戦場と化した街
ジェットが、龍奈に突撃する。しかし、彼女は飛び退いてそこらの屋根に立った。そして、イブキと水龍院にハンドサインする。彼女らはそれを見て、龍奈の横に飛び退いた。
「ふふ、つまらない人。」
「あらあら、もう撤退するのかしら?もっと愉しみたかったのですが。」
「私達は、まだ彼を倒してこいとは言われてないわ。それに、既に目的なら達成してある。」
「イブキ姉……いや、貴様らっ!!」
ローレンスが、彼女達に向く。
「何故、今になって迷い出た!?そして、このような暴挙に!?答えよっ!!」
「あらローくん、簡単な事。私達は貴方という怨敵を倒す為に、あの暗黒星の主と手を組んだだけの事。でも、何よりは──」
彼女はローレンスに向かって、無数の刀を飛ばしてきた。猛スピードでそれらは飛んできて、ローレンスに襲いかかる。
「ちぃいいっ!!」
彼はそれを手刀で凌ごうとするも、体の所々に傷を負った。
「クソ……!」
「そう、その顔。私は君の、その顔を見たいんだ。君の事がどうしようもなく愛おしいんだ……だから、私は君を殺す。指先からじっくりと切り刻んで、君の肉片も血もこの体に入れて、嬌声を耳にしながら、たっぷりと私の愛を注ぎ込み、愛してやろう。」
「狂ったか……!!」
戸惑うローレンスの横から、ジョーが飛び出した。その場でジャンプし、拳を振りかぶる。
「水龍院ッッ!!何故貴様は俺から逃げたァアアアッ!!!」
そう言いながら、拳を放った。彼の言葉を聞いた彼女は、額に青筋を浮かべて目を鋭くした。
「逃げていませんわ……!!私は、断じてェエッ!!!」
彼の拳を避けながら、その腹にアッパーする。
「ごはぁああっ!?」
「消えろォオッ!!」
そして踵落としして、彼を地へぶっ飛ばした。あまりの衝撃に、叩きつけられた地面から彼の体が大きくバウンドした。
「っぐぅうっ!!」
しかし空中で回転して体勢を整え、着地した。その頭から、血が垂れる。
「亜門さん……」
「……」
ジェットは、龍奈の顔を見ていた。
「お前が何を思ってるのかは、知ったこっちゃねぇ……ただ、俺の過去を引っ張り出して俺を束縛するッてんなら……俺は、お前を許すつもりは無い。」
「私には分かる……君はまだ、苦しんでるんだって。皆の前でどんなに平気な顔して笑ってても、誰も見てない所で助けを求めてるんだ。」
「……聞けよ。」
ジェットはバツが悪そうにそう言うが、彼女は盲目的な感情のままに彼を見つめ続けた。
「……絶対に、助けてみせる。幸せにしてみせるからね。」
そう言って踵を返し、空高く天へ飛んで行った。ほかの二人も、彼女を追うように飛んでいく。
「……クソッ!!」
「舐めやがって……!!」
「……二人とも、気持ちは分かるが今はそんな暇は無い。」
三人の周囲を、魔物達が取り囲む。
「あらあら、いいオスの人間がいるじゃない……!」
蛇の下半身を持った魔物が、そう言って長い舌で舌なめずりする。
「美味しそう……骨ごと、バリバリと食べちゃいたいわぁ……」
蜘蛛の下半身を持った魔物が、手の指をボキボキ鳴らしながら前に出た。
「うふふ、酔わせてあげる……そして、引き裂いてあげましょうか……」
植物の体を持った魔物が、花粉をその手に付ける。
ジェット達は背を合わせ、構える。
「……ア〜、そうだな。」
「全部、ゲームで見た事あンなぁ……」
「よし、種族名はそれで呼ぼう。」
下半身が蜘蛛の魔物……アラクネ。
植物の体をした魔物……アルラウネ。
下半身が蛇の魔物……ラミア。
まだ見ぬ敵達を前に、三人は突撃した。
「せぇえいやぁああッ!!」
ローレンスが、回転しながら手刀を振るう。それで、敵達は細切れになった。
「なにっ!?」
「有像無像共が……生きて帰れると思うなァアッッッ!!」
ジョーがそう叫びながら飛び上がり、地上に向けて拳を連打する。そこから拳圧の雨が降り注ぎ、敵達を叩き潰した。
「こういう時に剣が無いと、スマートに決まらねぇ。」
ジェットは文句を垂れながら、容赦なく敵の群れに拳を連打していた。その拳は当たった所を吹き飛ばし、一振りで最低三体は死傷させた。
