到来
魔王を倒した、ジェット達。彼らは彼らなりの日常へ戻ったのだった。
そして、一ヶ月後──
あの時の三人は休みが合ったので、街の中央に集合した。
「おーっす。待ったー?」
ジェットが、一番遅れて来る。
「あァ、今着いた所だ。」
「うむ。じゃあ、まずはゲーセンだったか?」
三人はこのメンバーに愛着が湧いていた。おそらくこのメンバーの誰が欠けても、魔王を倒すのは不可能だっただろう。
「よっしゃあ、行こうぜ!」
三人は、遊びに出かけたのだった。自らの手で勝ち取った平和を、満喫したのだった。
もう、自由の邪魔をする者は居ない。彼らは、勝ったのだ──
「……」
ジェットは、怪訝な顔で後方を向いた。
「どうした、ジェット?」
「何か居るのか?」
ジョーとローレンスが、小腹にケバブを齧りながら彼と同じ方を向く。しかし、そこには特に怪しげな人影は無かった。
「……いや、ちょっと嫌な視線を感じてな。」
「嫌な視線だァ?そんなの、何時でも感じるだろうが。」
世界を救った勇者とだけあって、周囲の目は好奇な色で彼らをチラ見する者が多かった。しかし、その尽くがジョーの眼光に負け、視線を逸らす。
「いや……周囲を警戒しておこう。ただのパパラッチもどきなら、良いのだがな。」
ローレンスはそう言い、ジェットとジョーは頷いた。勘のいいジェットが何かに気付いた以上、ただ事ではないのは確か。
しかし、今は遊びの場。なるべく細かい事は気にせず、楽しんでおこう──
特にこれと言った事件は起こらず、三人は遊んでいた。そして昼飯を食べようと、レストラン街を歩いていた。
「さっきケバブ食ったのに、まだ食うのかよ。」
「王室前で突っ立ってるだけのテメェとは、必要なエネルギーが違うんだよ。」
「そう言うな、ジョーよ。ジェットは我らの中で一番優秀なだけの事。」
ジョーをなだめた後、ローレンスはニヤニヤと笑った。
「それに、より効率的にエネルギーを補給できる弁当を作ってくれる奥さんまで居るそうじゃないか。」
「あァ!?」
ジェットは、キレ気味で彼に向く。しかし、その雰囲気は徐々に大人しくなった。
「バッカ、レシアさんは……何か、お母さんっぽい事してくれる。」
生活の支援をしてくれる以上、文句は言えない。そう思って、否定的な事は言わなかった。
「オイオイ、あのレシアがまさかのお母さん化かよ……」
「まぁ、人間と共存している以上は……」
「うん、すっごく良くして貰ってるよ……一人よりゃ、ずっと生活が良くなったわ。」
ジェットはそう言うと、ジョーに向いた。
「所で、あの子分はどうした?」
「あァ、モルドレッドか。たまに不意打ちに喧嘩仕掛けてくる。まだ負けてねぇが、こないだダウンを許しちまった。」
「なんだかんだで、戦いは続いてるんだな……」
「ふぅん、俺とどっちが強い?」
ローレンスが、妬き気味に聞く。
「テメェの方が強いに決まってんだろうが。」
「あ、あァ……」
彼はジョーの答えを聞き、恥ずかしそうに顔を逸らした。
「つーか、テメェも日に日に強くなってるけど……何か、特別な修行でもしてンのか?」
「ああ……最近、ベリアが家に住み始めてな。たまに修行をつけてもらっている。」
「ベリアがかッ!?」
「西の復興してんじゃねぇの?あいつ。」
「家から西へ飛んでる。」
メンバーは、今の自分の生活の話に花を咲かせながら、進む。
「でも、やっぱりレシアさんが来てくれて俺は幸せだぜ。色々うるせぇ事は言うけど、家事とか料理とか色々してくれてさ……」
「やはり母親ではないか。」
ローレンスがそう言うと、三人は笑った……
「へぇ、そうなんだ……」
突如として、背後からシリアスな声が聞こえた。三人は振り向き、そっちに向く。
「……?」
そこには、黒髪ロングで、自分達と同い年程度の女が立っていた。ジェットがその顔を見て、嬉しそうな顔をした。
「あぁ!亜門さん!久しぶりじゃん!元気してた!?」
