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ジェットのぼうけん  作者: ジョーカー
ジェットのぼうけん/Zero
99/131

ただの人間

 10年前……


 彼は地下から、階段を登る。その陽の光が目について、眩しさで瞳を狭くした。

「……」

 地上に出たら、まず感じたのは生暖かい風。光に目が慣れて見えたものはボロボロになった故郷だった。

「へっ。」

 その光景を見ても、少年は何も思わずに笑うだけだった。

 彼の名前はジョー。この名もなき小さな村で生まれた、ただの少年。しかし、村の占い師により、将来は邪悪な存在になると言われた。その結果生まれついてからの長い間、この地下に幽閉されていた。

 災害が起きたり、農作物が不作だったりすれば、その身に余る暴力を受けた。彼はこの村のあらゆる悪の身代わりとされていた。

 しかしそれでも尚生きながらえていたのは、自分を悪と断定した故の心構え……から来る、とてつもない力の発現だった。やがて本物の悪となった彼に暴力を振るう者は現れず、最低限の食事だけ与えられて生きていた。

 そんなある日、いつもの時間になっても食事が運ばれない。不審に思って、老朽化した檻をいとも簡単に壊してここに来たというわけだ。

「……」

 聞いたことがある。大人達が、「マモノ」がどうのこうの言っていた。おそらく、そのマモノとやらに村を壊されたと見るのが妥当だろう──的な思いで、村を眺めていた。

「……」

 そこらに倒れている人間の死体には、変な虫がついてて触る気にはなれなかった。それでも、この肉の焼ける匂いは食欲を誘うものがあった。すると、腹の虫が鳴いた。

 すると──

「シャアアッ!」

「グルル……」

「……」

 マモノが居た。

 ゴブリン二体が、ジョーを囲んだ。「子供か、ウマそうだな。」と言わんばかりにヨダレを垂らしながら、筋力のある腕で斧を持ち直し、彼に迫る。

 そんなゴブリン達を、彼はエサにする事に決めた。

「シャーッ!!」

 一体が、斧で襲いかかる。

「ガァアッ!!」

 それを後ろ回し蹴りで合わせ、斧を避けて蹴りをゴブリンの頭部に当てる。すると、その威力でその頭が砕け散った。

「ギャアァアッ!!!」

 もう一体が、襲いかかる。しかしそれより早くジョーはソイツの懐に忍び込み、パンチで心臓を貫通させた。

 ゴブリンはそれで即死し、力なくダランと垂れた。

「……」

 腕を引き抜き、そこら辺の火に二体の死体を投げ入れる。

 しばらくして焼き加減がいい感じになったら、火の中に直接手を突っ込み、死体を引っ張り出す。焼けた肉を、そのまま齧り付いた。

 筋肉だらけの硬い肉だが、彼の顎はそれをお構い無しに食らい続ける。肉は骨しか残らないように齧り尽くされ、内臓も食らい、血を啜り、彼は腹を満たした。

 しかし、彼はそこで終わってしまった。もう、目的を見失った。いや、元から目的など無かったのだろう。虚しさだけが、彼の心を埋めつくした……

「……」

 外に出ようにも、外がどういう事になってるのかも分からない。そもそも、この故郷ですら知らないモノが多い。張り紙(あれ)も、標識(あれ)も、看板(あれ)も、文字(あれ)も、何のためにどんな意味があってあるのかも、分からない。