「ふんっ!!はぁっ!!オラァッ!!」
神速の拳を振るう最中に、その背後からラミアが迫ってくる。そして、鋭い爪で斬りかかった。
「おっとぉ!」
それを腕でガードし、後ろ回し蹴りした。それは彼女の頭に当たり、それは「フシャッ」という音と共に弾けた。
彼らは敵を蹴散らしながら、進む。そして、レストラン街から出た。
大通りのそこらには人間と魔物の死体が転がっていた。八つ裂きにされた一般市民や、下半身を溶かされ頭を食いちぎられた子供まで。槍を持ったまま身体に風穴開けた兵士とかも居た。
「ハァアッ!!」
「人間をなめるなよ……!!」
兵士達が、槍を持って戦ってる。ローゼの兵士は優秀で、一人で最低三体殺すまでは絶対に倒れなかった。死んだ同胞には気を留めずに必死に戦っている。
「狂ってるのは、魔物だけじゃねェってか……」
ジョーが、戦況を見ながらそんな事を呟く。
「平気か!?」
ジェットが参戦し、魔物を蹴散らし始めた。
「新人っ!!」
「とんだ休日だなぁ!ったく!!」
兵士の一人と背中を合わせ、敵を片付ける。
「市民は!?」
「王宮の地下に避難させた!そして、城門前で兵士達が戦ってる筈だ!」
「城門前だな?」
ローレンスが、彼らの横を駆ける。そして大きく跳躍し、上空を飛んで城へ向かった。
「待てやゴラッ!!」
ジョーは彼を追いかけ、飛んで行った。
「ジェットさん!アンタも城門前に行ってくれ!!ここは俺達だけで充分だ!!」
「無理だ!お前だって、もう限界超えてんだろ!!」
「城門前の連中は、もっと大変な筈だぁあっ!!」
「だけど……!!」
周囲を見る。敵は湧くように周囲から登場し、こちらに襲いかかっていた。この場を離れたら、この兵士が数の暴力で殺されてしまう。
「この辺に人間は居ないわね?」
突如、声がした。兵士がそれに気付き、振り向く。
「ん……!?逃げ遅れた市民かっ!?皆、避難している筈だ!君も早く──」
振り向いた先……生ける炎が爆発し、周囲の魔物を焼き尽くした。耐え難き猛熱が、兵士の肌を襲う。しかし、特に不自由になる事は無かった。
「!!!?」
「レシアさんっ!!」
生ける炎を宿したレシアが登場したのだ。その体の半分が燃え盛っているが、これが彼女の変身形態だ。
「さぁジェット、この場は私に任せて。」
「分かった!!」
ジェットは飛び去り、交代にレシアが来る。彼女は指をボキボキ鳴らしながら、構えた。
「いあ、いあ、くとぅぐあ……!」
そう呟いた瞬間、炎が激しくなる。そして、魔物と交戦したのだった……
城門前……
魔物が集合し、兵士達とぶつかり合っていた。
鳴り響く、刃と固いものがぶつかり合う甲高い音。人間の、または魔物の断末魔。血が周囲に飛び散り、地面を血で汚していた。
「せぇえええいッ!!!」
ローレンスがそこに着地し、それと同時に一体を切り伏せた。
「オラオラぁ!」
「ヒャッハーッッ!!」
二人も戦線に立ち、辺りの魔物を蹴散らす。三人の手によって、みるみるうちに戦況が人間の有利になった。
「ジェットさんっ!」
「あァっ!?」
こちらを呼ぶ、兵士の声。辺りの敵を吹き飛ばしながら、そっちへ向かった。
「お、王室に急いで下さい……!この魔物達の統率者らしき魔物が、そこに向かってしまいました……!」
兵士の視線の先……無理矢理ぶち破られたかのように、扉が開いていた。
「ああ、そうかっ!」
ジェットは気を解放し、そこに向かう。壁になる魔物を次々に貫通し、城へ押し入った。
「面白そうだ、行こう!」
ジョーがそう言い、ジェットの後を駆ける。
「ああ!」
ローレンスも彼と並び、走った……
城の中は城の中で、そこそこ魔物がいた。しかし、その尽くを叩き潰しながらジェット達は走る。そして、王の間の扉を蹴破った。
「王様っ!!無事かッッ!!?」
「うん。」
ローゼ王は敵と交戦しながら、何気なく返事をした。
「平気そうじゃねぇか……」
「貴方、そんなに強かったのですか……?」
「今でも鍛錬は続けておるからのう。」
