精霊の島
修行するにしても、場所から変える必要があった。三人は流されるように、船に乗せられた……
「精霊の島ァ?」
船を貸してくれたのは、ジェットのお父さんのジェイドだ。流石に彼の船は借りれなかったが、「多分使わないだろう」という船を拝借した。
「あそこは、世界の中心にある島でなぁ。良くわかんねー事ばっか起きるんだ。だから、ウチの船や乗組員は借りれねぇけど……あぁ、使わねぇ船ならやる。そんじゃあ、息子によろしくっつっといてくれ。」
「……という訳で、こうしたのだが。」
人魚の船乗りが、船を動かしながら海を進んでいる。ジェットとローレンスとジョーとレシアの四人は、何処か広い部屋でベリアと煉華先生の前で座っていた。しかも、わざわざホワイトボードや教卓、机や椅子までもが用意されており、まるで学校の授業風景みたいな事になっていた。
「いや、どういう訳だよ。」
ジェットが冷静に、そう突っ込む。それに対しては、「そこは流れでそうなってしまった」としか言いようが無い。
「いや、ちゃんと理由があるのだ。その、神力の事を説明しておこうと思ってな。」
「む……確かに、我々はこの力を存分に使っておいて、何も知らぬ。いい機会だ。」
ローレンスは、椅子に座り込んで姿勢を正す。
「そうね、私もさわり程度しか知らないし……」
レシアも同じく、姿勢を正した。
「まぁ、知った所で何の参考にもなるまいが……」
ジョーはそう言ってから、欠伸した。
「そう言うなよ、ジョー。知っといた方が応用もしやすくなるかも知れないだろ。」
ジェットはジョーに向きながら、授業を受ける体勢になる。
「じゃあ、号令をするぞー。」
煉華先生はそう言い、ローレンスの方を見る。それが指名代わりのものだと言うことは、何となく察せた。
「……号令までやるのか。」
彼は小さくそう言いながら、「起立」と言う。ジェットもジョーもレシアもノリよく、席から立った。
「気をつけ」の声で背筋を正し、「礼」の声でお辞儀をする。
三秒してから体を起こし、「着席」の声で皆座った。
「……ふむ、人間の学校とはこういうものか。心得ておく。」
ベリアはそう言って、咳をする。そしてペンを取り、覚えたての文字で『神力』と書いた。
「このように、『神』の『力』と書いてマントラと読むのだが、これがどのように発現するか分かるか?」
皆は、「いや……」というような感じで首を傾げたりしながら考える。そんな中、ジェットが顔を上げた。
「そう言えば、俺が初めてこの力を使ったのはハルピュイアと戦った時だな。」
「む、神力の発現の瞬間、何を思った?」
その言葉に、彼は詰まってしまう。
……知られたくねェけど、ウソ言ってもしゃあないよな。だって、あんな胸糞悪ぃ事──
「……過去の事を思い出してた。」
真剣な顔で、そう答えた。
ジョーは、気付いた。「あの顔だ」と。龍奈とやらが奴の過去の事に言及した時の、あの見せた事もないような顔──
「……そうか。それで、感情が爆発したのだな?」
「ああ、そんな感じに近いかな……今まで抑え込んできたものが、ぶわーって体から噴き出して──」
「それだ。それこそが、神力の発現だ。」
ベリアは、ホワイトボードに色々書き始める。水槽に『感情』と書かれた水が満たされているような図だ。
「このように、心が水槽だとすれば、感情は水。神力の発現の瞬間は感情の飽和になる。飽和した感情は溢れ、水槽が決壊する。抑えてきたものが噴き出すというのは、言い得て妙だな。」
「心がリミッターをかけてるのか?」
ローレンスの言葉に、ベリアは頷く。
「そうだ。そもそも、神力というのは人間に留まらず命全てに宿る神秘的な力だ。しかし、力は強大。それは、自らの体をも破壊しかねないほどの力だ。」
「ああ……たしかに。」
ジョーがそう言うと、ジェットとローレンスの二人も頷く。
レシアも、溜息を吐いた。
「そうね。私みたいなのが無理矢理会得すれば、三日ぐらい体を焼き焦がされるような感覚に襲われるわね。寝たら寝たで悪夢にうなされるし。」
「いや、レシアのは非常に特殊なケースだ。感情を爆発させずとも、神力を扱う方法が一つあるのだが、それを地で行っている。」
ベリアはそう言いながら、デフォルメされた可愛らしい、名状しがたきタコのような怪物と、狂気的な生ける炎を描いた。続いて矢印を書き、その先にこれまたデフォルメされたレシアを描く。
「神性を宿すのだ。神から直接力を受け取ることで、神力の発現も成される。ただし、その代償は大きい。下手をすれば、死ぬか発狂するかのどちらかだ。」
ここで、ジェットが「ハイッ」と手を挙げた。
「その、神様から直接力を受け取るって事は神様に会う必要があるんだろ?どうするんだ?」
「簡単だ。触媒を用意して召喚する。そうだろう?」
ベリアは、レシアに向いた。この先のことは、彼女の方が詳しそうだ。
「そうね。私は魔王城にあった二冊の異本で確かに神様を呼び出したわ。始めは、使い魔にする予定で一番強そうな邪神を呼び出したのだけれど、呼び出せたのは精神だけだった。でも、落胆する私に「俺の力の一部をやるから、もう起こさないでくんない?」って声をかけてね。変な怪光線を私に発射してから、そのまま帰っていったわ。でも、その後は酷いわね。サキュバスともあろう私が触手に絡め取られる悪夢に三日三晩うなされる事になるとは……」
