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ジェットのぼうけん  作者: ジョーカー
終章前半:勇者じゃない
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修行

「うわぁああああっ!!」

 後方から、声が聞こえてくる。それも、ジェット達やレシアには何処か聞き覚えのある声。

「なんだ!?」

「こ、この声……」

「オイ……まさか……」

「着いてきたというのか……!?我らの修行に……!!」

 四人が振り返ると、ベリアと煉華先生も振り返る。その視線の先──モルドレッドとヴォシム王女が、全力でダッシュしていた。

「なッッ!!?あのアホ王女まで!?」

 ジェットは一層驚く。しかし、驚くにはまだ早かった。

 いかにも凶暴な六本の首を持つ蛇のモンスターが、彼女達を追いかけていた。

「何やってんだあの馬鹿はッッ!!!」

 ジョー、絶句する。

「アレは、神代種のヒュドラかッ!?」

 ローレンスはそう言いながら、彼女達を襲う大蛇に見とれる。

 彼女達は、逃げているだけではなかった。

「ちくしょうッッ!!」

 モルドレッドは立ち止まり、白銀の剣を抜く。そこに赤黒い雷鳴を纏わせ、神力を結集させた。

光輝く反逆の剣クラレント・ライジングボルトーッ!!!」

 剣から、稲妻のエネルギー波が放たれる。蛇の怪物はそれに直撃し頭三本が消し飛んだ。

「うッし!!あともう一発!!」

 彼女はもう一発放とうと、剣を構える。しかし、ヴォシム王女は絶句した。

「も、モルドレッドさんっ!アレッ!」

 彼女が指差す、怪物の消し飛んだ頭……それはみるみるうちに再生し、三頭の蛇は元通り六頭の大蛇へと戻った。

「マジかよ!!」

 ヒュドラは「ギシャーッ!!!」っと咆哮し、頭を伸ばして二人に食らいつく。

「ええいっ!くそぉっ!」

「きゃあっ!?」

 モルドレッドがヴォシム王女をお姫様抱っこして、飛び上がった。標的を逃したヒュドラの牙が、大地を噛み砕く。その大地は、炭酸のような泡を発生させながら融解していた。

「冗談だろ……!!あんなんで噛まれたら、マジで即死じゃん……!!」

「ひぃーんっ!!助けてーっ!!勇者様ーっ!!!」

 その声で、ジェットが反応する。それにつられ、ジョーも気を解放した。

「ああクソッ!!行くぞっ!!」

「あの馬鹿がッ!!」

 二人はヒュドラの所へ飛び、力を爆発させた。

 大蛇の一首が、咆哮しながらジェットに食らいつく。彼はそれに向け、魔力を爆発させた。

「凍結ッッ!!!」

 爆発した魔力で、とてつもない寒波が広がる。次の瞬間、ヒュドラの全身が余す所なく完全に凍った。

「ヒャハハハッッ!!!」

 間髪入れず、ジョーが巨大な岩をぶん投げた。それでヒュドラは粉砕され、息の根が止まった……

「……魔術ってのはこんな所で便利だ。」

「ふぅ、驚かせやがって。」

 二人が向いた先……モルドレッドと、ヴォシム王女が居た。

「は、はわわ……」

「やっぱり、すげぇや親分!あんな化け物、一瞬で片付けちまうなんて!」

 ジョーは頭を掻きながら、呆れ顔をする。

「いや、テメェだって時間かけりゃ倒せただろうが。」

「まァな。へへへっ!」

 そんなジョー達を横目に、ヴォシム王女はジェットに泣きついていた。

「ひぇーんっ!怖かったよぉ〜!」

「はァ。」

 王女を撫でながら、ジェットは溜息をついた……


 事の発端は、モルドレッドだそうだ。ジョーが煉華先生やジェット達と歩いてる所を見て、こっそり着いてきたとか。

 ヴォシム王女は城の外を眺めていたら、ジェット達を追いかけるモルドレッドが見えたとか。それで、便乗してここに辿り着いた──

「──というワケか。」

 ローレンスが纏めながら、そんな事を言った。

「ああ!親分だけ強くなるなんてズルいからな!」

「私は、勇者様が頑張ってるのに私が何もしないワケにはいかないと思って……」

「要するに、この修行に参加しようというワケか。」