彼は、亜門と呼んだ彼女に歩き寄る。
「何だジェット、知り合いか?」
「ああ、亜門龍奈さん!学生時代クラスの委員同じでさ、頭も良くて、よく俺に勉強とか教えてくれた人だ!そんでもって、アカデミーの卒業試験で2位だった人!いや〜、まさかこんな所で会えるなんて!」
「うん……ジェット、久しぶりだね。」
彼女は、ジェットの目を見る。その顔は、どこか悲しげだった。
「あの日の事が、ウソみたいだね。」
「あ、ああ……うん、そうだな。それじゃあ俺らここから遊びに行くから──」
「目を逸らさないで。」
彼女はジェットの手を掴み、引き止めた。
「どうして……どうして、私じゃ君を救えなかったの?どうして、君はその笑顔を私に向けてくれなかったの?」
「……ッおい……」
その時彼は、確信した。先程から感じていた妙な気配の正体は、コイツだと。
「私が弱かったから!?私が君より劣ってたから!?そうでしょ!?」
「オイ、そこまでにしておけ……!」
ローレンスが、その手を引き剥がそうとしたその時だった。彼女は彼の鳩尾に掌底し、ぶっ飛ばした。
「!!!?」
猛スピードで吹っ飛び、そこらのレストランの壁に激突した。そこが粉砕し、木材やらガラス片やらが舞い散る。ゴトリと食品サンプルが落ちて、二、三回転した。
「ン何ッ!!?」
「ローレンスッ!!」
二人が驚くと同時に、そこら辺の通行人が叫んだ。尋常ならざる状況に、四人を中心に輪が広がった。
「邪魔しないでよ……!!今は、私とジェットくんが話してる最中でしょ!?」
「ぐ……!」
ローレンスは難なく起き上がり、首をゴキゴキ鳴らす。そして、血混じりの唾をそこらに吐いた。
彼女はそんな彼の方を見向きもせず、ジェットに迫っていた。
「ねぇ、私こんなに強くなったよ……?こんな力を手に入れられたんだよ……?だから、お願い……!私を見てよ!あの時向けたあの優しい笑顔を、もう一回だけ私に見せてよ!私なら、君を守ってあげられるから!君の傷跡も痛みも全部、忘れさせてあげるから!だから──」
彼女は泣きながら、ジェットに縋る。彼はそんな彼女を引き剥がし、顔面に本気の両足蹴りした。
「……お断りだ……!!」
着地しながら、彼女に眼光を向ける。ジョーはそんな彼の横顔を見て、ゾッとした。
あの冒険の最中ですら見せなかった、怒りと憎悪が練り込まれた表情。こんなジェットを見るのは、彼も初めてだった。
「お、オイ……ジェット……」
「久しぶりに会ったと思えば、嫌な事思い出させやがって……!!テメェ、マジで殺してやろうか……アァ!?」
ジョーの静止にも関わらず、ジェットは龍奈に怒りを向ける。彼女は起き上がりながら、鼻血と涙と拭った。
「……そう。まだ、私のものにはならないんだね……じゃあ、仕方ないよね。」
彼女が、指を天に向ける。
「……」
「……あぁ?」
必然的に、その場に居た者は上を見上げる事になった。
見上げた空──雲混じりの青空に、突如として黒い点が現れる。それは次第に大きくなった。それはここから観測すると野球ボール程度の大きさで止まる。そして、何かが降りてきた──
「アハハハッ!」
「この星の命を滅ぼせばいいのね!」
魔物だ。魔物が、この星に降り立ってきた。それも、サキュバスやデーモンといった魔物から、下半身が蜘蛛のような魔物、植物で体組織を形成した魔物といった、異形の魔物達だった。しかも、その何れも美しい女性の姿をとっていた。
魔物達は地に降り立つなり、そこら辺の人々を襲い始めた。
「クソッ!!」
ローレンスは上着を脱ぎ捨て、手刀に神力を纏う。そして、魔物の群れに突撃しようとした。しかし、その眼前に数本の刀が突き刺さった。
「なにっ!?」
彼は急ブレーキして、上を見上げる。
「やぁローくん、久しぶりだねぇ……」
髪を結った、和服の美人が降りてきた。ローレンスはその顔を見て、ギョッとした。
「イブキ姉さん……!?」