「……ハァ。」

 溜息をつきながら、座り込む。先程食ったゴブリンの腕の骨に歯を立て、噛み砕く。ガリガリ食い続け、ひたすらに時が経つのを待った……


「……ふむ、小規模な村が破壊されたと聞いて興味本位で覗いたは良いが、何も見つからなさそうだな……」

 そう言いながら、この村に一人の女が立った。左眼に包帯を巻き付けた、ポニーテールの若い女だ。その名を、煉華という。武者修行に出てからの帰りに立ち寄ったのだ。

 彼女はとりあえず村に入り、惨状を見る。鼻につく肉の焼ける嫌な匂い、腐臭……何処からどう見ても、命が残ってるとは思えない。

 そう思っていたのだが……

「……む?」

 遠くの方で、人影を発見した。まだ小さい子供だ。

「おい、生きてるのか?」

 ここで、声をかけてみた。彼はゆっくりと、こちらを向く。その顔を見て、彼女の背筋が凍った。

 子供だった。それなのにも関わらず筋肉が鍛え上げられており、とてつもない力がその身に宿っている事が分かる。しかも、その力は純度100%の邪悪な力だった。その口元にはまだ新しい血がついており、それが彼の悪魔度を引き立てた。

「……!!?」

 彼女は驚き、唾を飲み込む。

「……」

 見た事もない生命体に、彼も軽く驚く。これも「マモノ」とかいう奴かと思いながら、構えた。

「……両親は何処に行った?」

 おそるおそる、彼女は彼に聞いてみる。

「しらん。」

 即答。

 この歳なのに、まるで覚えたての言葉を発する赤子のような言葉遣い。

「……」

 それなのにも関わらず、邪悪な波動が彼女の背筋を撫で上げた。

「君は……いや、君は何者だ?」

「おれは、「アクマ」だ。」

 次の瞬間、とてつもない力が彼の身体から噴き上げた。

「なにっ!?」

「ヒャハハハッッ!!」

 なぜこんな事をしようと思ったのか、分からない。ただ、自分の役割が「悪」である事を考えたら、そうするしか無かった。

 ジョーは突進し、彼女に蹴りかかった。

「ぐっ!?」

 その足を、腕でガードする。

 容易にガード出来る一撃ではあった。しかし、その威力は明らかに子供の蹴りのソレを超えていた。

「どぁああッッ!!!」

 次に回し蹴りを放ち、彼女を蹴り飛ばした。

「!!」

 猛スピードで蹴り飛ばされ、壁に激突する。ガードが追いつかず、直撃してしまった。

「ほ、ほんとに子供か……!!?」

 大したダメージにはならないが、その力は目を見張るものがあった。

「ヒャハハハハハハッッ!!」

 ジョーは飛び上がり、口を開ける。その口に魔力が集中し、巨大な熱線が放たれた。

「ち……!!」

 彼女はそれを弾き飛ばし、構えた。既に悪魔は眼前。とんでもないスピードで連続攻撃してきた。

「むぅっ!!」

 戦い方はめちゃくちゃだが、攻撃は理に叶っている。まさかこの少年、戦うことだけに生を注いだのか……!!?

「死ね……!!」

「せぇいっ!!」

 悪魔の一撃を受け止め、逆に反撃の一撃を叩き込んで見せた。少年は吹っ飛び、壁に激突する。その壁を突き破り、何処かの廃墟にぶつかって、それは倒壊した。瓦礫に覆われた少年は、咆哮した。

「ガァアアアーーーッッッ!!!」

「……ッッ!!?」

 咆哮は、瓦礫を吹き飛ばした。咆哮の波動に触れたモノが、燃えた。とてつもない熱量のエネルギーも放たれており、それに触れたモノが燃え盛る。それはこの村全体を包み、燃え上がらせる。

