちょぉ!!」


驚愕する千代女も気にせず豪牙は強く前へ踏み出し、更に追撃を打ち込んでいく。対し千代女は更に頑丈にした木葉層を出して迎え撃ち、今度は防ぐことができた。それでも豪牙は大槌の勢いを止めず怒涛の乱打を繰り広げ始める。


「オラオラオラオラオラァ!!!!」


(馬鹿な、打つ度に力が増している!?)


元々千代女は豪牙の事をなめていた。その気になれば凄まじい連続攻撃で手も足も出させないこともできたはずだが、相手の力量を図るため敢えて木葉層でその攻撃を受けていた。


しかし今となってはどうだろうか?止まらない豪牙の連打に千代女は障壁を張るだけで精一杯となり防戦一方の状態にまで追い込まれていた。いくら木葉層を展開してもすぐに打ち破られ、反撃の隙を伺う暇も来ない。防いでもすぐに次の打撃が飛んでくる。


「重いのを――食らえぇ!!」


次第に破壊力を増していく豪牙の大槌、そこで強い踏み出しと共に腰を下ろし横から薙ぎ払うように次の一撃を繰り出す。それは遂に千代女の障壁を突き破り彼女の体に命中した。


「あがぁッ――!?」


「うおりゃああああああああああああああああ!!!!!」


その腹部に深く入り込む頭部分、豪牙は最後まで振り切り千代女を力強くぶっ飛ばす。初めてまともに入った一撃、それは彼女が投げてきた手裏剣の攻撃とは比べ物にならない程の威力が込められ勝利への大きな一歩へと繋がる。


そのまま屋上から投げ出されるかと思われた千代女、しかしクナイを下に突き刺すことで屋上際で止まった。けれども今の打撃がかなり効いたことには変わりなく口から大量の血を吐き出していく。


「ガハッ……アガァ……!」


(よし!ようやく殴れた!)


豪牙はしっかり入った手ごたえにガッツポーズする。さっきから攻められてばかりだったでやっとのことで与えられたその一撃はかなりの達成感であった。一方千代女の方は溢れる吐血を口で押えながら膝をつき、咳き込むと同時に屋上の足場を緑色に染めていく。


「やってくれたな……!」


「もう1発――!」


それを見てチャンスだと思い、更に食らわせてやろうと蹲る千代女に向かう豪牙。先ほどより柄を強く握りしめ、跳躍すると同時に今度は頭を上から潰してやろうと大槌を振りかぶる。

しかしそれが繰り出される前に、千代女の体に異変が起こった。


(蟲術――擬態風画!)


瞬間、木葉をまき散らす突風が巻き起こり千代女を取り囲む。あまりの風圧に豪牙は吹き飛ばされそうになるも自慢の重量を体にかけ何とか堪えれる。

風で煽られた沢山の葉は吸引されるかのように彼女の体に張り付き、まるで染まるように色を変えていった。


「なッ……消えた!?」


気づいた時には千代女の姿は消し去っており、彼女の血痕しか残っていない。突然消えたことで豪牙はパニックとなり、慌てて周囲を見渡して探し出す。


さっきまで確かにそこにいた、だけどこの屋上には豪牙しか残っていない。どこかに逃げたのか?巣界を消すためにも探し出そうとしたその時、突如として首元に激痛が走った。


「づぁあ!?」


見ればいつの間にか刺された痕のような傷がそこに存在しており、その傷穴から血を噴き出すとともに口からも漏らす。何もなかったはずだ、一体どうやって攻撃したのか?そんな疑問が豪牙を消えた理由に辿り着かせる。


(と、透明になっているのか……!奴はまだここにいる!)


その通りで千代女は蟲術により透明に擬態しており、逃げるどころか見えないだけでまだこの屋上にいた。

何とか致命傷にはならなかったが首に深い傷を負う豪牙、そうして今度はこっちが膝をついたわけだがそれでも千代女の猛攻は止まらない。


「くそ――どこに行った!姿を現せ!」


「そう言われて正直に姿を現すと思うか?」


後ろから聞こえた甲高い声に豪牙は急いで振り向く。しかしそこには何の気配もせず今度はそこと正反対の場所から攻撃される。次の一声も同じ場所から発せられた。


「この蟲術は本来お前たち()()()()()()()()()()()()だが……経験の浅い貴様にはこれで十分だ」


「この……のわッ!?」


姿が見えない相手に対し、豪牙は大槌を振り回し続けるも狙いも定まっていないので当たるはずも無く、寧ろ隙が生まれてそこを千代女に疲れてしまう羽目になる。戦況が再びひっくり返った。


(何か無いのか!?透明の敵を見つける方法は――!)


豪牙はまだ知らない、自分の体に千代女の居場所を見つける手段が眠っていることを。そしてそれが徐々に呼び起こされていることに。

象山豪牙、彼の甲虫武者としての覚醒はまだ始まったばかりであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