彼女は困り顔から一転し、恍惚としたニヤついた笑顔になった。
「でも、慣れちゃえば癖になるわ。」
「うん、お前が変態だという事はよく分かった。」
ジェットは無表情で、レシアに向かって言った。
「下品な女め。」
「死ね。」
ローレンスとジョーも、そんな事を言う。その言葉の一つ一つが、レシアの心を突き刺した。
「授業中に公序良俗に反する言葉は禁止だ!」
煉華先生は、生徒達一人一人にゲンコツした。いずれも凄まじい威力で、全員は頭にタンコブを付けて倒れ込んだ。
「い、いってぇ……」
「初めて教師に怒られた……」
「相変わらず容赦ねぇ……」
「何で私まで……」
そのさまを、ベリアは目を点にして汗を垂らしながら眺めていた。
彼女は咳をして、仕切り直す。
「そうだな、その後レシアは生ける炎の方も呼び出し、その力を得たという訳だな。」
「あの時は、本当の地獄だったわ。流石の私も、炎上オナニーは出来ないわ。あっ、ごめんなさい煉華先生。拳を構えないで。」
ベリアは、とりあえずレシア達の絵を消す。
「しかし、その方法では到達できない……逆に言うと、ジェット達に到達できる領域がある。それは属性解放という現象で辿り着けるのだ。」
「む、我らと戦った時に何か言ってたな。そのような事……」
「俺は全く聞いてなかったが、なんだそりゃ?」
ベリアは、ホワイトボードに「喜」「怒」「哀」「楽」と書いた。
「属性解放は、神力がそのまま限界の壁をぶち破る事だ。可能性の域を突き抜け、とてつもない強さを発揮する……それが属性解放であり、その属性には四つ種類がある。まぁ、この通りではあるが。」
それで、喜怒哀楽。感情の四大要素だ。
「属性は、その者の気質に起因するな。ローレンスが哀で、ジョーが怒で、ジェットは楽といった所か。ちなみにヴォシム王女は、喜だ。ちなみに、この属性による有利不利は無い。これはただ、その者のポテンシャルを引き出すだけのものに過ぎない。有利不利は相手によるだろう。」
「はァ〜ん……」
とりあえず、属性解放……ジョーやローレンスの燃えるような変身や、ジェットの光の勇者の変身の正体が分かった。
「でも、ジェットの光の勇者の時の鎧は何なんだろうね。」
レシアがそう言うが、当のジェットも首を傾げた。
「俺もわからん。けど、勇者の証が何か勝手に反応して、あんな格好になってる。」
「ふむ、あの光の勇者の時の鎧か……私は、アレには何も感じなかった。アレがジェットの力を伸ばしているのかと思えば、どうやらそうでは無さそうだし……まァ、神力というのはまだ分からぬ事の方が多いからな。そういう事例もある、とだけ言っておこう。」
そんなんでいいのか……とは思ったが、仕方が無い。そういう事にしておく他は無いだろう。
「かく言う私も、神力を扱えるようになっている。」
煉華先生はいきなり、そんな事を言う。それで、ジョーが噴き出した。
「師匠、やけに強いと思ったら……!」
「ふん、弟子に出来て師匠に出来ぬ事は無い。」
とりあえずは、神力の事については以上だ。
有意義な授業だった。これを踏まえて修行した方が、よっぽど強くなれるだろう。
「……」
船が止まる。皆、何を言うでもなく外に出た。
そこには雄大な自然が広がっており、どこか神秘的な雰囲気の森林。その中心に聳える、葉が黄金色した大樹。
「……ここが、精霊の島か。」
「うむ、実在するとはな……」
ローレンスが、島を見渡す。
「この島は、ユニコーンやペガサス、ドラゴンの原種や巨人族、フェアリーなどの御伽噺に出てくるような存在が数多く居るという伝説がある。それゆえ、危険地帯。密猟者ですらこの島には近寄らない事から、存在が伝説視されていたのだが……」
「そうだな、ここなら修行に丁度いいかもな……!」
三人は早速降りる。女達はもうとっくに降りており、男達を待っていた。
「では、ここで説明しようか。」
ベリアはそう言いながら、この島を見上げる。
「この島が何なのかは、私はよく分かっていない。しかし、確かな事はこの島は霊脈が通っており、星のエナジーが非常に強い。これからは、四週間でお前らは自らの限界を突破してもらうつもりだが……出来るな?」
彼女が言い終わると、ジョーが笑った。
「四週間だァ?一ヶ月まるまるここに居りゃいいじゃねぇか。」
「いや、残り一週間はローゼで休んでもらう。決戦の日に疲れて戦えませんじゃ、話にならんからな。」
そう言うベリアの横には、目を輝かせてる煉華先生が居た。
「ア〜、うん。納得した。」
それでジョーは嫌でも納得させられ、頷く。
そうして、三人は精霊の島の中心へと向かった……
皆が去った後、船からは大きな樽が一個、この島に落ちた。
「ッラァアッ!!」
それは中からフタを蹴破れ、穴が開く。その穴から、二人の少女が出てきた。
「ったく、親分め〜……知らない女にノコノコついて行ったと思ったら、こんな所まで行きやがって……!」
一人はモルドレッド。白銀の剣を背に携えた、元円卓の騎士。
「勇者様が頑張ってるんだから、私も強くなりたい……!」
もう一人は、なんとヴォシム王女だった。細い剣を腰に携え、戦闘態勢は万端のようだ。
「よし、行くぞ王女サマ!」
「はいっ!」
二人は、ジェット達を追いかけた……