「……馬鹿な……!!」

 煉華の眼前の光景は、酷く変色した。ただボロボロに朽ち果てただけの村の残骸……それが燃え盛ったことにより、まるで地獄のような光景が繰り広げられた。

 その地獄の真ん中で、彼女に歩み寄るジョー。その姿は、まさに悪魔と言っても差し障りなかった。彼がこの村を壊滅させたと言っても信じるだろう。

「ヒャハハハ、ヒャーハハハハハ!!」

「……」

 しかし、彼女からすれば彼は──人間にしては、悪魔的で。悪鬼にしては、未熟(よわ)すぎた。

「はぁあっ!!」

 接近してくる彼の攻撃の、尽くを捌ききる。そして、反撃に胸に蹴りを三連打した。

「ぐっ!?がはぁっ!?」

 しかし彼は持ちこたえ、拳を握る。その拳を無造作に振り下ろした。

「なめるなよ、坊主!!」

 そう言いながら、バク転して躱す。標的を外した悪魔の鉄槌は、その地面を虚しく粉砕するだけだった。

「私はこう見えても、ホンモノの悪魔を追い詰めた女だ!!」

 バク転した瞬間、地面を蹴る。そして一瞬でジョーに接近し、とてつもない速度で攻撃を乱打した。

「ぐぉおぁあああッッ!!?」

「お前ごときが悪魔と名乗ろうなんざ、10年早いわ!!」

 頭に肘打ちを落とし、腹にボディブローする。

「ゴハァッ……!?」

 何が起こっているのかも分からないまま、吐血する。その間にも頭を掴まれ、地面に伏せられていた。

「ごはっ……!!」

「この……!!」

 煉華は、拳を振りかぶる。相手を見据え、確実にその拳を当てるように──

「──ッッ!!」

 しかし、彼を見てハッとした。同時に、拳も止まる。

 あまりにも悪魔的な力を誇っていたので、思わず彼が子供だということを完全に忘れていた。

「……ひゃははは……!!どうした、人間……!?ころせよ……!!」

「……ッ……」

 苦痛に歪んだ顔で笑う彼を、彼女は離した。そして、頬を思いっきりビンタする。

「ぶッッ!!?」

「ガキが……!!」

「な……!!?」

 煉華は、その体を思いっきり抱き締める。尚且つ、出来る限り優しく抱き締めた。初めての経験に、少年は固まった。いつの間にか金縛りのように、動けなくなってしまったのだった。

「……お前は、ただの人間だ。」

「あァ……?」

 彼女は、その体を抱き続ける。その時間は、長く続いた……


「……お前ほどの才能をここで腐らせるには勿体なさすぎる……ふむ、そうだな。私の弟子になれ。」

「あ、ああ?」

 ジョーは、戸惑っていた。「サイノウ」、「デシ」……等、聞き覚えの無い言葉が連続しているので、無理もない。

「やれやれ、教育からし直さねばならないか……まぁ良い。分からんのなら分からないなりに感じ取れ。私も、この旅が終わったら何をしようか迷っていた所だ。私の師匠ごっこに付き合ってもらうぞ……私に一撃食らわせたお前ならば、きっと強き戦士になれる。そして、ここで腐るよりはマシな暮らしも出来よう。」

「???」

 ジョーは、戸惑い続ける。女はいきなり戦うのをやめ、色々と難しい事を言いながら自分の手を掴む。

「むっ……」

 その手を払おうとする──と、とてつもない力が手にかかった。力は激痛を生み、全身を動かす意識が痛みによって麻痺してしまった。

「がーっ!!?」

「暴れるな暴れるな。ふふふ、活きの良い子だ。これからはよろしくな?」

 誰がお前なんかと、ジョーは煉華を睨む。彼女はニンマリと笑っており、その笑顔が少年の本能に警鐘を鳴らした。「逆らったら、ヤバい」と。

 戦いにおいて、直感は時に戦闘力よりも大事なモノとなる。ジョーのソレは既に研ぎ澄まされており、相手と自分の力量差を嫌でも理解した。

 戦いに負け、本能も降参を認める。これで、悪魔の牙は完全に抜かれたという訳だ。


 これが、彼の運命の出会いだった。後に師匠となり、母親と呼ぶべき相手との邂逅の時。

 彼女は嫌がるジョーに、無理矢理ながらあらゆるものを教えた。勉強も、武道も、ありとあらゆるものを教えた。

 そして……8年の月日が経った。

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