ぼうけんの終わり
魔王を倒した、三人。倒れ込みながら息を切らし、笑っていた。
「……まさか、ホントにいけるとは思わなかった。」
「ああ、我もだ。」
「フン……ヒヒヒッ、やったじゃねぇか……」
三人が見上げる空は、青かった。太陽の光が顔に当たり、何だか清々しい気分になる。それで、思わず笑みが零れた。
「勇者様ーっ!!」
ヴォシム王女は走り、ジェットに駆け寄った。
「あ、王女様。」
ジェットは起き上がり、彼女の方へ向く。
「やりましたね、勇者様!!かの悪しき魔王は倒され、この世界に平和が戻りました!」
「ああ、よかったよかった。」
喜ぶ彼女に、彼は適当に返事する。そして、刃の折れた剣を杖代わりにして立ち上がった。
「……ア〜、王女様。」
「すまない、治療を頼む。」
右腕が炭のように黒焦げになったジョーが、足が粉砕したローレンスの肩を持ちながらヴォシム王女に話しかけた。
「きゃーっ!!?」
彼女はそれを見て、パニックになってしまった。
「あっはっはっは。」
ジェットはそれを見て、笑う。その隣に、レシアが座ってきた。
「……可愛いわね、王女様。」
不貞腐れた顔で、そんな事を言う。彼はそれに対し、「ふふっ」と笑った。
「あんたの方が可愛い。」
「っ……!」
彼女は、それを聞いて顔を赤くする。そして、彼をヘッドロックした。
「いでででででっ!」
「このぉっ!私がサキュバスだからって!わからず屋っ!朴念仁!」
「離してやれ、レシアよ。」
そう声をかけてきたのは、ベリアだった。
「あっ……ベリア……様……」
「もう、様付けする必要はない。」
そう言いながら、彼女はジェットの前に立った。
「さて、勇者よ。突然ですまないが、私を鎖で拘束してほしい。」
「はっ!?」
いきなりハードな緊縛プレイを強要されて、彼は素っ頓狂な声を上げた。しかし彼女は、ふざけている訳ではなかった。
「母の成したこと……それを拭えるのは私だけしか居ない。故に、私をこの星の一番大きな国に連れて、処刑なり何なりすれば良い。されば魔物達はこの星から離れ、お前達に真の平和が訪れるハズだ……」
「いや、多分無理だと思うぜ。」
ジェットは、真面目な顔で即答した。それで、彼女は驚いた顔をする。
「何故だ……」
「人間はそこまで、単純な生き物じゃねぇの。このまま死ねると思うなって事。」
彼女は、唾を飲む。しかし目を鋭くして拳を握り込み、真っ直ぐな目で彼を見つめた。
「私は、どんな罰でも甘んじて受け入れよう……!」
「あと、自首すんなら鎖とか要らなくね。俺と一緒にローゼまで行って、王様と話付けてみようぜ。」
「……分かった。」
ジェットとベリアは、早速やる事が見つかったようだ。
「我らも帰るぞ。ローゼにな。」
「あァ……ったく、結局水龍院の奴は見つかんねェままかよ……」
「死んだのではないか?」
「探すのに飽きたらそう思う事にする。」
二人はそんな会話をする。そのジョーの背に、モルドレッドが抱きついた。
「おやぶーんっ!!アタシもお供するぜ〜っ!!」
「あァッ!?」
それを見て、ローレンスはクスリと笑った。
「ああ親分、貴様には下っ端が居たのだったな。」
彼の挑発に、青筋を立ててイラつくジョー。
「だァかァらァ、俺は親分になった覚えは無ーぇッッ!!」
激怒するジョーの背で、モルドレッドは彼の顔を見て笑った。
「いいじゃんかよ、親分!これからアタシ、親分について行く事にしたんだし!」
「来んなや!!」
ジョーのその声で、二人は大笑いする。そして、戦士達は魔の大陸から己が向かうべき所へと向かったのだった……
ローゼ王国、王の間……
ローゼ王は帰ってきたジェット達を見るなり、ぎょっとした。
「勇者ジェットよ、遂にやりおったな……というか、なんじゃそりゃ。君、まさか道中で魔物まで仲間にしたのか?」