「ふむ、異論はない。異論は無いが、気になる事がある。」

 煉華先生は、青筋を浮かべながらジョーの胸ぐらを掴んだ。

「親分?親分だと?どういう事だ、ジョー?説明しろ。」

「し、知らねぇ!アイツが勝手に呼んでるだけだ!」

「でも、子分に認めてくれたじゃねーかよー!今も一緒の家に暮らしてるしな!」

 モルドレッドが無邪気にそう言うと、煉華先生のジョーを掴む手が揺さぶられた。

「なんだと!?どういう事だ!!」

「知るかーっ!!アイツが勝手に住み着いたんだーっ!!」

「先生、ストップ。ジョーが死んでしまいます。」

 この場はジェットが止めて収まるも、煉華先生はブツブツと何か言い続けた。

「うむ、私も異論は無い。修行が大変になるかも知れんが、問題は無いだろう。」

 ベリアの方は、本当に異論が無いようだ。

 そういう訳で、新たなメンバーを加えたジェット達は森林を進んだ……


「ここら辺でいいだろう。」

 そう言われて止まったのは、キャンプにはうってつけの広場だった。

「ここからは、私がジェットとローレンスとレシアを。煉華がジョーとモルドレッドとヴォシムを、という感じでコーチする。」

「うむ。本来ならばジョーと私はマンツーマンだが、この残りの人数を貴女に押し付けるのは忍びない。」

 煉華はそう言いながら、視線をベリアからジョー達に移した。

「せいぜい、ついて行くのだな。」

 そういうわけで、二チームに別れる。

 そのまま流れで、修行が始まったのだった……


「ジェットよ、お前の強みは何だ?」

 ベリアはいきなり、そんな事を聞いてきた。

「強みィ?拳闘では負けない自信はあるけど、如何せんそれでもリリムには勝てなかったしなぁ……」

「拳闘……そうか。」

「でも、ジェットのあのパンチは凄いわよ。」

 レシアは、ふとそんな事を言う。

「ふむ?」

「あのとてつもないスピードのパンチ。発射された時に既に手は残像で、着弾した瞬間には元の場所に戻っている拳……とても、人間業とは思えないわね。」

「ああ、これか。」

 ジェットはその場で、例の神速の拳を繰り出した。彼女の説明通り、不可視の拳が(くう)を切って衝撃が炸裂していた。

「ジェットの強みは、これだ。『必要な時に必要なパワーを一点集中させる技術』。今は拳打という単純な動作だからこその技術だが、これを全ての攻撃に応用してもらい……最終的に、戦いに無駄を無くしてもらう。」

 心の中で、「大きく出たな。」という言葉が浮かぶ。しかし、そうでもしなければリリムには勝てないという事か。

「では、ローレンスだ。お前は、わかり易いな。」

 ベリアがそう言いながら、ローレンスに向く。彼は、仮面越しに悩んだ顔をしていた。

「速さしか取り柄のないものだと思っていたがな。」

「いや、技術面で言えばあの三人の中ではお前がピカイチだ。」

「そもそも、北派武術を扱える時点で技術は俺より上だぜ?」

「そうなのか?ふむ……」

 ローレンスは、自分の掌を見る。

「ローレンスは……そうだな、貴方の父親からこんなものを預かっている。」

 ベリアが巻物を取り出し、ローレンスに渡す。彼はそれを広げ、ザッと見た。

「……これはッ!」

「この極意を身につけ、更に私達のアプローチで強くなってほしいとの事だ。」

「……分かった、やってみよう。」

 最後に、レシアに視線が向いた。

「レシアは、ひたすら戦闘力の底上げだな。神力が神力なので、力としては成熟しているのだ。」

「そうね……この手のは、戦闘力の掛け算。どんなにこの神々の力が凄かろうが、私が大したこと無きゃ意味が無いわね。」

 こうして方針が定まった三人は、ベリアが監修の下に修行を始めた……


 煉華先生の所──

「お前ら二人とも、精神が大人になった事で物事を過度に考えるようになってしまったと見た。」

 まずはジョーとモルドレッドに、授業がなされていた。

「あァ……確かに。」

「そうだなァ……」

「思考するのはいい事だが、それでは無駄がありすぎる。何せ、人間が脳から体へ命令を伝達するには時間がかかるのでな。本当は体が勝手に反応すれば、それが一番なのだがな。」