知っている顔だ。我が知らないはずがない。何故ならば、彼女は我の許嫁だった女だ。
「うふふ、覚えてくれてたのね……じゃあ早速だけど、死合いましょうか。」
彼女の周囲が光り、そこから何本か刀が出てくる。その内の二本を両手で取り、二刀流の構えを取ってから、それをローレンスに向ける。するとその周囲の刀が彼の方を向き、一直線に飛んだ。
「ちぃいっ!!」
ローレンスはサングラスを外し、手刀でそれらを次々に切り落とした。切り落とし終わった後、今度はイブキが突撃してきて、斬りかかった。
「ぐっ!!」
斬撃を、手刀で受け止める。それはとてつもない重さで、神力越しの手刀がビリビリと痺れていた。
「く……ジョー、市民を助けろ!!俺は忙しい!!」
ローレンスがそう言うと、その横からジョーが飛び出す。
「言われずとも……!!」
彼はそこで地面に踏ん張り、跳んだ。しかし、突如として何処からか飛び蹴りが飛んできて、ジョーを打ち抜いた。
「っぐはぁあっ!?」
ジョーを蹴った影は、彼を追いかける。そして拳を振るい、猛烈なラッシュを仕掛けてきた。
「……!!」
ジョーは、嫌な事に気付いた。この拳の感じ……ラッシュの癖……覚えている。忘れるわけが無い。これは、己の怨敵……!!
「集中力が無いのは、相変わらずですわね。」
考えていたら、背後に回り込まれた。彼女は、ジョーの背に正拳突きして、ぶっ飛ばした。
「ーーーッッッ!!!」
彼は大通りを切るように吹っ飛ぶも、体勢を整えて着地する。そして、改めて敵の方を見た。やはり、覚えのある顔だった。
「テメェ……!!!」
「御機嫌よう、また会ったわねぇ。野蛮なお猿さん。」
金髪でツインテールの、お淑やかで胸の大きいお嬢様風の女……水龍院カナコ。その人だ。
それを確認した瞬間、彼が今まで抑えていた怒りが噴き上げた。
「その顔ッッッ──」
地に足を踏ん張り、怒りのままに拳を握り、そこに魔力を込める。怒りは魔力を炎に変え、その拳は紅蓮に包まれた。
「──ン殴らせろぉオオオーーーッッッ!!!!」
そして、猛スピードで彼女に突撃する。
「うふふふっ……もう、私は以前の私とは違いますわ……今度は、ブッ殺してやりますわ。覚悟なさい……!!!」
水龍院は拳を握り、彼と激突したのだった。
ジョーとローレンスは、それぞれの敵と攻防する。ジェットも、龍奈と攻防していた。
「そんなものなの……?魔王を倒した力ってのは……!」
拳と拳が飛び交う、ハイスピードのバトル。しかし、ジェットが劣勢だった。
「ぐ……!!」
純粋な手数とパワーで、押し負けそうになっている。
「私は、君より強いんだ……!!」
そう言いながら彼女は飛び退き、距離を取る。そして懐からナイフを取り出し、投擲した。
「くっ!?」
それを避けるも、刃が頬に掠り、血が垂れる。
「やぁあっ!!」
次の瞬間、彼女は既にその眼前にまで迫っていた。そして、ジェットの顔面に思いっきりハイキックした。
「ぐぁああっ!!」
彼はぶっ飛んで、そこらに倒れた。そして、立ち上がろうとする。
「ハァッ……ハァッ……!!」
「ぐぁあああ!!」
「ガハァアッ!」
ジョーとローレンスが、左右に倒れてきた。二人も、押し負けていたようだ。
「な、なんてこった……強すぎる……!!」
「っクソが……!!」
「ふむぅ……」
三人の前に現れた、因縁。そして、空に現れた暗黒と、そこからやってきた魔物──
「……いくぞぉおおおッッッ!!!」
ジェットは、再び立ち上がる。その身体に神力を込め、聖なる鎧を纏った勇者と化した。
「手加減無しだ……!!」
ローレンスはそう言い、燃えるような青のオーラを纏い、眼光を青に光らせた。
「はぁあああッ!!」
ジョーも燃え盛る紅蓮のオーラを纏い、その目を赤黒く染める。
三人は、再び立ち上がった。世界を救ったその力を惜しみなく解放し、彼女達と向かい合う。
「だーーーッ!!!」
ジェットが先頭を走り、突撃したのだった。