「別に、敵意とか無いし協力的だったから……」
そう言うジェットの横には、人間の衣服を纏ったベリアとレシアが居た。
「知れたこと。魔物側から、直々に降伏宣言をしに来たのだ。」
「な、何で私まで……」
ベリアは、堂々とローゼ王に向かう。レシアは周囲を見ながら、緊張しているようだ。
「あ、降伏宣言?戦い、やめてくれるの?」
「ああ……我が母、ベリアル8世亡き今、魔物達に人間と戦う力など無い。そして、私はこの星の人類に害を与えるつもりは無い。」
「ふむぅ、分かった。各国にはそのように情報を伝達させておく。あと、自己防衛で無い限り魔物に危害を加えさせるのも止めさせよう。」
ローゼ王はそう言い、秘書を集めて色々と話し始めた。それを前に、ベリアは驚いた顔をする。
「……私達は、処刑しないのか?」
「処刑?なんでそんな事する必要がある?戦いはもう終わったんだし、死体蹴りまがいの事など、やるだけ無駄だろう。さぁ、貴女達には西の大陸の復興を始めてもらおうかの。」
「私達は、人類の敵だったんだぞ……それを、放っておくのか?」
王は作業を一旦止め、頭を搔く。
「そちらが降参した以上、人間のやり方に付き合ってもらおうと思ってな。それに、もう私達の敵対関係は終わったのだ。少しずつで良い、歩み寄ろうではないか。何十年……いや、何百年かけて、お互いに歩み寄ろう。戦いは終わったのだ、これからは歩み合いの時間だ。」
ローゼ王はそう言って、作業へ戻った。
「……感謝するッ!」
ベリアは、彼に向かって頭を下げた。これにて、10年続いた魔物と人間の戦いに、終止符が打たれたのだった……
かくして、勇者ジェットは悪しき魔王を打ち倒した。彼とジョーとローレンスはローゼに留まりながら、救世の英雄と讃えられた。彼らには相応の報酬が受け渡され、それぞれの日常に帰ったのだった。しかし、多少なりとその日常は違っていた。
「起きなさい、ジェット!おーきーなーさーいー!」
エプロンを着けたレシアが、おたまでフライパンをカンカン叩きながら、ジェットを起こす。
「あァッ!?レシアさんっ!?」
彼はそれが彼女の声だと分かった瞬間、バネ細工のように起き上がった。
「いつまで寝てるのよ!早く起きて支度して、王宮の仕事に行くんでしょ!?」
「いや、分かってる!分かってるとも!だが、何でアンタが居るんだ!」
「何でって、私は君しかアテが無いの!今日からここに泊まらせて貰うからね!ほら、朝食出来てるから、食べなさい!嫌とは言わせないわよ!食え!」
辺りを見回すと、部屋が綺麗に片付いていた。時計起きにしていた参考書は本棚にキッチリと仕舞われていた。散乱してたカップラーメンのカップは全て消え失せていた。机の上コーヒーの缶も無く、適当に置かれていたパソコンも邪魔にならない所に置かれていた。机には、刻みキャベツと目玉焼きとベーコンが盛り付けられた皿が並んでいた。
「あっ!勝手に冷蔵庫の中覗きやがったな!」
「悪いか!つーか、半年前のヤングコーンぐらい捨てなさい!!ただの老いぼれじゃない!!」
「うるせぇな、魔物と人間の学生は生活に違いって奴があってなぁ、中々そういう時間取れねぇんだよ!!」
「ハイハイハイ、いいから朝飯食えっ!オラァ!!」
レシアは、ジェットに焼きあがったトーストを渡した。
「ああくそっ!!いただきまーすっ!!」
彼はそれを受け取り、トーストを齧りながら朝食を摂った。食べていく内に、頭が冷静になる。
「……レシアさん。」
「何よ。」
彼女は、パンを齧りながらジェットを見る。彼は、真っ直ぐな瞳で彼女を見つめていた。
「ありがとう、俺にここまでしてくれて。」
「……っ!?」
「あんた、本当に優しいんだな。」
「〜〜〜っ!」
彼女は、みるみるうちに顔を赤くする。