杖を振るいながら、猛攻を凌ぎ続けるローゼ王……その相手は、そこそこ強そうなデビルだった。感じられる戦闘力なら、ハルピュイアより上だ。そんな相手にも関わらず、王は魔術も気も使わずに、杖だけで圧倒していた。
「なぜだ……!!なぜ私が、このような老いぼれなんぞに……!!」
「私はこの国の代表ぞ。力が無くてどうする。」
王はそう言いながらニヒルに笑い、杖を槍のように構える。そして、とてつもない速さの三連突きをしてから、彼女を蹴り飛ばした。
「ぐぁああっ!?」
猛スピードでぶっ飛び、壁に叩きつけられる。しかし、着地して王を睨んだ。
「お、おのれ……!!」
「さァて、若者の前でイキる老いぼれなんぞダサいことこの上ない。そろそろ、終わらせちゃおうかのう。」
彼はそう言い、杖を構え直す。
「く……!!終わるのは、貴様だァアアアッ!!!」
彼女は腕に神力を纏い、気を爆発させる。
「ヤツめ、神力を扱えるのか!?」
「王様、逃げ──」
ローレンスとジェットは狼狽える。しかし──
次の瞬間、王はその場に残像を残し、瞬間移動のようなスピードで彼女の懐に入った。攻撃が形になる寸前に接近された彼女、王の接近には気付かず。
「はっ!!」
王はそんな彼女に手を向け、とてつもないエネルギーを炸裂させて、消し飛ばした。
「ろ……!?」
「な、な……!!見えなかった……この我が……全く……!!」
唖然とする、ジェットとローレンス。その横で、ジョーがクスクス笑っていた。
「オイオイ、あの爺ィが魔王倒した方が早かったんじゃねェか?」
そんな彼に、王が向いた。
「いいや、ジョーよ。私はなるべく若い世代にこの世界を救って欲しかったのだ。老いぼれた私が出しゃばった所で、世界の為にはならんからのう。」
「とんだ鬼畜ジジィだな。これまで死んでいった10年分の命が聞いたら、地獄から襲いかかってきそうだぜ。」
「そのような事はどうでもいい。魔物達の連中が撤退しているぞ。」
ローレンスの言う通り、この城を囲んでいた気は消え失せ、空に戻って行ったのが感じられた。三人はそれを確認し、普通の状態に戻った。
「……これで、敵は去ったといった所かのう……しかし……そうか、やはり来てしまったか。」
「やはり……?」
王は玉座に座り、溜息を吐いた。
「暗黒星……君たちも、聞いたことぐらいはあるだろう。15年前に突如この星にやってきた、空に浮かぶ黒い丸。アレこそが、魔物の本拠地である暗黒星だ。」
王の間の窓から、空を見る。あの黒い丸は、未だに浮かんでいた。
「はい、父から伺っています……」
「ったく、噂は全部本当だったってか……!」
「まぁ、おおかたベリアル8世の気の消失を感じてやってきたって所か……でも、そうしたら何でアイツらは奴と手を組んでるのかな。」
ジョーがそれを聞き、目の周囲に青筋を浮かべる。
「ヘッ、道理でこの星のどこを探しても見つからなかった訳だ……畜生がァッッ!!!」
彼がそう言いながら、壁を殴る。その壁が粉砕し、崩落した。
「……ジョー……」
「……」
その場は、沈黙に包まれた……
しばらくして、突如ジェットの携帯が通知のバイブを鳴らした。
「ん?」
携帯を取り出し、画面を見る。通知は、SNSのアプリからのようだ。それを開き、内容を確認する──
「……ッ!!」
驚愕の内容だった。彼の反応を見て、ジョーとローレンスの二人も自分の携帯を取り、SNSを確認した。
「なんてこった……!」
「そんな、馬鹿な……!」
世界中が、魔物に襲われている。向こうもなりふり構わず、こちらに牙を剥いた。
「むぅう……そうか、私の判断ミスか……!まさか、このような事になろうとは……!」
王は頭を抱えて、うずくまる。
「王様、アンタが悔やんでても仕方ねぇ。やったの俺達だし。」
「そうだな、今は我らが──」
またしても、携帯がバイブする。しかし、アプリの通知でもなくメールや通話の受信でもないようだ。
「な、なんだ……!?」
鳴り止まないバイブに、三人は不安を覚え始めた、その時だった。携帯の画面に、銀髪で悪魔のような角を生やした美女が映し出された。
「やぁ、地球の人間ども。御機嫌よう。」
美女は笑いながら、喋り始めたのだった……