「じゃあ、反応させて見せてやる。」

 ジョーが挑発的に、そんな事を言った。それに対し、彼女はニヤケながら「へェ」と言う。

「要は、今回は俺達の本能を呼び覚ます為の修行になる。ならば、俺はとことんまでやって、本能とやらを体に染み込ませてやる。」

「じゃあ、アタシも親分について行ってやるぞーっ!」

 二人は気合い万端で、笑った。

「ふむ、意気込むのは良いが無理はせんようにな。」

「あ、あの〜……私は、何をすれば……」

 ヴォシム王女は、おそるおそる手を上げる。煉華先生は「ふむ」と言いながら彼女を見た。

「お前はまずその根性を叩き直す必要がある。なので、戦闘の基本の基本から、みっちりと鍛え上げてやる。」

 そう言いながら、彼女は笑う。その笑顔に、その場に悪寒が走った……

「……」

「ヒャハハハ。」

 何を思うでもなく、「あ、アイツ死んだな」と思った二人。

「ひ、ひえぇ……で、でもっ!頑張りますっ!」

 ヴォシム王女は元気よくそう言って、修行は開始されたのだった……


 暗黒星の、何処か……

 円卓を、龍奈、水龍院、イブキの三人で囲んでいた。

「……へぇ、ローくん達に妙な動きがあったとねぇ。放っておいてもいいんじゃないかしら。」

 イブキが、緑茶を飲みながら報告書を見ていた。その報告書も、飽きたようにポイと円卓の上に投げる。

「まぁまぁイブキさん、敵を侮ってはいけませんわ。こういう奴ほど、放っておけば面倒なものになりますから……災いの芽は、早めに刈り取っておけば良いものを……」

 水龍院は紅茶を飲みながら、クスクス笑っている。

「いいえ、水龍院さん。私達だって、最高の彼らを叩きのめさないと意味は無いわ。」

「貴女たちはそうでしょうね……」

 水龍院は、そう言いながらムッとする。それを見て、イブキが笑っていた。

「あらあら水龍院さん。貴女ともあろう方が、彼の行動に怯えているなんて。」

 水龍院は額に青筋を浮かべ、彼女を睨む。

「怯えてなどおりませんわ。ただ私は、彼をぶっ殺したい腹積もりなので。」

「あらあら、良い殺意(あいじょう)ですね。私も負けていられないわ。だけどその顔はいけないわ。折角の可愛いお顔が台無しよ?」

「ふん。」

 水龍院とイブキは、何だかソリが合わない模様だ。そうして、龍奈……

「……愛情……」

 ボソリと、そう呟いた。

 ジェットの為に、尽くしていたつもりだった。結局一番にはなれなかったけど、私は彼が幸せならそれで良かった。けれど……彼は、変わってしまった。あの出来事によって。

「……」

 それでも私は、彼を救いたかった。全て失った彼の代わりになりたかった。それが私の都合だった事は分かってる。分かってる筈なのに……

「その力なら、彼が応えてくれるとでも?」

 イブキが、唐突に龍奈に声をかけてきた。すぐに振り向き、出かけた涙を拭う。

「い、イブキさん?」

「私、こう見えて観察眼には自信があるのよ。分かってしまうのよね。考えてる事とか、色々。」

「……」

「一つアドバイス……というか、思った事を言うわ。おそらく、力に訴えても彼はそれを上回る力で返してくるわ。だから、彼を(あい)すには心で勝つしか無いわ。自信、あるのでしょう?」

「……うん。私、頑張る。」

 龍奈は、茶を飲み干して席を立つ。

「……修行するわ。私も、負けてられない。」

 そう言って、歩き去った……

「ふふふっ、恋する女の子のパワーね。私達も負けてられないわ。」

「それでは私も。こんな話をしてても、力が手に入る訳ではありませんしね……」

 そこで、この集会も解散となった……


 激しい修行をする、ジェット達。その中のジェットとジョーとローレンスは、修行しながらも過去を思い出していた……

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