「だまれっ!さっさと食べて、仕事行きなさいっ!私は、まだこの部屋を片付けなきゃなんないんだから!」
「あぁっ!?てめぇ、人が真剣に感謝してる所を!!まぁいい、そういう訳だ!!俺はこいつ食ったら、とっとと仕事に向かう!!おっと、職場は私服オッケーな所だ!ネクタイ締めとか、そんな夫婦じみた事はしなくて結構!!」
「うるちゃーいっ!!とっとと仕事に行けーっ!!」
二人はさっさと朝飯を食べて、身支度をする。
「弁当!!」
「ありがとよ!!」
レシアから渡された弁当をバッグに仕舞い、部屋から出る。そして、城下町を駆けた……
道中……新しく家を作ろうとしていた所に遭遇した。
「あ、よォ。」
そこでジョーが、上裸のまま馬鹿みたいな量の木材の束を片腕で持ち上げていた。
「いや、お前馬鹿なのか。何で上裸なんだよ。」
「いいじゃねェか、暑ぃんだからよ。」
「お前が上裸で汗かいてると、何かこっちまで暑苦しくなってくるわ。」
「喧嘩売ってンのか?」
喧嘩っ早い性格は相変わらずのようで、少しホッとした。
「おやぶーんっ!!」
タンクトップ姿のモルドレッドが、彼に駆け寄る。
「あァ、モルドレッド。運び終わったのか。」
「うんっ!あっ!お前はジェット!」
「どうも、ジェットです。」
ジェットは彼女に会釈し、ジョーの方へ再び向いた。彼は彼で、モルドレッドに二、三言伝える。すると彼女は元気よく、「了解だ、親分!」と言ってどこかに走った。
「所で、お前何でそんな事してんの?」
そう聞くと、彼は溜息をついた。
「馬鹿力しか取得のねェ俺が出来るのは、こんな仕事だけだ。悪いか。」
「悪くはねぇんだ。ただ、仕事の動機が聞きたくて……」
「人探しに世界駆け回るのも、金が必要なんだよ。」
「あ、そう……」
彼と一緒に歩きながら、何気ない会話を交わし始めた。
「ローレンスって今何してんの?」
「ローゼの王宮直々の自然保護官だとよ。まぁ、どいつもこいつもやる事は平凡……いや、身分相応って所か。」
「あぁ……皮肉だなぁ。勇者としての使命は果たせても、俺の理想は叶わねぇ。はぁ、勇者業に己の理想なんてあると思ったのがアホだったのか。」
「だが、無駄じゃねェ。俺達があの冒険で手に入れたものは、決して無意味なものじゃねェハズだ……お、噂をすれば。」
「む。」
ローレンスが、歩いてきた。自然保護官の制服を身に纏っており、仮面の代わりにサングラスをかけていた。
そんな彼の姿を見て、ジョーが大笑いした。
「ヒャーッハッハッハッ!何だ、テメェその格好!似合わねぇ!ヒャッハッハッハッハ!」
「そうだな。しかし、貴様の方が余程阿呆らしく見える。」
「殺すぞテメェ。」
ローレンスの挑発に、ジョーは青筋を一本立てる。そして、二人は睨み合った。
「ほう、我らの戦いはまだ終わらぬようだな。しかし、今の我には時間が無いのでね。」
「そりゃお互い様だ。なら、短時間でケリをつけるまでだろうが。」
両者は目力をぶつけ合い、バチバチとメンチ切り合った。ジェットがその二人の胸を押し、二人を引き剥がした。
「ハイハイハイ、せめて俺の居ねぇ所でやってくれ。俺も、あんま余裕無いんだから。」
離された二人は、互いを見て笑った。
「フン、勇者サマのおかげで命拾いしたな。」
ジョーは、ニヤニヤ笑いながら言う。
「その台詞、貴様に返してやる。」
ローレンスもそう言い、歩き出した。そうして彼は二人に手を振り、歩き去っていった。
「……ンじゃ、俺も道がこっちなんでな。」
Y字路の真ん中で、二人は止まった。ジョーは左に、ジェットは右に向かおうとしているのだ。
「ああ。お前ら二人とも、変わんない様子で良かったよ。」
「変わってねェのはテメェもだ。それじゃあな。」
二人は互いに手を振り、己の進むべき道を進んだのだった──
中章ラストです。




